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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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322/361

ガイルの進行

 その頃――ジュラの裏では……



人の住む王国から遥か離れた、魔族達の領土。

 そこには、人間の国のような明確な国境も、何代にも渡って受け継がれる領主という概念もほとんど存在しない。どの魔族がどの土地を治めているのか、その答えは昨日と今日ですら変わることがある。


 強き者が上に立つ。


 そして弱き者は強き者へ従い、その代わり、強き者は自らの下にいる者を守る。


 それが魔族にとっては、あまりにも自然な生き方だった。


 だからこそ魔族は純粋なのだと、ガイルは思っている。


 欲しいものがあれば求め、気に入らなければ争い、負ければ従い、勝った者が上に立つ。そして一度自分の下へ入った者であれば、今度は己の力で守る。


 そこには人間のように、大勢で群れを作り、法を作り、身分を作り、表では笑いながら裏では相手を陥れるような生き方など必要ない。


 それぞれが好き勝手に生きている。

 好き勝手に争い。

 好き勝手に守っている。


 そんな魔族達の生き方を、ガイルは心の底から愛していた。


 人の身でありながら、完全に魔へ魅了された男。


 いや――もはや、それだけでは足りない。


 百年以上もの時を魔族達と共に生き、その中で争い続けたガイルは、今や魔族の中においてすら圧倒的な強者として君臨していた。


「ククク…………クハハハハ!!」


 歩きながら、ガイルは堪えきれないように笑う。


「面白ぇ……。とにかく面白ぇじゃねぇか……!」


 頭から離れないのは、アルバードのことだった。


 王国と刃を交えながら、それでも魔族を殺すことを選ばず、人間でありながら魔族側へ手を差し伸べた者達。


 ガイルにとって、その意味はあまりにも分かりやすかった。


「アルバードが……魔族を選んだ」


 口元が大きく吊り上がる。


「なら、あんな汚ぇ生き方をする人間なんざ……王国ごと捻り潰しちまえばいい」


 そして少し考えたあと、楽しそうに付け加える。


「ぁあ……だが、アルバードの人間だけは生かしてやってもいいか」


 人間の絶滅。


 それは今も変わらないガイルの目的であり、同時に復讐でもあった。


 決して忘れられるはずがない。


 ガイルにとって何よりも恩のある、一人の魔族。


 人間を憎むことなく、むしろ人間と魔族が共に生きる可能性を信じようとした男。


 ルイガス。


 その力は凄まじく、当時、魔王という存在に最も近かった魔族でもあった。

 だが――人間は、その男を正面から倒そうとはしなかった。


 欺き。

 利用し。

 卑怯な手段で殺した。


 ガイルは今でも、その事実を忘れてはいない。


 忘れられるはずもない。

 許せるはずもない。

 人間を受け入れようとした者に、人間が返した答えがそれだったのだから。


 だからこそガイルは笑う。

 アルバードの連中も、ようやく気付いたのだと。


 王国が。

 人間という生き物が。

 どれほど醜く、どれほど汚い化け物なのかを。


「ククク…………」


 ガイルの瞳が、子供のように輝く。


「同志……か」


 その言葉を口にしただけで、胸の奥から言いようのない高揚感が湧き上がってくる。


 初めてだった。


 百年以上生きてきて、自分と同じものを見ている人間が現れたと思えたのは。


 だから会ってみたい。

 話してみたい。

 そして――。


「なぁ……一緒に最高の世界を作ろうぜ? アルバード」


 誰に聞かせるでもなく、ガイルは呟いた。

 強き者が上に立つ世界。


 弱き者は強き者へ従い、その代わり強き者が弱き者を守る。


 それが気に入らないのであれば、挑めばいい。

 戦えばいい。

 上に立つ者が間違っていると思うなら、自らの力で越えればいい。


 そして勝った者が、新たに上へ立てばいい。

 ただそれだけ。

 なんて単純で。

 なんて分かりやすく。

 そして――なんて純粋なのだろう。


「クハハハハ!! 面白くなってきやがった!!」


 ガイルの歩みが僅かに速くなる。

 アルバードへ着いたら何を話そう。

 王国をどうする。

 魔族達をどう動かす。

 アルバードの連中は、どんな戦い方を好む。


 そんなことを考えているだけで、次から次へとやりたいことが浮かんでくる。


 だが――。

 しばらく歩いたところで、ガイルの笑顔が突然消えた。


「…………」


 遠くに続く景色を見る。

 まだまだ先は長い。

 ガイルは盛大に顔をしかめた。


「くそが…………」


 そして、心の底から吐き捨てる。


「くそ遠いんだよ…………」


 つい先ほどまで新しい世界について壮大なことを考えていた男とは思えないほど、現実的な問題だった。


 以前、アルバードを越えて王国近辺まで向かった時には、こんな苦労などしなかった。


 理由は単純。

 ディアブロがいたからだ。


 巨大な翼を広げ、大空へ舞い上がるディアブロ。その背中へ乗り、地上では決して味わうことのできない速度で空を駆け抜けた。


 身体を叩く猛烈な風。

 遥か下へ流れていく大地。


 翼が一度大きく羽ばたくたび、景色そのものが後方へ吹き飛んでいくような感覚。


 ガイル自身も、飛ぼうと思えば飛べないわけではない。


 膨大な魔力を持つガイルならば、風を操り、魔力を足場とし、様々な方法を組み合わせれば空中を移動することくらいできる。


 だが――違う。

 あれとは、まるで違う。


 空を飛ぶために生まれた翼。

 その翼による加速へ、さらに魔力を重ねる。

 大空そのものを引き裂くような速度。


 あの風を。

 あの速さを。

 あの刺激を。

 ガイルは、かなり気に入っていた。


「…………」


 僅かに空を見上げる。

 だが、もうディアブロはいない。

 もう一度あの背中へ乗ることも。

 同じ風を浴びることもない。


「…………ちっ」


 ガイルは小さく舌打ちした。

 そして数秒後。


「飛べる仲間が欲しいな……」


 すぐに別のことを考え始めた。

 飛行能力を持つ魔族ならば珍しくない。

 翼を持つ者もいる。

 風を操り、空を飛ぶ者もいる。

 だが、ガイルが欲しいのはその程度のものではなかった。


「もっと速ぇやつがいい」


 歩きながら、一人で条件を増やしていく。


「どうせならディアブロより速ぇやつだ。空を閃光みてぇに飛び回って……誰にも追いつけねぇくらいの……」


 そして、ふと思い当たる。


「…………スカイドラゴン」


 その名を口にした瞬間、再びガイルの口元が吊り上がった。


 空を支配するとまで言われる魔物。


 巨大な翼と強靱な肉体を持ち、空中での速度においては並の飛行魔族など比較にすらならない。


「いいじゃねぇか……」


 想像する。


 スカイドラゴンの背へ乗り、大空を駆け抜ける自分。

 さらに一体ではない。

 二体。

 三体。

 もっと集める。

 飛べる魔族達も集めればいい。


 全員で空へ上がり、雲を突き抜け、どこまで速く飛べるのか競争する。


「ククク……」


 想像するだけで楽しくなってきた。


「決めた」


 ガイルは拳を握る。


「アルバードと手を組んだら、その次はスカイドラゴンだ」


 すでにアルバードが自分と手を組むことは、ガイルの中ではほとんど決定事項になっていた。


「一匹じゃつまらねぇな。何匹か捕まえるか」


 そして少し考え、


「いや……軍団にした方が面白ぇよな?」


 また話が大きくなった。


「クハハハハ!! いいじゃねぇか!! 最高だ!!」


 百年以上生きてきたというのに、これほど先のことを考えて胸が躍るのはいつ以来だろうか。


 いや――初めてかもしれない。


「待ってろよ……アルバード」


 ガイルは遠くにある目的地へ視線を向ける。


「面白ぇこと、全部一緒にやろうぜ?」


 その顔に浮かんでいるのは、敵地へ向かう者の表情ではなかった。


 ましてや、これから戦争を始めようとする者の顔でもない。


 初めて見つけた同志へ会いに行く。

 ただそれだけを心から楽しみにしている、それは純粋な笑顔だった。


 ――もちろん。


 アルバードの者達が、自分と同じことを考えているのか。

 そんなことをガイルは、一度たりとも確認していない。


 だが――。


 そんなガイルの考え方を、すべての魔族が受け入れているわけではない。


 むしろ、ガイルの思想とは真逆の道を選び始めている魔族達も存在していた。


 かつてルイガスの下へ仕えていた、イェイラの一族。


 ガイルにとって、その名は今でも心の奥へ引っかかり続けている。


 なぜ。

 なぜ、あの時。

 ルイガスがあんな目に遭ったというのに。

 イェイラ達は、もっと力を貸してくれなかったのか。

 もっと戦ってくれなかったのか。

 もっと人間を憎んでくれなかったのか。

 ガイルには、今でも完全には理解できない。


 そして、そんなイェイラの一族に従っていた魔族達。

 それがヴェルビェイヌァイだった。

 彼らの強さは、決して魔族の頂点と呼べるほどではない。


 だが、それ以上に彼らはガイル達と交わることを嫌い、争うことさえ避けてきた。


 強者へ挑み、力によって上下を決める。


 そんな魔族の在り方そのものから距離を置くようにして、彼らは人間の領土に近い場所――アルバードのすぐ隣に位置する魔族領で、静かに暮らしていた。


 ヴェルビェイヌァイも、人間を好んでいたわけではない。


 だが、理由もなく人間を襲うこともしなかった。

 ただ長い間、彼らはアルバードを見続けていた。

 監視するように。

 警戒するように。

 そして――事件は起きた。


 メルェ・イェイラ。

 イェイラの最後の生き残りである、一人の魔族の少女。

 そのメルェが、ある時を境に行方不明となった。


 魔族達は血眼になって足取りを追った。

 森を探し。

 人間との境界を探し。

 何度も何度も痕跡を辿った。

 だが、見つからない。


 そしてようやく届いた話は、最悪のものだった。


 ――メルェは、アルバードで殺された。


 その報せを聞いた時、ヴェルビェイヌァイ達の怒りは凄まじかった。


 やはり人間は人間だった。

 アルバードも結局、自分達を欺いていた。


 魔族を受け入れたように見せかけ、その裏でイェイラ最後の少女を殺したのだと。


 だが――その認識は、一人の少年によって覆された。


 単身で魔族領へやって来た、アルバードの少年。

 レイズ。

 メルェはアルバードで殺されたのではない。

 そこで大切な仲間として過ごしていた。

 笑い。

 食事をし。

 共に暮らしていた。


 そして、そんなメルェを奪ったのはアルバードではなく、王国側の罠だった。

 レイズは、それを自ら伝えに来た。

 それだけではない。

 メルェを失った怒りを抱えながらも、ヴェルビェイヌァイ達へ復讐を求めなかった。


 むしろ逆だった。

 死んでほしくないと。

 これ以上、誰にも失われてほしくないと。


 そのためだけに、少年一人で魔族領へ入ってきた。


 欺くための行動としては、あまりにも割に合わない。

 魔族達もすぐに理解した。

 この少年は、本気なのだと。


 しかもレイズには、人間でありながら魔力を無視する不可思議な力があった。

 強い。

 だが、その強さを見せつけに来たわけでもない。

 ただ話をするために来た。


 それが、ヴェルビェイヌァイ達の考え方を少しずつ変えていった。


 そして今では、レイズと盟約まで結んでいる。


 アルバードと魔族の間にあった壁は、以前よりも確実に薄くなっていた。


 ヴェルビェイヌァイ達は、イェイラの意思を信じた。


 そして同時に、魔族もまた変わらなければならないのだと考え始めていた。


 だからこそ――。

 ガイルという存在とは、決して思想が交わらない。


 強さこそがすべて。

 人間は滅ぼす。

 勝った者が正しい。


 それを疑うことすらしないガイルの在り方は、今のヴェルビェイヌァイ達にとって、あまりにも危険なものだった。


 そして今。

 その男が。

 あまりにも上機嫌な顔をしながら、自分達の領域へ足を踏み入れている。


「…………」


 遠くからガイルの姿を確認した魔族達の空気が、一瞬にして張り詰めた。


 存在感が違う。


 歩いているだけだというのに、周囲の空気そのものが押し潰されそうになる。


 膨大な魔力。

 圧倒的な肉体。

 そして、魔族ならば誰もが知っているその名。


 ガイル。


 まともに相手をすれば、勝てるはずがない。

 だが――。

 それでも、以前とは違う。

 一人の上位魔族が、懐へ手を伸ばす。


 そこにはレイズから託された、小さなメモリアルストーンがあった。


 魔力を無効化する力。


 最上位の魔族達を相手にしてすら、その力は確かに通じた。


 ならば。

 もしかすれば。

 ガイルにすら、届くのではないか。

 そんな可能性を、彼らは信じた。


 やがて数体の上位魔族がガイルの前へ姿を現し、その進路を塞ぐ。


 ガイルは足を止めた。


「ぁあ……?」


 眉をひそめる。


「てめぇら……邪魔すんなよ?」


 その瞬間。

 ガイルの身体から凄まじい魔力が爆発した。


 風なのか。

 火なのか。

 雷なのか。


 もはや一つの属性として認識することすら難しいほど、複雑に絡み合った魔力の波が周囲へ叩きつけられる。


 だが。


「無駄だ!!」


 一人の上位魔族がメモリアルストーンへ魔力を流す。

 次の瞬間。

 ガイルから放たれた魔力が、その周囲から綺麗に消えた。


「…………」


 ガイルの目が僅かに細くなる。


 そして。

 ギロリと。


 前に立つ魔族達を睨みつけた。


「ぁあ……? てめぇら……それ……」


「ガイル!! 何をするつもりだ!」

「そうだ! 貴様は今まで我らの領土になど興味を示さなかったはずだ!」

「イェイラの意思を汚すつもりか!?」

 ガイルは深いため息を吐いた。


「はぁ…………」


 面倒臭そうに頭を掻く。


「アルバードにちょっと顔出すだけだっての」


 その答えを聞いた瞬間、魔族達の警戒はさらに強くなった。


「余計に行かせられるわけがない!」

「そうだ!! おまえはまた懲りずに争いを生み出そうとしている!」

「おまえのせいで、どれだけ大変なことになったと思っている!」

「はぁぁぁ???」


 ガイルの顔が歪む。


「てめぇら……ほんとに糞だよな?」

「なんだと!?」

「てめぇらこそ、魔族を汚してることにまるで気付いちゃいねぇ」


 ガイルは苛立たしそうに吐き捨てる。

 だが、すぐに肩を竦めた。


「まあ安心しろよ。別にアルバードへちょっかい出しに行くわけじゃねぇ」

「…………」


「レイズってやつに会いに行く。話をするだけだ」

 ガイルは口元を吊り上げる。


「だから邪魔すんなよなぁ?」

「帰れ!! ガイル!!」

「そうだ!! おまえは最果てでおとなしくしていろ!」

「そうすれば何も起きないのだ!」


 聞く耳を持たない。

 ガイルのこめかみに青筋が浮かぶ。


「…………」


 それでも、魔族達は退かなかった。


「ガイル! おまえの自慢の魔力も、今の我らには通じぬ!」


「この力は最上位の魔族達にすら通じた!」

「我らでも、おまえを止めることはできる!」

「従え!!」

「我らには我らの掟がある!」

「…………うるせぇ」


 ガイルの声が低くなる。

「何?」

「うるせぇんだよ!!」


 次の瞬間。

 ガイルの姿が消えた。


「――っ!?」

 一人の上位魔族の目の前へ、一瞬で踏み込む。

「ガイル!! 無駄だ! 貴様の魔力は――」


 最後まで言葉は続かなかった。

 ドゴォォォォン!!

 ガイルの蹴りが腹部へ叩き込まれた瞬間、その魔族の身体が凄まじい勢いで吹き飛んだ。


 木々を薙ぎ倒し。

 地面を跳ね。

 遥か後方へ消えていく。


「…………」


 その場にいた魔族達が、一瞬にして言葉を失った。


 確かに魔力は消えている。

 魔力障壁も。

 身体強化の魔力も。


 ガイルが無意識に纏っていた魔力すら、メモリアルストーンによって無効化されている。


 なのに。

 たった一度の蹴り。

 ただそれだけで、上位魔族の一人が吹き飛ばされた。


「ま……魔力を……使えないはずなのに……」

「なんだ……今のは……」


 その言葉を聞いたガイルが、心底呆れた顔になる。

「魔力、魔力ってうるせぇな……」

 そして首を鳴らす。

「んなもん――肉体を鍛えてるからに決まってんだろぉが!!?」


「――っ!」


 一斉に上位魔族達が襲いかかる。

 爪。

 拳。

 牙。

 武器。

 魔力障壁は消えている。

 身体強化も存在しない。

 ならば。

 今のガイルは、生身の人間と同じはずだった。


 攻撃は届く。

 届くはずだった。

 だが――。


「…………」


 鋭い爪がガイルの肩へ食い込む。


 拳が腹部へ叩き込まれる。

 複数の魔族が一斉に身体へ組みつく。


 それでも。

 ガイルは微動だにしなかった。


「…………は?」


 一人が呆然とする。


 確かに皮膚へ爪は届いている。

 なのに、深く入らない。

 筋肉へ食い込んだはずの攻撃が、それ以上進まない。


 押さえ込んだはずの身体も、まるで巨大な岩へ抱きついているかのように動かせない。


「よえぇ……な……」

 ガイルが呟いた。

「よえぇよ、てめぇら」


 そして両腕を伸ばす

 左右にいた二体の上位魔族の頭を、片手ずつ掴む。

「なっ――」

「魔力が使えねぇ相手に、そんなんで調子乗ってんじゃねぇ!!」


 そのまま――投げた。


 二体の魔族が凄まじい勢いで宙を舞い、遠くの地面へ叩きつけられる。


 残された魔族達の動きが止まる。

 誰も、次の一歩を踏み出せない。

 理解してしまった。

 メモリアルストーンは通用している。

 確かにガイルの魔力は消している。

 そこに間違いはない。


 それでも――。

 勝てない。

 魔力を失ったこの男の肉体だけで、自分達よりも遥かに強い。


「…………」


 ガイルはそんな彼らを見回し、深く息を吐いた。

「もう一度だけ言うぞ?」


 先ほどまでとは違う、低い声。

「てめぇらを殺すつもりはねぇ」

「…………」

「だから次は邪魔すんな」

 口元が僅かに吊り上がる。

「これが最後だからなぁ?」


 誰も動かなかった。

 動けなかった。

 このまま食い下がれば、次は本当に殺される。

 本能が、それを理解している。

 最上位の魔族達すら退けた力。

 自分達が手にした、新しい強さ。

 それが。

 魔族の頂点にいるこの男には、一切通じない。


 その事実が、彼らを恐怖させていた。

 そんな魔族達の横を、ガイルは何事もなかったように歩き出す。


「だから心配すんじゃねぇよ?」

 振り返りもしない。

「アルバードと戦うつもりなんてねぇからよ」


 そして面倒臭そうに片手を振る。


「てめぇらの暮らしを邪魔するつもりもねぇ。平和に生きられるなら、勝手に平和に生きてやがれ」

「…………」

「ったくよぉ……」


 そのままガイルは、興味を失ったように歩き去っていく。

 残された魔族達は、誰一人として追うことができなかった。


 ただ一つ。

 確かな不安だけを抱きながら。


 ――ガイルは言った。

 アルバードと戦うつもりはない、と。

 だが。

 それを聞いて安心できる者は、この場には一人もいなかった。


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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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