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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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汚してはならない。

 そして――。

 ガイルがヴェルビェイヌァイの領域を通過した。


 その報せは、当然のようにヴェルビェイヌァイ本人のもとへも届いていた。


「ふむ…………」


 報告を聞き終えたヴェルビェイヌァイは、しばらく何も言わなかった。


 だが、周囲に集まった魔族達は違う。


「ヴェルビェイヌァイ!! どうする!?」

「ガイルをこのままにしておけるはずがない!」

「奴はアルバードへ向かっているのだぞ!」


 焦りを隠そうともしない声が、次々と飛び交う。

 しかしヴェルビェイヌァイは答えず、ただ自らの手にある小さな石へ視線を落としていた。


 メモリアルストーン。

 レイズから託されたものだった。

 だが、先ほどガイルへ使用されたものとは違う。

 これは、ただ魔力を無効化するためのものではない。

 その内部には――ラルヴァという魔法が封じ込められている。

 過去に一度。

 王国の騎士デュランを相手に使用したことがある。


 だからこそヴェルビェイヌァイは、その力がどれほど異質なものなのかを理解していた。


 そして同時に。

 これは、二度と安易に使っていいものではないとも理解している。


「…………」


 ヴェルビェイヌァイはメモリアルストーンを強く握ることなく、静かに掌の中へ収めた。


 ガイルの魔力を無効化することには成功した。

 報告を聞く限り、そこに間違いはない。

 だが――。

 それでも止められなかった。

 魔力を消した。

 身体強化すら失わせた。

 それでもなお、上位魔族達が束になってすらガイル一人を止めることができなかった。


 ならば。

 自分達が行ったところで――。

「すまない…………」

 ヴェルビェイヌァイが小さく呟いた。

「レイズ…………」


 その言葉に、周囲の魔族達が静まり返る。


「あれは……我らでもどうしようもない」


 それは弱気から出た言葉ではなかった。


 ましてや、ガイルを恐れて逃げるための言い訳でもない。


 自分達とガイルの間にある、どうしようもないほどの力の差。

 それを理解したうえでの、冷静な判断だった。


「ならば!!」

 一人の魔族が声を上げる。

「すぐにアルバードへ知らせるべきです!」

「そうだ! ガイルが向かっていることを伝えなければ!」

「アルバードには――」

「その必要はない」

「…………え?」


 ヴェルビェイヌァイは静かに遮った。


「我らは、これ以上ガイルへ関わってはならぬ」

「なぜですか!?」

「ガイルですよ!? あいつが何も起こさないはずがない!」

「アルバードとの盟約が崩れる危険すらあるのです!」


 その言葉を聞いても、ヴェルビェイヌァイは動かなかった。

 むしろ、僅かに目を細める。


「だからこそだろう」

「…………?」


「我らが下手に事を荒げれば、ガイルも黙ってはいまい。ましてや――」


 ヴェルビェイヌァイは周囲の魔族達を見渡す。


「その結果……おまえ達の誰かが死んでしまうようなことがあれば、それこそ……レイズは止まらなくなる」

「…………」

「そういう男だ。あれは」


 誰も言い返せなかった。

 むしろ、その言葉の意味を理解してしまった。

 レイズは魔族だから守るのではない。

 人間だから守るのでもない。

 自分が仲間だと思った者。

 自分を信じてくれた者。

 自分が守ると決めた者。


 その誰かが傷つけられれば、あの少年は自分自身がどれほど傷つこうとも動く。


 それをヴェルビェイヌァイは知っている。


「だが……」


 一人が悔しそうに拳を握った。


「ならば我らは……何もせず見ていろというのですか……?」

「問題はないはずだ」

「…………問題が、ない?」


 あまりにも予想外の言葉だった。


 そこで、ヴェルビェイヌァイの傍にいたエルイが、落ち着かせるように口を開く。


「はい。皆様、落ち着いてください」

「エルイ……?」

「アルバードには――とんでもない人間がいますから」

「…………」


 だが、それを聞いた魔族の一人がすぐさま声を荒らげた。


「ヴィル・アルバードはもういない!」

「セバスも死んだと、我らも聞いている!」

「ならば誰がガイルを止められるというのだ!」

「そうだ! 魔力を封じたところで、我らでは止められなかった! レイズが戦ったとしても、ガイルに勝てるとは到底――!」


「ハハ…………」

「…………?」


 突然、ヴェルビェイヌァイが笑った。

 魔族達が不思議そうに彼を見る。


「ヴェルビェイヌァイ……?」

「いや……すまない」

 ヴェルビェイヌァイは、ほんの僅かに嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「まったく……いつの間に、おまえ達はここまでアルバードを想うようになったのだ」

「…………」


 その一言に、今度は魔族達が黙り込んだ。


 本来なら。

 ガイルとアルバードが争おうが、自分達には関係のないことだった。


 人間同士が争う。

 人間とガイルが争う。


 どちらが勝とうが、どちらが死のうが、自分達の領土にさえ被害が及ばなければ、それでよかった。


 少なくとも、かつての彼らならそう考えていた。

 だが――今は違う。


「アルバードとの盟約が崩れるかもしれない」

「レイズが危険だ」

「ガイルを行かせてはいけない」


 誰もが本気で心配している。

 レイズのことを。

 そして、アルバードという場所そのものを。


 その変化が、ヴェルビェイヌァイには素直に嬉しかった。


 人間を信用することなどできない。

 魔族と人間が分かり合うことなどできない。

 そう考えていた者達が今、自らの意思で一人の人間の身を案じている。


「ハハ……」


 もう一度だけ小さく笑うと、ヴェルビェイヌァイは表情を戻した。


「最後まで話を聞け」

「…………」

「確かに、ヴィルはいない。セバスもいない」


 そして。


「だが――あそこにはもう一人、とてつもない者がいる」

「…………誰ですか?」


 ヴェルビェイヌァイは短く答えた。


「クリスという人間だ」

「クリス…………?」


 一人の魔族が首を傾げる。


 そして、何かを思い出したように目を見開いた。


「それは……レイズにいつもくっついている、あの男か?」

「ぁあ」

「だが……あの人間が、ガイルを?」


 ヴェルビェイヌァイはすぐには答えなかった。


「ガイルが、とてつもなく強いことは我もよく知っている」


 その強さを侮っているわけではない。


 むしろ逆だ。

 魔族の中において、あれほど異常な存在はそうはいない。


「だが――クリスという男もまた、とてつもない」

「…………」

「はっきりと断定するつもりはない。だが……ヴィルやセバスと比べたとしても」


 一度、言葉を止める。


「あれは――遜色ない」

「…………なっ」


 魔族達の表情が変わった。


「そ……そんな人間が……?」

「アルバードには、まだそんな切り札が……」


 そして。


 一人の魔族の表情が明るくなる。


「ならば!!」

「…………」

「我らも行きましょう!」

「何?」


「我らが加勢するのです! そこへレイズとクリスが加われば……!」


 別の魔族も声を上げる。


「そうだ! それならガイルを倒せるかもしれない!」

「我らもレイズの力になれる!」

 だが。

「馬鹿を言うな」


 ヴェルビェイヌァイの一言で、その場が静まり返った。


「…………なぜですか!?」

「レイズは甘い」

「…………?」

「だが――その甘さ故に、あの少年は強い」


 ヴェルビェイヌァイは静かに続ける。


「敵だから殺す。それだけでは終わらせぬ。争わずに済むのであれば争わず、殺さずに済むのであれば殺さぬ。その甘さを捨てぬまま、それでも守るべき者を守ろうとする」


「…………」

「そしてクリスという男は――甘くない」


 空気が変わった。


「必要であれば戦う。必要であれば敵を斬る。そして本当に必要だと判断すれば……殺すことさえ厭わぬ」

「ならば、なおさら――」

「だが」


 ヴェルビェイヌァイが遮る。


「そのクリスが、レイズという人間の傍にいる」

「…………」

「意味が分からぬか?」


 魔族達は黙った。


「クリス一人の意思だけならば、必要と判断した時点でガイルを殺そうとするかもしれぬ。だが、レイズはそれを望まぬ」


 ヴェルビェイヌァイは自らの手にあるメモリアルストーンへ、もう一度視線を落とす。


「そしてクリスという男が、本当にレイズを大切に思っているのであれば――レイズの望まぬ結末を、自ら選ぶこともしないだろう」

「…………」

「だからこそ、我らが最初からガイルを倒すつもりで動くことそのものが違うのだ」


「違う……?」


「我らがガイルを敵と決め、殺すためにアルバードへ向かう。それでは、レイズがここまで積み上げてきたものを、我ら自身の手で汚すことになりかねぬ」


 魔族達の顔から、先ほどまでの勢いが消えていく。


「ガイルが来る」

「だから殺す」

「そんな単純な答えを選ぶのであれば……我らは何も変わっておらぬ」


「…………」


 誰も言葉を返せなかった。

 悔しかった。

 ようやく力を手にした。


 メモリアルストーンという、これまでの魔族には存在しなかった新しい力をレイズから託された。


 最上位の魔族達すら退けた。

 だから――。


 少しくらいなら、レイズの力になれるのではないかと思っていた。


 だが、ガイルという存在を前にして、その考えは打ち砕かれた。


 魔力を消しても止められない。

 ならば数を増やせばいいのか。

 もっと強い魔族を集めればいいのか。

 ラルヴァを使えばいいのか。

 そうやって力を重ね、ガイルを殺せば。

 本当にそれでいいのか。

 それでは結局――。


 力によって相手を排除するという、ガイル自身の思想と何が違うのか。


「…………」


 ヴェルビェイヌァイは、そんな彼らを見渡した。


「故に――任せるしかない」

 そして静かに告げる。

「信じるしかないのだ」

「…………」

「レイズを」

 一度、言葉を切る。


「クリスを」

 そして最後に。


「アルバードという場所そのものを、だ」

 その場に静寂が訪れた。


 納得できない者もいる。

 悔しそうに拳を握る者もいる。

 それでも。


 誰一人として、ヴェルビェイヌァイの言葉を否定することはできなかった。


 そんな中。


 エルイだけは少しだけ柔らかな笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ」

「…………エルイ?」


「レイズ様なら案外……ガイルという人すら変えてしまうかもしれませんし」


「…………」


 ヴェルビェイヌァイはその言葉を聞き、僅かに笑った。


「そうだな」

 これまでのレイズを考えれば。

 絶対にあり得ないと、言い切ることもできなかった。


 だからこそ。

 彼らは信じることを選んだ

 レイズを。

 クリスを。

 そして――アルバードを。



 ただし。

 彼らは一つ。

 決定的な事実を知らない。



 今。

 アルバードに――レイズはいない。


 世界樹の種を求め、ジュラへ向かったレイズは、まだアルバードへ戻っていない。


 つまり。

 ガイルがこのままアルバードへ辿り着けば――。


 その男を最初に受け止めることになるのは、レイズではない。


 クリス。

 レイズがいれば、言葉を交わしたかもしれない。

 レイズがいれば、ガイルの勘違いに気付いたかもしれない。

 レイズがいれば、争う前に止められたかもしれない。


 だが。

 今、そのレイズはいない。



 そして何より――。

 ヴェルビェイヌァイ達は、もう一つ知らなかった。

 アルバードという場所の強さは、決してレイズ一人によって成り立っているものではない。


 クリスだけでもない。

 レイズが不在であろうとも。

 ヴィルがいなくとも。

 セバスがいなくとも。


 そこには、レイズと共に歩き、変わり、守るべきものを見つけた者達がいる。


 それぞれが考え。

 それぞれが動き。


 それぞれのやり方で、アルバードを守ろうとする。

 そして――。

 ガイルという、あまりにも予測不能な存在。


 レイズ不在のアルバード。

 そこに残された者達。

 そのすべてが重なった時。

 誰も想像していなかった出来事が起こることを――。


 この時。

 ヴェルビェイヌァイ達は、まだ知る由もなかった。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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