大書斎へゆくぞ!
食事を終えたレイズは、リアナを呼んだ。
何事もなかったかのように背筋を伸ばし、静かに言う。
「……それでは午後から大書斎に向かう。手筈は整っているな?」
そしてちらりと、空になった皿へ視線を流す。
リアナは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに覚悟を決めたように答える。
「はい。当主様、すべて整っております」
二人は堂々とした足取りで食堂を後にした。
ほどなくして、片付けのために使用人たちが食堂へ入る。
そこに残されていたのは――きれいに空になったサラダの皿。
「……本当に乗り越えられたのだ」
「我らは本当に、すごい御方に仕えているのかもしれない」
ヴィル様が認めたとはいえ、疑う気持ちがどこかにあった。
だが、この光景を目にした今――一同の胸には重く、そして深い喜びが広がっていた。
大書斎へ向かう廊下の途中。
リアノがこちらに気づき、慌てて駆け寄ってきた。
「当主様! お体は……本当に問題ないのですか?!」
心配そうに身を寄せるリアノに、レイズは胸を張り、腕に力瘤をつくってみせる。
「是非もない......」
誇らしげに言い放つと、リアノは一瞬きょとんとした。
――いや、そういうことじゃなくて……。
彼女の脳裏には、昨夜の出来事――汗にまみれて倒れかけ、水すらまともに飲めなかったレイズの姿が、鮮明に浮かんでいたのだ。
だが当の本人は、どこか自信に満ちた顔でその場を立ち去っていく。
リアノは唇を噛みしめながら、ただその背中を見送るしかなかった。




