知っている事の責任
メーレは、迷宮の内部で起きていることを正確に把握していた。
グレサスとデュランがどこを進み、何を調べ、どれほどの魔力を使っているのか。そのすべてが、このジュラと深く結びついているメーレには手に取るように分かる。
だからこそ――あまりにも予想外でありながら、同時に、あまりにも想定内だった。
メーレは慌てていない。
むしろ、その巨大な瞳をわずかに細め、どこか愉快そうに喉を鳴らした。
「フフフ……とんでもないな。本当に、人とは思えぬ」
「…………」
隣にいるレイズには、迷宮で何が起きているのかまでは分からない。
だが、メーレの反応を見れば十分だった。
グレサスとデュランが、何かとてつもないことをやっている。
それも、おそらくメーレが笑ってしまうほどに。
「……そうなんだよ」
レイズは小さく息を吐くと、少しだけ考え込んでからメーレを見上げた。
「なぁ、メーレ。俺に考えがある」
「ほう。それはなんだ?」
「メーレは知らないかもしれないけど……王国とアルバードは、少し前まで敵対していた。いや、完全な敵だったっていうより……互いに信用できない状態だったって言ったほうが近いのかな」
レイズは言葉を選びながら続ける。
「でも最近になって、王国の王――カイネルとは、ある程度わかり合えた。少なくとも、いきなり剣を向け合うような関係じゃない。だから、あそこにいるのが王国の騎士なら……最悪、俺が直接話せばなんとかなると思う」
メーレの瞳が、わずかに細くなる。
「それに……」
レイズは少し言いづらそうに視線を落とした。
「俺だって、本当なら人のことを言える立場じゃないんだ。メーレに会うためとはいえ、世界樹の種を手に入れるために、王国の領土を無断で通ってここまで来てる。本当ならカイネルに許可を取ってから来るべきだった。それは分かってる。でも……時間がなかった。だから急いでここまで来た」
そこで一度言葉を切り、レイズは迷宮のある方角へ視線を向ける。
「だから……もしメーレがグレサスとデュランと戦うつもりなら、俺が行く」
「…………」
「今から俺があいつらに会って、止めてくる。たぶん色々聞かれる。面倒なことになるのも分かってるし……グレサスは、俺が知ってるあいつなら、事情を知ったら余計に興味を持つかもしれない」
それでも、とレイズは続けた。
「少なくとも、最悪の事態にはならないと思う」
「最悪の事態……」
メーレが静かに問い返す。
「それは、誰にとっての話だ?」
レイズは一瞬だけ黙った。
だが、答えは決まっていた。
「全員にとってだよ」
迷いのない言葉だった。
「グレサスもデュランも知らないはずなんだ。レアリスが目覚めたら何が起きるのか。この大陸そのものが……人間も、魔族も関係なく、無差別に消えていく可能性があることだって」
「……レアリスのことを伝える、というのか?」
「分かってる。分かってるよ」
レイズは眉間に皺を寄せた。
「レアリスについて、事実を安易に伝えることも禁じられている。そう言いたいんだろ?」
「その通りだ」
メーレの声から、先ほどまでの愉快そうな響きが消える。
「レアリスについて……この世界の管理者とも呼ぶべき存在について、この世界に生きる者たちが安易に認識すること。それ自体が間違いなのだ」
「……みんながレアリスを敵だと思うからだろ?」
「そうだ」
メーレはゆっくりと頷いた。
「レアリスを自然災害と決めつけることは容易い。人も、魔族も、自らに害を成すものを脅威と呼び、排除しようとする。だが、それは違う」
低く、静かな声が響く。
「レアリスは世界を守っている。循環を、均衡を、世界そのものの在り方を調整している。故にレアリスを倒すなどという発想そのものが、あまりにもおこがましい」
レイズは黙って聞いていた。
「我らがレアリスの守護者であるならば、レアリスは世界の守護者と呼べる。故に、我らはレアリスが安易に目覚めることを望まない。そして、レアリスが脅威であるという誤った認識が広まることも許さぬ」
その意味を、レイズは理解していた。
仮に自分が「レアリスは悪ではない」と説明したとしても、聞いた者すべてが同じように理解するとは限らない。
ある者は恐れるだろう。
ある者は倒そうと考えるかもしれない。
ある者は利用しようとするかもしれない。
そして何より――王国のすぐそばにあるジュラの奥深くに、そんな存在が眠っていると知られれば、人々の意識そのものが変わってしまう。
今はまだ。
決して王国へ伝えてはいけない事実だった。
「それを踏まえてだ、レイズ」
メーレが問いかける。
「何を伝え、何を与え、どうやってあれらを引かせるつもりだ?」
「…………」
レイズは腕を組んだ。
「正直、グレサスとデュランがなんでここまで来ようとしてるのかは分からない。でも……たぶん王国は、ジュラを攻略することに大きな意味があるって本気で考えてるんだと思う」
少し考えながら、言葉を続ける。
「だから、それが知りたい。それに……王国が簡単に手を出していい場所じゃないってことも伝えなくちゃいけないだろ。ジュラは規模が違いすぎる」
そしてメーレを見る。
「メーレだって、むやみに荒らされるのは嫌だろ?」
「……レイズ」
「ん?」
「勘違いをしているな」
「な、何をだよ?」
メーレは周囲へ視線を巡らせた。
「ジュラに満ちる、この膨大な魔力。それもまた、ジュラを維持するために必要なものだ」
「……?」
「そして、ジュラだけですべてを補うことができなくなれば、ジュラもまた外へ魔力を拾いに行く必要が生まれる」
レイズの表情が変わる。
「……外へ?」
「何事も、すべては調和だ」
メーレは静かに続ける。
「ジュラに立ち入るな――そういう話ではない。ジュラにも必要なものがある。故に、ここへ立ち入る者もまた必要なのだ」
「…………」
「そこが難しい」
メーレの声には、途方もない年月を生きてきた者だけが持つ重みがあった。
「ジュラは危険だ。だが、あまりにも危険であり、誰も寄り付かぬ場所だと外の者たちが悟れば、今度はジュラの側から必要なものを取りに行かねばならぬ。それでは均衡が崩れる」
レイズは何も言えなかった。
「近づきすぎてもならぬ。遠ざけすぎてもならぬ。奪いすぎても、与えすぎてもならぬ。その均衡を保ちながら、ジュラは長く、長く……ここに在り続けてきた」
そしてメーレは、まっすぐレイズを見た。
「だからこそだ。レイズ」
「……?」
「お前は、あまりにも多くを知っている」
レイズの瞳が揺れる。
「それ自体が、常に危険であることを知る必要がある」
「…………」
「何でも知っていることは、決して強みだけにはならぬ。知識とは、時に調和を激しく揺らす原因になり得る。故に、知っているからといって、すべてを話す必要などない」
その言葉に、レイズは返事をしなかった。
できなかった。
なぜなら――どこかで聞いたことのある言葉だったからだ。
その時、メーレが大きく口を開いた。
瞬間。
迷宮の方角から、目には見えない膨大な魔力が引き寄せられていく。
「……っ?」
レイズが目を見開く。
空気が震える。
ジュラそのものへ溶け込んでいた魔力が流れを変え、まるで川が海へ注ぎ込むようにメーレへ吸い込まれていく。
グレサスとデュランが迷宮内部であまりにも大量の魔力を使い続けている。その結果、迷宮内部へ供給される魔力の均衡が大きく乱れ始めていた。
だからメーレは、その余剰を吸い上げ、調整しているのだ。
やがて。
メーレの身体から、小さな光がこぼれ落ちた。
一つ。
二つ。
三つ。
硬質な音を立てながら地面へ転がったそれを見て、レイズの表情が固まる。
「……メーレ」
知っている。
魔物は、体内に魔力石を宿す。
魔族は、魔石を宿す。
そして――神獣と呼ばれる存在は。
自らの内側へ蓄えた魔力を、純粋な結晶として外へ生み出すことができる。
魔力の結晶。
それこそが、神獣が狙われる最大の理由の一つでもあった。
通常では考えられないほど純度の高い魔力を内包し、それでいて神獣にとっては、魔力さえ蓄積すれば再び生み出すことのできるもの。
人間が知れば。
国が知れば。
魔族が知れば。
必ず欲しがる者が現れる。
だからこそ――絶対に知られてはならない。
「……いいのか?」
レイズは思わず問いかけた。
「俺に、それを見せて……」
メーレは平然としていた。
「レアリスを正しく知る者であるならば、我らにとって害となる行動を、お前はもはや容易には選べぬ」
「…………」
「これは信頼や信用などという、易い話ではない」
メーレの巨大な瞳が、レイズを見つめる。
「責任だ」
その一言が、胸の奥へ深く落ちた。
「お前が平和を望むのであれば、知ったものに対して責任を持て。それだけのことだ」
その瞬間。
レイズの脳裏に、一人の老人の姿が浮かんだ。
ヴィル。
この世界へ来たばかりの頃、未来のことを知っていると話した自分へ、ヴィルは確かに言っていた。
未来を知っていることは武器になる。
だが。
時として、それは災いにもなり得る。
だから、誰彼構わず話してはならない、と。
「…………」
レイズは地面へ転がる魔力の結晶を見つめた。
これまで自分は、未来の知識を使ってきた。
様々なことを伝えた。
様々なものを作った。
知っていることが、自分の強みなのだと思っていた。
だが。
目の前にある神獣の秘密。
レアリスという存在。
ジュラという場所の本当の役割。
それらは、自分一人の判断で軽々しく誰かへ教えていいものではない。
「……こういうことだったんだな」
レイズが小さく呟く。
ヴィルがあの時、何を心配していたのか。
今になってようやく、その意味が少しだけ分かった気がした。
そんな重たい空気を――。
「ディア」
メーレが唐突にぶった切った。
「ン?」
「腹が空いただろう」
ディアの瞳が一瞬で輝いた。
「スイタ!! スイタ!!」
「ならば、それでも食べていろ」
メーレは地面へ転がっている魔力の結晶へ視線を向ける。
そして少し考えてから、
「……いや。舐めていろ」
「…………」
レイズは思わず苦笑した。
「おいおい……それ、一応ものすごい希少品なんだけどな……」
まるで子供へ飴玉でも与えるような扱いだった。
しかしメーレは平然としている。
「故にディアがいる」
「え?」
「先ほども言っただろう。ディアはこれらを食べることができる。ならば、すべてディアに食べさせてしまえば、実在した証拠そのものを残さずに済む」
「…………あ」
そこでレイズも理解した。
「なるほど……」
ディアがいれば、魔力の結晶そのものが残らない。
それどころか――。
「ってことは……グレサスたちが何も知らずに魔力を使えば使うほど、その魔力をメーレが吸収して結晶に変えて……それをディアが食べ続けるってことか」
「そういうことだ」
「……すごいな」
レイズは素直に感心した。
メーレが、正面から戦う必要などないと言っていた意味が、ようやく分かった。
敵を倒す必要がない。
侵入者が使った力そのものを回収し、ジュラへ悪影響が出ないよう調整し、余剰分は結晶化する。
そして、その結晶すらディアが消費する。
「こういう戦い方もあるんだな……」
レイズは感心しながら呟いた。
だが。
ふと疑問が浮かぶ。
「なぁ。ディアはいいとして……俺は?」
「ん?」
「俺は何を手伝えばいい?」
その問いに、メーレはしばらく迷宮の方角へ意識を向けていた。
そして。
「…………」
少しだけ黙った。
「どうした?」
「……増えている」
「何が?」
「迷宮内部の魔力だ」
「え?」
「今もなお、とてつもない速度で増え続けている」
「…………」
「ディアの消化だけでは、到底間に合わぬ」
「そんなに!?」
「故にレイズ。お前も魔力を消し続けろ」
「俺も?」
「先ほど見せた力だ。あれもディアと同じく、魔力を消すという意味では似た性質を持っているのだろう?」
「ああ……まあ、そうだけど」
「ならば消せ」
「わ、分かった。俺は消せばいいんだな?」
直後。
メーレの身体から、さらに膨大な魔力が溢れ出した。
「うおっ!?」
次々と結晶が形成されていく。
本来であれば、そのすべてを結晶として保管し、後からディアへゆっくり食べさせることもできる。
だが。
結晶を作り出す速度より。
今この瞬間にも迷宮へ供給され続けている魔力の量のほうが、明らかに多い。
メーレは迷宮の方角を見つめながら、呆れたように呟いた。
「それにしても……とんでもない人間だ」
そして。
わずかな間を置いて。
「…………とんでもない馬鹿がいたものだ」
「…………」
レイズは何も言わなかった。
何が起きているのかは分からない。
ただ一つだけ。
誰のことを言っているのかだけは、なんとなく分かった気がした。
◇ ◇ ◇
その頃。
迷宮内部では――。
「ハハハハハハ!! なかなかに面白いな!!」
「グレサス!! いくら貴方でも使いすぎです!!」
完全な暗闇の中。
グレサスが網をぶんぶんと振り回していた。
ただし。
その網から放たれているものは、到底ただの網から出ていいものではなかった。
振る。
光を帯びた風が走る。
また振る。
さらに光の粒子が広がる。
また振る。
暗闇の中へ、格子状に光の線が刻み込まれていく。
デュランが編み出したエアルドオーブを、グレサスは気に入ってしまったらしい。
しかも、一度使えば十分なはずの魔法を、まるで子供が新しい玩具を手に入れたかのように乱発している。
「魔法の効果が切れてから次を使ってください! さすがに持つわけがないでしょう!」
だがグレサスは止めない。
ブンッ。
ブンッ。
ブンッ。
光を帯びた風が、次々と暗闇を走っていく。
「聞いているのですか!?」
「俺を信じろ。問題はまったくない」
「その言葉を信じられなくなってきているんですよ!!」
デュランは頭を抱えたくなった。
グレサスが規格外なのは、今に始まったことではない。
だが、エアルドオーブは本来、それなりに繊細な魔法なのだ。
柔らかな風を生み出し、その流れへ光属性の魔力を乗せる。そして風が触れた実在する物質へ、粒子状に変化した光を付着させていく。
実物であれば光は吸着する。
反対に、実在しない幻覚であれば通り抜ける。
それを利用して、本物と偽物を判別する。
単純に見えて、かなり高度な技術だった。
何より、この迷宮を覆っている闇魔法の精度が異常なのだ。
闇属性は、術者の熟練度が上がれば上がるほど、その性質を複雑に変えていく。
視覚。
聴覚。
嗅覚。
それらを欺く程度であれば、まだ理解できる。
だが、この場所の闇は違う。
存在しないはずのものへ触れた感覚すら作り出してしまう。
本当は何もない場所へ手を伸ばしているにもかかわらず、脳はそこに木があると認識する。
触れていないものを、触れたと思い込む。
見えていないものを、見えていると思い込む。
だからこそグレサスは、より強い闇で視界そのものを一度塗り潰した。
余計な情報が脳へ入るのなら、すべて消してしまえばいい。
そして。
必要な情報だけを、エアルドオーブによって浮かび上がらせる。
やっていることだけを説明すれば、理には適っている。
だが。
「力技にも程があるでしょう……」
デュランは呆れていた。
使っている魔法の水準が、どれも高すぎる。
当然。
消費する魔力も尋常ではない。
しかも――。
「…………?」
そこでデュランは、ある違和感に気づいた。
グレサスが振り回している網。
正確には。
網そのものではない。
「…………」
デュランの目が、その柄へ向けられる。
ただの木の棒。
そのはずだった。
魔法使いが使用する杖には、当然ながら理由がある。
魔力伝達率に優れた素材を用い、内部へ魔力が滞りなく流れるよう加工を施し、さらに先端へ魔石を嵌め込むことで、魔法の威力や安定性を高める。
優れた杖であればあるほど、術者の負担は軽くなる。
だが。
グレサスが持っているものは。
木の棒。
その先に。
網。
「…………」
それなのに。
魔力が通りすぎている。
グレサスの手から放たれた光属性の魔力が、ほとんど抵抗を受けることなく木の内部を駆け抜け、そのまま網へ到達している。
あまりにも滑らかに。
あまりにも効率よく。
「……まさか」
デュランの表情が引きつった。
「グレサス」
「なんだ? 忙しいというのに」
ブンッ
また網を振る。
光が飛ぶ。
どう見ても忙しいというより、新しく覚えた魔法で遊んでいるようにしか見えない。
「その網です」
「これがどうした?」
「正確には……その網についている棒についてです」
「棒?」
「それ……どこで手に入れたのですか?」
その瞬間。
グレサスの手が、一瞬だけ止まった。
デュランの心臓が嫌な音を立てる。
だが。
「ぁあ。手頃なものが落ちていた。故に拾った」
「…………」
拾った。
その一言に。
デュランは心の底から安堵した。
「……そうですか」
よかった。
本当によかった。
自分が想像したものではない。
なぜなら。
あの木の枝が、地面へ都合よく転がっているなどあり得ない。
「拾ったんですね。よかったです」
「何がだ?」
「いえ……あまりにも魔力の通りが良いので。てっきり――」
デュランは苦笑した。
「セフィロトを折って手に入れたのかと……」
「…………」
「さすがに、そんなことは――」
「切ったら落ちた」
「…………」
「故に拾ったのだ」
「…………」
デュランの口が、大きく開いた。
そのまま。
閉じない。
「…………は?」
空いた口が塞がらない。
まさに、その言葉通りだった。
「…………切った?」
「ぁあ」
「セフィロトを?」
「そうだ」
「…………」
王国には。
正確には王城には、一本だけ、神木と呼ばれる木が大切に管理されている。
――セフィロト。
その成長は非常に遅い。
数年という長い年月をかけ、ようやく伸びた枝を、ごく僅かに切り取ることが許される。
そして切り取られた枝は、王国随一の職人へ渡される。
長い時間をかけて乾燥させ。
削り。
磨き。
魔力の流れを一切阻害しないよう、細心の注意を払いながら加工する。
さらに、その先端へ高品質の魔石を嵌め込み、王国最高峰の装飾を施す。
そうしてようやく。
一振りの杖となる。
それを与えられる者は、ごく僅か。
魔法へ極めて高い適性を持ち、王国へ大きな功績を残した者だけ。
それは武器であると同時に、名誉であり。
王国そのものの象徴ですらある。
そして。
現在。
王族の中で、その杖を愛用している者は――。
国王カイネルのみ。
「…………」
デュランは、ゆっくりとグレサスの手元を見た。
神木。
国宝級の素材。
国王すら愛用する杖へ使われている木。
それを。
この男は。
切った。
拾った。
そして。
その先端に。
網をつけた。
「…………」
デュランの顔から、みるみる血の気が引いていく。
その時。
グレサスが何気なく振り返った。
「ん?」
そして。
デュランの顔を見る。
「…………」
暗闇の中。
先ほどから大量に撒き散らしていた光の粒子が、デュランの全身へびっしりと付着していた。
特に顔。
真っ青になった表情を浮かべながら、輪郭だけが無駄に神々しく光り輝いている。
「…………ッ」
グレサスの口元が震えた。
「ウハハハハハハッ!!」
「グレサス!!」
「や、やめろ!! その顔でこちらを見るな!!」
「これは!!笑い事ではありません!!」
「ウハハハハッ!!」
「陛下の許可は!?」
「ハハハッ!」
「何をしたのか分かっているのですか!?」
だが、グレサスは完全にツボへ入っていた。
デュランが真剣な顔をすればするほど、その顔にまとわりついた光の粒子が輝く。
「ウハハハハッ!! だから念には念をと言っただろう!!」
「違います!!」
「何が違う!」
「それは神木の話でしょう!!」
ようやく笑いを少しだけ収めたグレサスが、網を肩へ担ぐ。
「だからこそだ」
「何がです!?」
「神獣を相手にするのだぞ?」
「…………?」
グレサスは当然のことを言うように。
「神には神だろう?」
「そういう問題ではありません!!」
デュランの絶叫が迷宮に響いた。
「陛下に怒られる!! 絶対に怒られます!! 何を考えているんですか!!」
「陛下ならば分かる」
「分かりません!!」
「神獣を捕まえるためだ」
「余計に分かりません!!」
デュランは頭を抱えながら、もう一度その網を見る。
セフィロト。
神木。
国宝級。
その先に。
網。
「…………」
そして。
さらなる嫌な予感がした。
「まさか……」
「ん?」
「その網も……?」
デュランは震える指で、先端部分を指差す。
「何か特別な素材を使っているのでは……?」
「…………」
グレサスも網を見る。
少し眺め。
そして。
「ぁあ」
デュランが息を呑む。
「これはただの網だ」
「…………」
「…………」
デュランの顔が。
今度こそ完全に青ざめた。
神木セフィロト。
王国の宝。
国王の杖にすら用いられる素材。
その先端に括りつけられていたものは。
――ただの網だった。




