勝てるわけがない。
デュランとグレサス……それらの会話を、メーレは静かに聞いていた。
ジュラの内部を流れる魔力、その揺らぎ、その変化。ここで起きていることの多くを把握できるメーレだからこそ、グレサスとデュランが何をしようとしているのかも、少しずつ見えてきていた。
そして――その目的を知ったメーレは、僅かに目を細める。
「どうやら、レイズ。お前が奴らと話す意味はないようだ」
「え……?」
突然そう告げられ、レイズはメーレを見上げた。
メーレは迷いなく続ける。
「奴らの目的は、どうやら我のようだ」
「…………は?」
「神獣を捕らえる。それが今回、奴らがこちらへ向かってきた目的らしい」
「えっ!? なんのために!?」
思わず声を上げるレイズだったが、メーレは知らぬ、と短く答えた。
「理由までは分からぬ。だが、奴らはそのためにセフィロトの枝まで持ち出し、こちらへ向かってきている」
「セフィロト……?」
その名前を聞いた瞬間、レイズの表情が変わった。
「それって……あのセフィロトか!?」
もちろん知っている。
ゲームの世界においても、セフィロトに関係する装備や、それを素材として用いたアイテムはいずれも極めて貴重だった。フェリルに持たせて戦わせることもあれば、カイルが魔法を主体として戦う際、その性能を最大限に引き出すために利用することもある。
そして何より――レイズは、その入手経路まで知っていた。
だからこそ分かる。
あれは、決して簡単に手へ入れられる代物ではない。
強敵を倒せば落とす。宝箱を開ければ手に入る。そのような分かりやすい品ではなく、終盤まで進めたうえで複数の条件を満たし、ようやく入手へ近づけるほどの希少品。
そして、その一つを所有していたのが――王国だった。
本来ゲームでそれを手に入れようとするなら、王国そのものを敵に回し、さらにその前へ立ちはだかる最大の壁を越えなければならない。
その壁こそが、グレサス・グライオン。
だからこそ、セフィロトを用いた装備は、終盤における最強装備の一角と呼んでも決して大袈裟ではなかった。
「え……グレサスが、それ使ってんの……?」
レイズの顔から血の気が引いていく。
グレサスといえば、黄金と白を基調として装飾された王国最高峰の鎧。そして王国より授けられた剣を手に戦う、生粋の剣士だ。
そんな男が、わざわざセフィロトの枝を持ち出してジュラへ挑んでいる。
意味が分からない。
そもそも神獣を倒したいだけなら、セフィロトの枝など必要ないはずだった。
倒すのなら。
殺すのなら。
グレサスは必ず剣を使う。
ならば――。
「なんで……?」
レイズが呟いた、そのときだった。
「セフィロトの枝の先には、何やら網のようなものを取り付けているようだ」
「…………網?」
「恐らくだが……それで我を捕らえるつもりなのだろう」
メーレの声には、怒りより先に呆れが混じっていた。
神獣を捕らえると口にし、ジュラへ踏み込み、挙げ句の果てにはセフィロトの枝まで持ち出している。それだけ聞けば相応の覚悟をもって来ているようにも思える。
だが、その先端についているものは――網。
メーレには理解できなかった。
「そのようなもので我を捕らえられると、本気で考えているのか……?」
「…………」
レイズも答えられない。
ただ一つ確かなのは、グレサスが遊び半分でここへ来ているわけではないということだった。
メーレは静かに立ち上がる。
「だが、我と戦う覚悟で来ているというのであれば――ならば教えてやろう」
その口元へ、僅かな笑みが浮かぶ。
「我と戦うとは、どういうことなのかをな」
次の瞬間。
――ドンッ!!
メーレの前脚が地面を叩いた。
その衝撃そのものは決して大きなものではなかった。だが、ジュラそのものがその命令を受け取ったかのように、森の至るところで魔力が一斉に蠢き始める。
一つ。
十。
百。
それどころではない。
無数の魔物たちの気配が、一斉に同じ方向へ向きを変えた。
「メーレ……?」
だが、それだけではなかった。
グレサスから迷宮へ流れ込み続ける膨大な魔力。その一部をメーレは結晶へと変換し、先ほどまでディアへ与えていた。
そして今度は、その結晶へ蓄えられた魔力を別の形へ変えていく。
獣。鳥。虫。
そして、この世界のどの生物とも完全には一致しない奇妙な姿をしたものたち。
メーレの生み出した幻獣だった。
それらが次々と形を得ると、魔物たちの群れへ紛れ込み、一斉にグレサスたちのもとへ向かっていく。
「メーレ!? やめろ!!」
レイズが叫ぶ。
だが、メーレは振り返らない。
「止めるな。これは戦いだ。奴らが我を捕らえるために来たのであれば、奴らは敵となる。――それともレイズ、お前は我が敵を倒す邪魔をするというのか?」
「違う違う! そうじゃない! そうじゃないんだよ、メーレ!」
だが、メーレは聞く耳を持たない。
レイズが言いたかったのは、まったく別のことだった。
魔物を送るな。
幻獣を送るな。
そんなものをグレサスへぶつけても、ほとんど意味をなさない。
むしろ今までのように迷宮そのものが少しずつ魔力を奪い続けるほうが、まだ可能性がある。どれほどグレサスが異常でも、魔力が無限に存在するわけではない。少しずつ、少しずつ削り続ければ、どこかで疲弊し、デュランと相談した末に一度引き返すという選択をするかもしれない。
レイズは、そこに僅かな期待を抱いていた。
だというのに――。
よりにもよってメーレは、グレサスへ大量の敵を送り込んでしまった。
「だが、それだけではない」
メーレが静かに告げる。
「奴は、あまりにも魔力を増やし続ける。我も可能な限り調整しているが……流れ込む量が多すぎる。見てみろ」
メーレが視線を向けた先にいたのは、ディアだった。
「…………」
小柄で愛くるしい身体。その腕には魔力の結晶が大切そうに抱えられている。
すでにお腹いっぱいなのだろう。
「ネムネム……」
眠そうに瞼を落としながら、それでもお気に入りの宝物でも抱えるように、結晶をぎゅっと抱きしめている。
「…………」
この騒動の原因の一端を担っているなど露ほども知らず、ディアは今にも眠ってしまいそうだった。
レイズはそんなディアを見てから、次々と生み出されていく結晶を見る。
「だったら俺がやる!!」
すぐさま一つへ手を伸ばした。
「エクリプスドレイン!!」
本来であれば魔力石へ干渉し、メモリアルストーンとして別の役割を与えるために利用している魔法。それを今度は、次々と生み出される魔力結晶へ叩き込んでいく。
結晶に与えられていた役割そのものが失われ、形を保てなくなった結晶がパキパキと砕けていく。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
「エクリプス! エクリプス! エクリプス!!」
次々と消していく。
そのたびにレイズの心の中では、別の叫びが響いていた。
(もったいねええええええええ!!)
これだけ純度の高い魔力結晶だ。
持ち帰ることができれば、いったいどれほどのことができるのか。
考えたくもない。
それを今、自分の手でひたすら無価値なものへ変えて砕いている。
だが、そんなレイズの葛藤など知る由もなく、メーレはどこか満足そうに笑った。
「ふふふ……。よかろう。ここからは我とお前で奴らを倒す」
「違う!! 俺はそっち側に入った覚えないからな!?」
だが、戦いはもう始まってしまっていた。
そしてレイズもまた、次第に余裕を失っていく。
「エクリプス……! くそっ、またか! エクリプス!!」
消しても。
消しても
次から次へと結晶が生まれる。
死属性を用いるにしても魔力は消費する。レイズとて永遠に能力を使い続けられるわけではない。
最初は簡単な役割だと思っていた。
グレサスから流れ込んでくる魔力を、メーレが処理しきれないなら自分が消してしまえばいい。
それだけのことだと思っていた。
だが――甘かった。
「あいつら……どんだけ魔力使ってんだよ……!」
あまりにも多い。
異常だった。
グレサスとデュランから流れ込み続ける魔力の量が、レイズの想像を遥かに超えている。
そして、ここにまた一つ。
誰も想定していなかった異常が生まれ始めてた。
このまま迷宮へ魔力が流れ込み続ければ、どうなる?
レイズは結晶を消しながら、嫌な予感に顔を引きつらせた。
「なぁ……メーレ。これ……もし俺たちが魔力を処理できなくなったら、どうなるんだ?」
メーレは何でもないことのように答える。
「知れたことだ。迷宮が決壊する」
「…………は?」
「行き場を失った魔力が許容量を超えれば、迷宮はそれを保持できなくなる。そうなれば蓄えられていた膨大な魔力が一気に外へ放出され、ジュラ全体を波のように満たすことになるだろう」
レイズの手が止まりかける。
「それって……」
「レアリスが目覚めるには、十分な話だ」
「余計ダメだろ!?!?」
レイズの絶叫が響いた。
「エクリプス!! エクリプス!! 消えろ!! 消えろって!! 頼むから増えるな!!」
先ほどまで以上の勢いで結晶を消し始める。
レイズの頭に浮かんだのは、ダムだった。
大量の水を蓄え、必要な量だけを少しずつ放流する巨大な構造物。
だが想定を遥かに超える豪雨によって水が流れ込み続ければ、いつか限界が訪れる。
そして堤防が崩れれば。
そこに蓄えられていたものすべてが、濁流となって下流へ襲いかかる。
今、この迷宮で起ころうとしているのは、それと同じだ。
ただし――蓄えられているのは水ではない。
魔力。
それもジュラという巨大な土地全体へ影響を及ぼしかねないほどの魔力だ。
そして、その決壊がレアリスを目覚めさせる引き金になる。
つまり。
とてつもない大災害になる。
「やべぇ!! 本当におかしいだろ!! 俺、世界樹の種取りに来ただけなんだけど!?」
「ただでもらえると思うか?」
メーレは平然と言う。
「それ相応の役目を果たせ」
「いや!! 俺の知ってるメーレはただでくれたんだよ!!」
「訳の分からぬことを言うな。馬鹿馬鹿しい」
「なんで今回だけこんなことになってんだよ!!」
そんなレイズの叫びなど届くはずもなく――その頃、迷宮では新たな変化が起きていた。
グレサスが無数に飛ばしていた光。
その一つが、奇妙な動きを捉える。
「…………む?」
光が動いている。
いや、正確には光そのものが動いているのではない。
光に照らされた何かが動いているのだ。
それはつまり――
グレサスの口元が大きく吊り上がった。
「デュラン! ついにだ!」
「何がですか!?」
「見つけたぞ!! 決して近くはないが……あそこだ! あそこにいる!」
「グレサス!! その前に一度魔法を止めてください!! 光が多すぎて何も見えないんですよ!!」
「む……」
グレサスは素直に光の供給を止めた。
本来であれば、一度発動した魔法は術者が止めたからといって即座に消滅するわけではない。だが、この迷宮では違う。
グレサスが供給を止めた途端、残っていた魔力が迷宮へ吸収され、光が次々と消えていく。
そして少しずつ視界が晴れていく中。
二人は見た。
「…………」
ぞろぞろ。
ぞろぞろ。
暗闇の向こうから、何かが押し寄せてくる。
やがて、その正体が見え始めた。
魔物。
それも一体や二体ではない。
グリーンアントの群れ。
デスガルゥの群れ。
さらに地面からは、デスフラワーが次々と茎を伸ばし、まるで二人の逃げ道を塞ぐように至るところで花を開いていく。
その中には、二人が一度も目にしたことのない奇妙な生物まで混ざっていた。
グレサスはその光景を眺めながら、ふと一輪のデスフラワーへ目を向けた。
花弁がぼろぼろになっている。
何かに攻撃された跡。
それを見たグレサスは冷静に呟く。
「どうやら、すべてがすべて味方というわけでもないらしいな」
「分析している場合ですか……!」
デュランもすぐさま剣を抜いた。
「この数はさすがにまずいですよ。それに……見たことのないものまで混ざっています」
先ほどまで決して遊んでいたわけではない。
だが、それでもどこか探索の延長だった二人の空気が、ここで明確に変わった。
デュランは剣を構える。
そしてグレサスも――。
「…………」
網を構えた。
「グレサス!!」
「なんだ」
「その網が特別なのはもう分かりました!! ですが今は剣です!!」
「少し試したいことがある」
「今ですか!?」
その瞬間。
複数のグリーンアントが一斉に顎を開いた。
シュババババッ!!
凄まじい勢いで酸が飛来する。
ただの酸ではない。
触れれば皮膚を溶かし、体内へ入れば猛毒によって内側から命を奪う。明確な殺意を持った攻撃だった。
だがグレサスは避けない。
セフィロトの枝の先へ取り付けた網を両手で握り、そのまま大きく振り回した。
ブォンッ!!
一度。
二度。
三度。
網が回転するたびに風が巻き起こる。
そして次の瞬間。
ゴォォォォォッ!!
突風などという生易しいものではなかった。
暴風。
グリーンアントが放った酸はグレサスへ届くことなく巻き上げられ、遥か上空へ舞い上がる。
そして、そのまま風へ飲み込まれ――。
「まずい!」
デュランが気づいた。
酸を含んだ暴風が、そのまま魔物たちの群れへ向かっていく。
魔物たちが一斉にざわめいた。
そのときだった。
「コココココココ!!」
一羽のコカトリスが前へ出る。
「コケェェェェェ!!」
バサバサバサバサッ!!
巨大な翼を必死に羽ばたかせる。
コカトリスからも凄まじい風が生み出され、グレサスの暴風へ正面からぶつかった。
ゴォォォォォッ!!
二つの風が衝突する。
酸を巻き込んだ暴風は互いに押し合い――やがて空中で霧散した。
「吸い込まないでください!」
デュランは即座にシェルを展開し、片手で口元を覆う。
霧状となった酸が周囲へ漂う。
だが。
「ふむ……」
グレサスは網を見つめていた。
「ならば、これはどうだ」
網へ水と光の魔力が流れ込む。
二つの属性が絡み合い、先ほど覚えたばかりの魔法が形を変えていく。
「クリア……ランス!」
ブワッ!!
本来なら身体の不調を取り除くために教わった魔法。
それが今。
網によって広範囲へ拡散され、上空を覆った。
水と光が酸の残滓へ触れ、次々と浄化していく。
デュランの目が見開かれる。
「そんな使い方……」
自分が教えた魔法である。
最近覚えたばかりの魔法である。
なのに、もう別物になっていた。
「……本当に、あなたという人は……」
だがグレサスは聞いていない。
脚へ魔力を集中させ、一気に地面を蹴った。
ドンッ!!
身体が宙へ飛ぶ。
同時に、網にも黄金色の魔力が流れ込んだ。
セフィロトの枝。
網。
その双方を、膨大な魔力によって強引に補強する。
そして――。
「まずは一匹だな」
一体のデスガルゥへ向けて網を振り下ろした。
本来なら。
バサッ。
そんな音が鳴るはずだった。
だが。
ドガァッ!!
響いたのは、あまりにも鈍い音。
「ガッ――!?」
網の中へ収めるはずだったデスガルゥの身体へ、網の縁が直撃した。
その部分が一瞬で粉砕される。
「…………」
ピク。
ピクピク……。
「ガゥゥ……」
網の下。
正確には網の中ですらなく、その縁で殴り倒されたデスガルゥが瀕死の状態で痙攣していた。
グレサスは満足そうに頷く。
「まずは一匹捕獲だ」
「いえ!! それは捕獲ではないでしょう!?」
デュランの叫びが迷宮へ響く。
だがグレサスは気にすることなく剣を抜いた。
スパンッ。
デスガルゥの首が落ちる。
「…………」
そして剣を身体へ突き刺し、魔力石を取り出した。
「デュラン。お前が回収しておけ」
「今殺しましたよね!?」
「次だ」
「聞いてください!!」
グレサスはすでに次の獲物へ向かっていた。
その光景を見ていた魔物たちにも、少しずつ理解が広がっていく。
何かがおかしい。
自分たちは侵入者を狩るためにここへ集められた。
そのはずだった。
だが。
違う。
捕食する側は――自分たちではない。
自分たちが。
狩られる側だ。
デスフラワーたちは必死になって大量の粉を撒き散らす。
だが、グレサスの周囲を纏う風がそれを寄せ付けない。
それどころか下手に粉を撒けば、風によって仲間の魔物へ飛ばされかねない。
危険を察したデスフラワーたちは地面へ根を伸ばし、一斉に巨大な根の壁を作り出した。
コカトリスも石化ブレスを吐こうとする。
だが。
味方が多すぎる。
「コ……ココ……」
吐けば巻き込む。
吐かなければ止められない。
石化ブレスの吐きどころを完全に見失っていた。
その間にもグレサスは剣を振るう。
ズバァンッ!!
根の壁がまとめて薙ぎ払われた。
そしてその奥にいた一体のデスフラワーへ、再び網を振り下ろそうとした――その瞬間。
「コココココココ!!」
横からコカトリスが飛び込んできた。
ドガッ!!
蹴りがグレサスの網へ直撃する。
僅かに軌道が逸れた。
網がデスフラワーの横へ落ちる。
「む?」
「コココココココ!! ココ!!」
コカトリスが勇ましく鳴く。
仲間を守った。
そして今度こそ。
大きく息を吸い込み――石化ブレスを。
「うるさい」
ドゴッ!!
「コケェェェェェェ!!!!?」
蹴り返された。
コカトリスがものすごい勢いで吹き飛んでいく。
「…………」
デュランは何も言わなかった。
言う暇がなかった。
なぜなら今度は、見たことのない生物たちが一斉にグレサスへ飛びかかっていたからだ。
「なんだ、お前たちは?」
その身体は強烈な白い光を帯びている。
既知の魔物とは明らかに違う。
グレサスは再び網へ魔力を流し、一気にまとめて受け止めた。
だが。
ビリッ。
小さな音がした。
「…………」
グレサスの眉間へ皺が寄る。
網の一部が裂けていた。
「こいつら……」
その瞬間、迷いなく武器を切り替える。
網から剣へ。
そして。
一閃。
二閃。
三閃。
白い生物たちが瞬く間に切り刻まれていく。
木っ端微塵。
まさにその言葉が相応しかった。
だがグレサスは、倒した相手を見下ろして動きを止める。
「…………妙だ」
「何がです?」
「こいつは。魔力石を持っていない」
「…………?」
倒した。
確実に殺した。
それなのに、魔物ならばあるはずの魔力石が存在しない。
その正体は分からない。
だが、グレサスの中で一つの違和感が生まれた。
その間にも、仲間を殺されたデスガルゥが怒りに牙を剥く。
「ガァァァァッ!!」
背後から飛びかかった。
だがグレサスは振り向きすらしない。
剣を後ろへ突き出す。
ズブッ!!
「ギャッ――」
身体を貫かれたデスガルゥを、そのまま剣で持ち上げる。
そして乱暴に振り払った。
「こちらは本物だな」
倒れたデスガルゥへ手を向ける。
ボォッ!!
強烈な炎。
火属性を持つはずのデスガルゥの身体が、それすら上回る火力によって一瞬で焼き尽くされる。
残ったものは、僅かな骨と――。
魔力石。
「やはりな」
「グレサス!!」
デュランの怒声が飛ぶ。
「森で火を使いすぎないでください!! 危険です!!」
「分かっている」
「本当ですか!?」
グレサスは上空へ水属性の魔力を展開する。
大量の水が生み出される。
そして。
再び網。
「…………まさか」
ブォンッ!!
網を大きく振り回した。
大量の水が一気に拡散される。
まるで雨だった。
ザァァァァァァ――。
周囲へ降り注いだ水によって炎は瞬く間に鎮火していく。
「…………」
デュランはもう何も言わなかった。
そして。
魔物たちもまた、何もできなくなりつつあった。
火属性を持つデスガルゥ。
その身体すら一瞬で焼き尽くす炎。
直後には、それを容易く消し去る大量の水。
毒は風で返される。
粉は届かない。
根の壁は剣で斬られる。
石化ブレスを持つコカトリスでさえ、吐く機会すら与えてもらえない。
そして見たことのない幻獣たちは、一瞬で切り刻まれた。
何をしても。
何を使っても。
その人間は、その場で答えを出してしまう。
一体のデスガルゥが、一歩後ずさる。
それを見たグリーンアントも動きを止める。
デスフラワーの花弁が僅かに震える。
蹴り飛ばされたコカトリスが、遠くでよろよろと身体を起こした。
「……コケ……」
誰が最初に理解したのかなど、もう分からない。
だが。
この場にいたすべての魔物が、ほとんど同時に理解していた。
自分たちは、この人間を狩るために集められたのではない。
逆だ。
獲物は。
自分たちだ。
そして――。
勝てるわけがない。




