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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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冒険者の概念

その頃、王都では著しい変化が起きようとしていた。


その中心にあるのは、アルバードから持ち帰られた複数のメモリアルストーンだった。光を発するもの。火を生み出すもの。水を湧き出させるもの。冷気を生み出すもの。そして浄化の魔法が記憶されたもの。どれも記憶されている魔法そのものは決して複雑ではない。むしろ魔法を扱える者からすれば基礎に分類されるものばかりだった。しかし、それを見つめるカイネルの目は真剣そのものだった。


王城の一室には、王国の技術開発を担う者たちをはじめ、財政や水源管理に関わる文官、魔法に精通した者たちが集められている。その中央に置かれた大きな机。その上にはアルバードから持ち帰ったメモリアルストーンと、鉄線、銅線、金線、そして大小さまざまな魔力石が並べられていた。


カイネルは腕を組みながら、それらをじっと見つめる。


「考えろ。アルバードとまったく同じ物を作る必要はない。そもそも我らには、あれほど自由に扱えるミスリルがないのだからな」


「はっ。しかし陛下。レイズ殿から伺った話では、アルバードではミスリルを導線として利用しているとのことでしたが……」


「だから代わりを探すのだ。鉄が駄目なら銅。銅が駄目なら金。効率が悪くとも構わぬ。まずは何ができ、何ができぬのか。それを知るところから始めればよい」


カイネルがそう言うと、開発者たちはすぐに動き始めた。レイズから聞かされた知識は決して多くない。むしろカイネル自身、あの少年がすべてを教えたわけではないことくらい理解している。ただ、それでも十分だった。メモリアルストーンへ記憶された魔法。そこへ魔力を通すための導線。そして術者自身ではなく、魔力石を動力として利用するという発想。その三つさえ分かれば、後は王国自身が考えればいい。


鉄線の先へ魔力石を置き、その反対側を光のメモリアルストーンへ繋ぐ。開発者の一人が慎重に魔力石を重ねると、わずかな間を置いて石から光が生まれた。


「……ついた」


誰かが呟いた。


「次だ」


カイネルは驚くよりも先に命じる。


今度は火の魔法が記憶されたメモリアルストーンへ繋ぐ。すると小さな炎が生まれた。魔力石を外せば炎は消える。再び接触させれば火がつく。


カイネルは目を細めた。


「なるほど……魔力石そのものを、術者の代わりとしているのか」


「はい。効率についてはミスリルとは比較にならないでしょう。しかし銅でも魔力そのものは伝わっております」


「十分だ。今必要なのは完成品ではない。可能であるという事実だ」


次に、水を生み出すメモリアルストーンが試された。同じように導線を繋ぎ、魔力石を接触させる。


しかし――何も起きない。


もう一度試す。


それでも水は出なかった。


「故障でしょうか?」


「いや」


カイネルはすぐに否定した。


「術者が直接やってみろ」


水属性を持たない一人の男が恐る恐るメモリアルストーンへ手を置き、自らの魔力を流し込む。すると次の瞬間、石の表面から水が溢れ出した。


「……出ました」


男が驚いたように声を上げる。


「止めろ」


魔力を止めると、水も止まった。


カイネルはしばらく黙り込んだ。


「そういうことか……」


「陛下?」


「光や火、冷気のようなものと、水では性質そのものが違うのだろう。水は実際にそこへ物質として生み出される。ゆえに、ただ魔力石を置くだけでは足りぬ。しかし術者本人が魔力を流せば発動する」


「ですが、それでは自動化できません」


一人の文官が残念そうに口にした。


だが、カイネルはその言葉を聞いて笑った。


「なぜ自動でなければならぬ?」


「……は?」


「考え方が逆だ。これを使えば、水属性を持たぬ者が水を生み出せるのだぞ」


その言葉に、部屋が静かになった。


カイネルは水を生み出した男へ視線を向ける。


「お前は水属性を扱えるのか?」


「い、いえ。私の適性は風でございます」


「だが今、お前は水を生み出した」


「……はい」


「ならば、それだけで価値がある」


カイネルは机の上のメモリアルストーンを指差した。


「我が国の水がどのように供給されているか、お前たちなら当然知っているな。雨。河川。地下水。そして水属性を扱える者たち。それらを水溜め場へ集め、必要に応じて浄化し、民へ供給している。無論、無料ではない。水源の維持、管理、浄化、運搬。それらすべてに人と金が必要だ。そのため民は税という形で負担している」


水源管理を担当する文官が頷く。


「はい。特に王都では人口が多いため、水の維持に必要な費用は決して小さくありません。水そのもの以上に、浄化に割く術者の確保が大きな負担となっております」


「ならば浄化の石を試せ」


すぐに別のメモリアルストーンが用意された。汚れた水を器へ入れ、そのそばへ浄化の魔法を記憶したメモリアルストーンを置く。導線を繋ぎ、魔力石を接触させる。


今度は反応した。


淡い光が水を包み、やがて消える。


担当者が水を確認し、驚いたように目を見開いた。


「……浄化されています」


カイネルの口元がゆっくりと上がった。


「魔力石が尽きるまでは?」


「おそらく継続可能かと」


「ならば浄化を担当していた術者を減らせる」


「……!」


「そして水を生み出す方は、人が魔力を流せばよい」


一人の文官がそこでようやくカイネルの考えていることを理解した。


「まさか……新たな仕事として?」


「ああ」


カイネルは当然のことのように答える。


「難しいことではない。一日中限界まで魔力を使えなどとは言わぬ。その者が無理なく供給できる量を定めればよい。水属性の適性など必要ない。メモリアルストーンへ魔力を流す。それだけで水を生み出せるのなら、それは立派な労働だ」


「ですが陛下。そのような単純な仕事を望む者がいるでしょうか?」


その問いに、カイネルは少しだけ眉を上げた。


「楽しいか、楽しくないかなど、今はどうでもよい」


静かな声だった。


「働きたくとも、自分には何もないと思っている者は大勢いる。魔法の才能がない。剣も振れぬ。商売の才もない。だが魔力だけなら多少は持っている者もいる。その者たちが国に必要とされ、その対価として金を得られるのなら、それは十分に職となる。国にとって必要な役割であり、その者自身が生きていく手段になるのならな」


誰も反論しなかった。


カイネルはそこで改めて机の上のメモリアルストーンを見る。


「もっとも、このまま民へ渡すわけにはいかぬ」


「盗難……でしょうか」


「それだけではない。壊される。持ち逃げされる。仕組みを知らぬ者が勝手に分解する可能性もある。そもそも、これ自体の価値があまりにも高い」


そこでカイネルは、アルバードで見たものを思い出した。


メモリアルストーンは剥き出しに置かれていなかった。照明として使うなら照明器具の内部へ。水を扱うなら設備の内部へ。冷気を利用するなら箱の中へ。使用者がメモリアルストーンそのものを意識する必要がないよう、用途に合わせて加工されていた。


「……ハハハ」


突然笑い出したカイネルに、周囲の者たちが怪訝そうな顔を向ける。


「陛下?」


「いや……知れば知るほどだ」


カイネルは額へ手を当てながら笑った。


「レイズ……やはりあやつは、とんでもないな」


単に魔法を石へ記憶させたのではない。その先まで考えている。誰が使うのか。どう使うのか。どうすれば壊されにくいのか。盗まれにくくできるのか。そして生活の中へどう溶け込ませるのか。アルバードで当たり前のように使われていた物の一つ一つに、そうした工夫が施されていたのだ。


王都へ持ち帰り、自分たちで一から試してみたからこそ分かる。


レイズは発明しただけではない。

発明した物を、人々が使える形へ変えていた。


「……笑うしかないではないか」


カイネルは呆れたように呟く。


しかし、王国もいつまでも驚いているわけにはいかない。


光のメモリアルストーンだけでも価値は計り知れなかった。王都では毎日、膨大な量の蝋燭が消費されている。王城、貴族の屋敷、商店、宿、夜間も仕事を続ける施設。そのすべてが光を必要としている。もしメモリアルストーンによる照明へ少しずつ置き換えることができれば、蝋の消費量を大きく減らすことができる。


火も同じ。

冷気も同じ。

浄化も同じ。

必要なのは――魔力石。


そこで、一人の財務官が資料へ視線を落とした。


「陛下。一つ、問題がございます」


「言え」


「これらを王都全体へ普及させるとなれば、現在王国が保有している魔力石では到底足りません」


「だろうな」


カイネルも最初から分かっていた。


「つまり、魔物をもっと討伐する必要があります」


その言葉を境に、話の方向が変わった。


これまで魔物の討伐は、基本的に王国の兵士や騎士が担ってきた。村や町の近くへ危険な魔物が現れれば領主から報告が上がり、規模によって兵士が派遣される。危険度が高ければ騎士が向かい、さらに大規模な災害となれば座位持ちの騎士たちが動くことすらある。当然、それには多額の費用がかかる。兵を動かすだけでも金が必要であり、遠征ともなれば食料、馬、装備、治療、宿営、輸送まで必要になる。


だからこそ、これまでは魔物という存在は基本的に『危険だから討伐するもの』だった。


しかし今。


魔力石が必要になった。


魔物を倒すことで得られるものが、王国の文明を動かす資源になろうとしている。


「……価値が逆転するな」


カイネルが呟いた。


「陛下?」


「これまでは魔物が現れれば、国が金を使って倒していた。だがこれからは違う。魔物を倒せば、価値ある魔力石が手に入る」


その場にいた者たちが顔を見合わせる。


「ならば、国がすべてを倒す必要があるのか?」


「しかし魔物は危険です。民間人へ任せるなど……」


「誰でもよいとは言っていない」


カイネルはすぐに返した。


「剣を扱える者は騎士だけではない。魔法を扱える者も王国軍だけではないだろう」


その通りだった。


王国には騎士にならなかった者が大勢いる。兵士として仕える道を選ばなかった者の中にも、腕に自信を持つ者はいる。剣を振るえる者。弓を扱える者。狩猟を生業とする者。魔法を使える者。罠に詳しい者。そして正面から戦う力はなくとも、複数人で協力し、知恵と工夫によって魔物を倒せる者たち。


これまでも、そうした者たちが魔物を倒すことはあった。


しかし、それは正式な職業ではない。


「彼らの力を、正しく価値として認めればよいのではありませんか?」


一人の男が口を開いた。


カイネルが視線を向ける。


「続けろ」


「国がすべての魔物を討伐する必要がなくなるのであれば、民間の者たちへ討伐を依頼する仕組みを作るのです。魔物ごとに危険度を定め、それに応じて報酬を支払う。魔力石を持ち帰った者から国が買い取る形でもよいでしょう」


「なるほど」


別の文官も口を挟む。


「そうなれば騎士や兵士を、本来の役割へ戻せます」


その言葉に、カイネルの目が鋭くなる。


「本来の役割、か」


王国は決して平和一色の国ではない。


外敵への備えがある。魔族への警戒がある。魔物による災害もある。そして何より、王国は長い間、軍事力を最優先に考えてきた。


強大な騎士がいる。

座位持ちがいる。

グレサスのような、一人で戦場そのものを変えかねない者すらいる。


だからこそ、表立って王国へ反旗を翻そうとする者はほとんどいなかった。


クーデターなど起こしたところで成功するはずがない。


強すぎる力が、王国という巨大な秩序を守っていた。


だが――だからといって犯罪がないわけではない。


むしろ逆だった。


表立って国へ逆らえないからこそ、犯罪は見えないところへ潜った。


人身売買。違法な取引。貴族による不当な搾取。地下で行われる商売。弱い者を食い物にする者たち。


王国の貴族すべてが善良なわけではない。

カイネル自身、それを知らないわけではなかった。


法がないわけでもない。

取り締まることができないわけでもない。

ただ――優先できなかった。


魔族。

他国。

魔物。


いつ起こるか分からない大規模災害。


王国にとって軍事力の維持は、あまりにも重要すぎた。


騎士や兵士を国内の細かな犯罪一つ一つへ割り振る余裕などなかったのだ。


「……もし」


カイネルがゆっくりと口を開く。


「魔物の討伐を、一定の範囲で民へ任せることができるのなら……」


財務官が続ける。


「王国軍の負担を減らせます」


「騎士や兵士を、治安維持へ回すことも可能となります」


「魔物討伐によって魔力石も確保できる」

「民間には新しい仕事が生まれる」


次々と意見が出始める。


「討伐だけではありません。素材にも価値をつけられます」

「薬の材料になる部位もあります。」

「皮や骨を利用できる魔物もいる」

「危険度によって報酬を変えるべきでしょう」


「誰でも危険な魔物へ挑めるようにするのは問題があります。実力を示す基準が必要です」


「ならば等級を作ればよい」


「討伐したことをどう証明する?」


「魔力石を証明に使う方法もあります。しかし魔物によっては――」


話が止まらない。


一つの発想から、次の発想が生まれる。


そしてそのすべての始まりが、机の上に置かれた小さな石だった。


そのとき、一人の男が手を上げた。


「陛下。それでしたら、王都周辺にも対象となり得る魔物はおります」


「どこだ?」


「あちらの平野にもおりますし……王都の地下にも多数生息しております」


「地下?」


「はい。ドブネズミなどと呼ばれているものの中にも、普通の小動物とは異なる個体がございます。魔素を過剰に取り込み、突然変異を起こしたものです。それらが繁殖し、地下水路などに巣を作ることがあります」


ただの鼠ではない。


ただの兎でもない。


この世界には、魔素を大量に吸収したことで通常の生物から外れ、魔物へ変質する個体が存在する。それらは大型の魔物ほど危険ではない。しかし、だからといって無害でもない。数が増えれば人を襲うこともある。畑を荒らし、食料を食い、病を運び、時には地下設備を破壊する。


これまでは、被害が大きくなったときに兵士を動かしていた。


だが、それすら仕事にできる。


「……なるほどな」


カイネルは笑った。


「弱い魔物なら経験の浅い者に任せられる」

「はい」

「そして実績を積ませ成長を促す。」

「はい」


「実力が認められれば、より危険な魔物の討伐を許可する」


「その場合は報酬も高くするべきでしょう」

「当然のことだ。」


「魔力石を国が一定価格で買い取れば、収入も安定します」


「素材を欲しがる商人へ販売することもできます」

「討伐依頼そのものを民間から受け付けることも……」


そこまで話が進んだところで、カイネルはふと黙った。

考えれば考えるほど、広がっていく。

魔物を討伐する。

魔力石を持ち帰る。

国が買い取る。

危険な魔物ほど報酬を高くする。

実力によって受けられる依頼を変える。

町や村から魔物討伐の依頼を受ける。


商人から素材採取を依頼されることもあるだろう。

護衛もできる。

未開の土地の調査もできる。

迷宮が見つかれば探索を任せることもできる。

そして危険すぎる案件だけを、王国軍や騎士が担当する。


さすがにジュラのような場所へ一般の者を送り込むわけにはいかない。あそこは座位持ちの騎士でさえ慎重になる危険地帯だ。


だが王国中のすべての魔物が、そんな化け物ではない。


弱いものもいる。

中程度のものもいる。

工夫すれば一般の戦士でも倒せるものがいる。


ならば、それぞれに価値を定めればいい。

危険度を定める。


報酬を定める。

討伐を認める者の実力も定める。

仕事を紹介する場所も必要になる。

報酬を支払う場所も必要になる。

魔力石や素材を買い取る場所も必要になる。

依頼を管理する者も必要になる。


そして――それらを仕事として生きる者たちが現れる。


カイネルはゆっくりと椅子の背へ身体を預けた。


「……これは」


誰かが呟いた。

まだ名前すらない。

制度もない。

建物もない。

規則もない。

資格もない。

しかし、確実に一つの概念が生まれようとしていた。


魔物を討伐し、その対価を得る。

依頼を受け、危険な場所へ赴く。

自らの力と知恵を武器に生きる。

騎士でもない。

兵士でもない。

ただ国に守られるだけの民でもない。


自ら危険へ赴き、その危険を取り除くことで報酬を得る者たち。


その存在を国が正式な価値として認める。


そして、その者たちを管理し、依頼を与え、実力を保証し、報酬と素材を取り扱うための場所が必要になる。


まだ、この場にいる誰も知らない。


自分たちが今話し合っている制度が、やがて王国中へ広がり、さらにその先の国々へまで影響を及ぼしていくことを。


そしていつの日か、剣一本を背負った若者がその門を叩き、仲間を集め、魔物を討伐し、未知の土地へ挑み、それだけで生きていくことが当たり前になることを。


その始まりが、一人の少年が生み出した小さな石だったことを。


メモリアルストーン。


レイズ・アルバードが生み出した一つの発明は、王国へ新しい技術をもたらしただけではなかった。


新たな需要を生み。

新たな仕事を生み。

これまで価値を持たなかった力へ価値を与え。


王国の騎士と兵士の役割すら変え。


そして今――新たな生き方そのものを生み出そうとしていた。


後の世で、あまりにも当たり前の存在として知られることになる者たち。


ファンタジーという世界を語るうえで、決して欠かすことのできない存在。


――冒険者。


その概念が今、この王都で。


確かに生まれつつあった。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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