助けられなかった…
ものすごい勢いでグレサスは森の中を突き進んでいた。
迷宮の道はすでに閉じ、先ほどまで確かに存在していたはずの進路も無数の木々によって覆い隠されている。本来であれば、視界と感覚を狂わされた者は何度も同じ場所を巡り、幻と現実の境目さえ分からなくなっていくはずだった。
だが、一度見た場所を明確に覚えているグレサスにとって、そんなものは大した問題ではない。進むべき方向が分かっているなら、あとは真っ直ぐ進めばいい。
それだけの話だ。
「ハハハハハッ!! ようやくだ! ようやく捕まえられる!」
最高に機嫌のいい笑い声を森中へ響かせながら、グレサスは速度をまるで落とさない。再び目の前へ無数の木々が現れても、問答無用でその中へ突っ込み、幻であるものは何の抵抗もなく身体をすり抜けていく。
本来なら脳が錯覚を起こし、そこに存在しない木へぶつかるように身を捩ったり、逆に本物を幻だと思い込んで激突したりするはずなのだが、グレサスはそんな迷宮の意図すら力任せに無視して突き進んでいた。
一方、その進行方向の先では、メーレが静かに顔を上げていた。
「……来る。来るぞ……」
「ぁあ、分かってる!」レイズは即座に答え、何かを言おうとするメーレを制するように手を上げた。「メーレは何も喋らなくていい。俺が話す。ディアも頼むから大人しく見ててくれ」
だが、ディアは返事をしない。白い毛をこれでもかというほど逆立て、身体を低くしたままグレサスの気配が迫る方向を睨みつけている。
そしてメーレは、その方向すら見ていなかった。じっと別の場所へ視線を向けたまま、僅かに表情を強張らせている。
「レアリス……目覚めてしまったのか……?」
「はぁ!?」レイズの顔が一瞬で引きつった。「ちょ、ちょっと待て! え!?」
だが、その問いに答えが返ってくるより早く、目の前の森から凄まじい衝突音が響いた。ドゴォォン、と木々が大きく揺れ、その向こうから現れたのは額に木屑をつけたグレサスだった。どうやら先ほどまで幻の木々を何の迷いもなくすり抜け続けてきた結果、最後の最後で本物まで幻だと思い込み、全速力のまま強烈な体当たりをかましたらしい。
「なんだ……この木は本物か」
「いや、普通ぶつかる前に気付けよ!!」
レイズの突っ込みなど聞こえていないかのように、グレサスはゆっくりと視線をこちらへ移した。まずレイズを見る。次に、その隣にいる巨大な白いメーレを見る。そして最後に、足元で全身の毛を逆立てているディアへ視線を向けた瞬間、口元へ満面の笑みを浮かべた。
「いたぞ……。さぁ、帰るぞ」
あまりにも自然な口調だった。まるで迷子になっていたペットを迎えに来た飼い主のように、グレサスはゆっくりとディアへ歩み寄っていく。
「ちょっ!? グレサス!? 何言ってんだ!? 俺だ! レイズだぞ!?」
「うるさい。おまえはその後だ」
「俺、二番目なの!?」
どうやら今のグレサスにとって最優先事項はディアらしい。レイズは完全に二の次であり、その事実に困惑しているのは彼だけではなかった。神獣を捕らえるためにこの男がここまで来たと聞いていたメーレも、自分こそが目的だと思っていたのか僅かに目を細めている。だがグレサスは本物の神獣であるメーレにほとんど興味を示さず、その視線は完全にディアへ固定されていた。
「シャァァァァァァ!! レイズ!! ディア!! タタカウウウウ!!」
「いや、戦わなくていいって!」
しかしディアは止まらない。地面を蹴り、真正面からグレサスへ向かって走り出す。その瞬間、グレサスの笑顔はさらに明るくなった。
「そうか。ようやく分かってくれたのか?」
「何がだよ!?」
「俺の愛情だ。」
「まったく分かってねぇだろ!!」
明確に襲いかかっているディアを、なぜか自分へ駆け寄ってきていると解釈したグレサスは、ディアが飛びかかろうとした瞬間に持っていた網を横へ振った。その動き自体は驚くほど優しかったが、次の瞬間にはディアの小さな身体が見事に網の中へ収まっていた。
「ハハハハハハ!! 捕まえたぞ! ついに捕まえた! 神獣だ!!」
「違う違う違う違う!! おいグレサス! 話を聞け! ディアは神獣じゃ――」
「ディアという名なのか」
「そこだけ拾うな!」
グレサスは網の中で激しくもがくディアを眺めながら、満足そうに何度も頷いた。「そうか。神獣ディア」
「だから神獣じゃねぇって言ってんだろ!!」
ディアは必死に網を引っ掻き、噛みつき、僅かな隙間へ身体をねじ込もうとしている。しかし網はまるで破れず、小さな裂け目から腕一本だけを外へ出してブンブンと振り回すのが精一杯だった。
「ハナセ!! ハナセエェェェ!!」
「元気だな」
「嫌がってんだよ!」
そんな騒ぎの中、目的を果たして満足したのか、グレサスの雰囲気が僅かに変わった。網越しにディアを抱えたまま、ようやくレイズへ真面目な視線を向ける。
「さて……レイズ。なぜおまえがここにいる?」
「いや今さらかよ!? っていうかディアを放してやってくれ! それとなんだその網!? ディアがあれだけ暴れてるのに、なんで破れないんだよ!」
レイズはガジガジと網へ噛みついているディアを見ながら思わず眉をひそめたが、すぐに首を振った。今はそんなことを気にしている場合ではない。
「グレサス! それどころじゃないんだよ! おまえがここで暴れたせいで、本当にヤバいやつがこっちへ向かってきてる!」
「ヤバいやつ?」
その言葉を聞いた瞬間、グレサスの目が輝いた。レイズはその顔を見ただけで嫌な予感しかしなかった。
「レイズ、いろいろと確認したいことはあるが、間もなくデュランもこちらへ来る。話はそれからだろう」
「だから話してる場合じゃないって!」
そのやり取りを、メーレは黙ったまま眺めていた。先ほどからこの男は神獣、神獣と口にしている。それなのに、本物の神獣である自分へほとんど関心を向けず、ディアを捕まえたことには心の底から喜んでいる。その態度が、少しずつメーレの癇に障り始めていた。
白い毛が徐々に逆立ち、緑色だった瞳がゆっくりと赤へ染まっていく。周囲の木々がざわめき、膨大な魔力がメーレの身体から溢れ始める。
「我を――」
その瞬間、レイズがメーレの身体へ手を触れた。
「エクリプス」
膨れ上がりかけていた魔力は、一瞬にして嘘のように消え去った。
「…………」
固まるメーレとは対照的に、グレサスはその光景を興味深そうに眺めていた。
「やはり魔力を消すのか。ヴィルとセバスも使っていたな。レイズ、その原理もついでだ。教えてみろ」
「教えるわけないだろ!? っていうかグレサス、おまえそもそも何しにここへ来たんだよ!?」
「それはこちらの台詞です!!」
森の向こうから別の声が響き、木々の間からデュランが姿を現した。息を整えながらこちらへ近づいてくる彼へ、グレサスは何事もなかったかのように笑って網の中のディアを見せつける。
「遅かったな、デュラン。見ろ、神獣を捕まえたぞ。ディアという名だ。どうだ?」
デュランはしばらく無言でディアを見つめた。白くて小さく、ものすごく怒っていて、網の隙間から腕一本だけを外へ出しながら「ハナセエェェェ!!」と暴れている。
「これが……神獣……。そんなわけないでしょう」
「何?」
「あちらですよ。あれこそが神獣でしょう!」
デュランが指し示した先には、森そのものと一体化するかのような膨大な魔力を纏うメーレがいる。グレサスはしばらくその巨大な白い身体を見つめ、そして首を傾げた。
「レイズ。おまえのペットではなかったのか」
「違うと言っている!!!」
ついにメーレの怒声が森を震わせた。そのまま網の中でもがくディアへ顔を向け、「それよりもディア! その網を食べろ!」と叫ぶ。ディアは一瞬だけ動きを止めると、すぐにその意味を理解した。食べろと言われたのは網そのものではない。そこへ流れている魔力だ。
ディアが網へ噛みついた瞬間、全体を覆っていた魔力が急速に吸い取られていく。薄くなった部分へ身体をねじ込み、頭、肩、前脚まで強引に抜け出したところで、あと少しという瞬間にグレサスの腕が伸びた。
「おっと」
そのままディアの身体を抱きかかえる。
「ハナセ!!」
「ほぉ、魔力を食うのか。ハハハハ! ますます面白い。連れ帰ったら俺がたくさん食わせてやる。安心するがいい」
「ハナセエェェェ!!」
ディアは思いきりグレサスの手へ噛みつき、そのまま身体を覆う魔力まで食べ始めた。魔力が薄くなったなら今度こそ牙が通る。そう考えたのか全力で噛み締めるが、ガチガチと硬い音が響くだけでまるで皮膚を貫けない。
レイズはその光景を見ながら頬を引きつらせた。
「いや…………どんだけ硬いんだよ、おまえ……」
「それよりもです!」デュランが強い声を上げる。「レイズ・アルバード。なぜ貴方がここにいるのですか。それに、なぜ神獣と一緒にいるのです?」
「そうだ。まずはそれを聞かせてもらう。内容によっては、おまえを王国へ連れていくことになる」
「だから今、詳しく説明してる暇が――」
「レイズ!!」
メーレの声がそれを遮った。
「逃げるぞ! ここはもう駄目かもしれぬ!」
「は!? いや、ディアが!」
「レアリスは、もともとディアを呼んでいた。ならば問題はなかろう!」
「え……? レアリスがディアを?」
レイズがその言葉の意味を考える暇すらなく、メーレは身体を低くすると、そのまま彼を背中へ担ぎ上げてその場を離れようとする。しかし、その後脚をグレサスが片手で掴んだ。
「待て。詳しく聞かせろ。それに……俺から逃げられると思っているのか?」
「放せ!」
メーレが本気で脚を振りほどこうとする。しかし動かない。片腕にはディアを抱え、使っているのは残る腕一本だけ。それなのに、神獣である自分が力を込めてもまるで振りほどけない。
「放せ!!」
「ハナセエェェェ!!」
「おいグレサス! 話を聞けって!!」
メーレ、ディア、レイズの三方向から同時に怒鳴られ、グレサスは眉をひそめた。
「どれも話すものか!」
「それは貴方でしょう!!」デュランまで声を荒らげる。「一度放してあげてください。それより、いったい何が来るというのですか?」
その瞬間だった。メーレが突然抵抗をやめる。グレサスも僅かに眉を動かしたが、メーレは彼ではなく森の奥をじっと見つめていた。レイズもすぐにその方向へ目を向け、顔から血の気を失っていく。
「…………もう、間に合わぬ……か」
「ま…………マジかよ……」
ディアもグレサスの腕の中から同じ方向をじっと見つめ、グレサスだけが楽しそうに笑みを浮かべている。デュランは何が現れたのか理解できないまま、それでも本能的に悟った。
――あれは、まずい。
森の奥に立っていたのは、異様なほど白い一本の巨木だった。ただの樹木ではない。幹そのものへ三人の少女が埋め込まれているかのように融合し、左の少女は両手を合わせて祈りを捧げ、中央の少女は穏やかな微笑みを浮かべ、右の少女は怒りに顔を歪めている。それぞれ異なる表情を持った三つの人の姿と巨木が一つになった、あまりにも異質な存在だった。
レイズの口から、掠れた声が漏れる。
「レアリス……ビースト……。もう……目覚め……」
レアリスビーストと呼ばれたそれがゆっくりとこちらを向く。しかし見ていたのはグレサスではない。正確には、その腕の中に抱えられているディアだった。
三つの顔の瞳から、赤い液体が流れ落ちる。
涙だった。
次の瞬間、地面が爆ぜるように無数の鋭い蔓が伸び、凄まじい速度でグレサスへ殺到した。
「その程度――」
グレサスは片腕を上げる。だがその瞬間、ディアがさらに激しく暴れた。
「ハナセ!! ハナセエェェェ!!」
僅かに体勢が崩れる。それでも片腕だけで蔓を防ごうとしたグレサスだったが、そこへ込められていた魔力はこれまで相手にしてきた幻獣とは明らかに次元が違っていた。凄まじい衝撃が腕へ叩きつけられ、グレサスの拘束が僅かに緩む。その一瞬を逃さず、ディアが地面へ落ちた。
「ディア!」
レイズが叫ぶが、ディアは振り返らない。そのまま真っ直ぐレアリスへ向かって走り出す。
「待て!」
グレサスは即座に剣を抜き、迫る蔓を一閃で切断した。しかし切り落とされた断面から新たな蔓が次々と生え、先ほど以上の鋭さで再び襲いかかってくる。
「増えるのか!」
レイズは伸びてきた蔓へ手を当て、「エクリプス!」と魔力を消し去る。勢いを失ったところへデュランが踏み込み、袈裟斬りで完全に切断する。しかし、それでも終わらなかった。
「…………!」
デュランが目を見開く。レアリス本体が消えている。いや、消えたのではない。切り落とされた別の蔓、その先端へすでに移動していた。
「いつの間に――」
中央で微笑んでいた少女の顔が、ゆっくりと目を開く。同時に口も開き、凄まじい魔力が一点へ収束していく。
グレサスが振り返った時には、もう遅かった。
白い光が炸裂した。
森全体が一瞬で真昼のように照らされ、視界そのものが光に塗り潰される。その中心で、真正面から攻撃を受けたグレサスの身体が大きく後方へ吹き飛ばされた。
「な……」
デュランは一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
グレサスが吹き飛ばされた。
ただそれだけの事実を、頭が受け入れるまでに僅かな時間が必要だった。
「こんなものおおおおお!!」
光の中からグレサスの怒声だけが響く。しかしその声ごと遠ざかり、何本もの木々をへし折りながら、ついには完全に姿が見えなくなった。
「グレサス!?」
デュランが叫ぶ。だがレアリスは止まらない。今度は右側、怒りを浮かべていた少女が目を開いた。デュランは即座に踏み込み剣を突き刺そうとしたが、その口からドロリと黒い液体が溢れ出し、一気に噴きかかってくる。
「っ!」
デュランは瞬時に身体へ風を纏わせ、強烈な突風で液体を弾き飛ばす。しかし間髪入れず、左で祈りを捧げていた少女の身体が赤く光り始める。
「まずい!」
メーレが地面を叩くと、分厚い木の壁が一瞬で立ち上がった。その直後、凄まじい炎が炸裂し、爆風が森を揺らす。
「消す!」
レイズが手を伸ばし、死属性を使おうとしたところで動きを止めた。
「……消えない?」
そこでようやく気付く。黒い液体は魔力ではない。純粋な物質だ。つまり、それ自体が燃えている以上、死属性で魔力だけを消しても炎は止められない。
「ちょ、ちょっと待て!」
レイズは即座に属性を切り替える。
「アイスフィアー!!」
膨大な冷気が一気に広がり、黒い液体を瞬時に凍結させる。そのまま地面や木々、蔓、そして燃え広がろうとしていた炎までも飲み込むように銀白色の氷が広がり、森の一角が一瞬にして極寒の世界へ変わっていった。レアリス自身も氷へ閉じ込められ、ひとまず動きが止まったように見える。
「止まった……?」
だが、レイズの表情は晴れない。
次の瞬間、まったく別の場所にある蔓の先へレアリスが姿を現した。
「嘘だろ……!」
凍らせたのは本体ではなかった。レアリスはすでに別の蔓へ移動していたのだ。そして逃げ遅れて立ち止まっていたディアの身体を、無数の蔓が今度は驚くほど優しく包み込む。
「ディア!!」
レイズが叫ぶ。しかしディアは暴れず、ただじっとレアリスを見つめていた。そのまま蔓ごと地面へ潜り込み、ズズズズズ……という低い音とともに、レアリスの気配は急速に地下深くへ遠ざかっていく。
「待て!!」
レイズが走り出した時には、すでに遅かった。地面は閉じ、魔力も気配も消え、誰も追えないほど深い場所へ完全に姿を消していた。
レイズの額を冷や汗が伝い、メーレも何も言わずその場を見つめている。
その時だった。
遠くから、何かが砕ける音が聞こえた。
一度ではない。バキッ、バキバキバキッ、と木々が連続してへし折られる音が、ものすごい勢いでこちらへ近づいてくる。そして木々の奥から、見覚えのある黄金色の魔力が漏れ始めた。
「まさか……」
デュランが呟いた直後、木の壁を突き破るように一人の男が姿を現した。
グレサスだった。
だが、先ほどまでとは姿が違う。王国最強の騎士を守っていた自慢の鎧――ハクライ。その上半身部分は大きく砕け、いくつもの欠片を身体へ残したまま、グレサスはとてつもない形相で前へ歩み出していた。
「グレサス……!?」
「逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!」
「待て待て待て!!」
レイズが慌ててグレサスの腰へ飛びつき、デュランも反対側から腕を掴む。メーレもすぐに地面を叩き、進行方向へ何重もの木の壁を立ち上げた。しかしグレサスは止まらない。怒号とともに壁を次々と破壊し、むしろ時間が経つほど魔力を膨れ上がらせていく。
「こんの……馬鹿力がぁぁぁ!!」
「グレサス、落ち着いてください!!」
レイズとデュランが全力で引き止め、メーレまで蔓を絡ませる。それでもなお前へ進もうとするグレサスを見て、誰も止められないかもしれないと感じた、その瞬間だった。
「……エクリプス」
レイズが静かに呟く。
次の瞬間、グレサスの身体から溢れていた黄金色の魔力が一瞬にして消え去った。
「……な」
純粋な肉体だけになったグレサスへ、レイズ、デュラン、そしてメーレが一斉に力をかける。さすがに今度は足が止まり、三者がかりでようやくその場へ押さえ込むことに成功した。
「デュラン……それに貴様……放せ!!」
「放しません!」
「人間、諦めろ!」
「邪魔をするな!!」
しばらく抵抗は続いたが、やがてメーレが静かに口を開いた。
「もう無理だ。あまりにも深い。それに……すでに誰も追えぬ場所まで行ってしまっている」
その言葉を聞いたグレサスの動きが、ようやく止まる。レイズもデュランもゆっくりと手を離した。
グレサスはしばらく俯いたまま何も言わず、やがて拳を強く握り締めると、そのまま地面へ叩きつけた。
ドゴォォン!!
凄まじい地響きが起こり、レイズとデュランの身体が僅かによろめく。
「くそ……」
グレサスは心の底から悔しそうに呟いた。
「もふもふを……助けられなかった……」
レイズが僅かに間を置き、静かに訂正する。
「もふもふじゃなくて……ディアな?」
「あと少しだったのに……」
「何も少しではありませんよ……」
デュランが呆れたように返し、最後にメーレが冷たく言い放つ。
「そもそも、ディアを助けたのはレアリスだ。そこを間違えるな、人間」
「…………」
レイズ、デュラン、メーレ。
三方向から同時に浴びせられるあまりにも冷徹な正論に、砕けた鎧のまま立ち尽くすグレサスは、しばらく何も言い返すことができなかった。




