食べることは生きること。
ジュラのさらに奥深く。人の足どころか、並の魔物でさえ容易には近づくことのできないその場所で、一つの巨大な存在がゆっくりと瞼を開いた。
「…………ふむ」
神獣――メーレ。
ジュラを守護し、この森に満ちる魔力の流れを感じ取り、時にはその流れそのものへ干渉することさえ可能とする存在。そのメーレは、しばらく身じろぎ一つせず、今ジュラの各地で起きている異変へ意識を向けていた。
森が騒がしい。
ただ魔物同士が争っているとか、外から迷い込んだ人間が暴れているとか、その程度の話ではない。明らかに異質な存在が三つ。それぞれがまったく異なる方法で、ジュラという森が長い年月をかけて築き上げてきた理へ触れ、その均衡を少しずつ乱していた。
「一人は……理を知りながら、理を騙す者」
メーレの意識が、一人の少年へ向けられる。
金色の髪を持つ、小さな人間。少年はジュラが外敵を判別するために利用している魔力の感知を、何らかの方法ですり抜けている。森の仕組みそのものをすべて理解しているわけではないのだろう。それでも、自らの存在をジュラへ正しく認識させない術を持っていることだけは確かだった。
だからこそ、メーレは少年の進行方向へ一体の魔物を導いた。
コカトリス。
並の人間であれば遭遇した時点で死を覚悟すべき災害級の魔物。広範囲を一瞬で石化させる息を持ち、王国の騎士であろうとも複数人で対処すべき存在だった。
だが。
「…………」
メーレは少しだけ目を細める。
少年は生きている。それどころか、コカトリスは死んでいた。
しかも少年は、倒したコカトリスを解体し、その肉へ何やら香辛料を振りかけ、串へ刺して火にかけている。危険地帯へ迷い込んだ人間というより、森へ遊びに来た子供のような姿だった。
「……食べているな」
メーレの口から、率直な言葉が漏れた。
コカトリスを向かわせたのは、少年の目的と能力を確認するためだった。追い払うことができれば、それでいい。戦うのであれば、どの程度の力を持つのか観察すればいい。そう考えていた。
だが結果だけを見れば、コカトリスは少年の昼食になった。
「分からぬ……」
そして次。
「もう一人は……理を知らず、理そのものを楽しむ者」
こちらについては、先ほどの少年以上に理解し難かった。
グレサス。
あの人間に対して、ジュラは明確な拒絶を示していた。進ませない。近づけさせない。魔物を遠ざける。道を変える。本来ならば、それだけで大抵の侵入者は諦める。どれほど強い者であろうとも、目的地へ辿り着けないのであれば、やがて引き返すしかない。
だが、あの男は違った。
進めないと分かれば笑った。道が変わればさらに笑った。森が自分を拒絶していると理解すれば、それを脅威ではなく未知の現象として受け止め、どうすれば突破できるのかを嬉々として考え始めた。
「…………しつこい」
神獣の口から、思わずそんな言葉が漏れた。
しかも厄介なことに、あの男は強い。ただ強いのではない。ジュラという森が、明確に危険と認識するほどに強い。
その男は今、一度森を離れようとしている。
諦めた。
そう考えるほどメーレは楽観的ではなかった。
「必ず、また来るな」
それはほとんど確信だった。むしろ今度は準備を整え、さらに厄介な状態で戻ってくる。そう考えるべきだった。
もし次にあの男が来るのであれば、今までと同じ方法では止められない。必要であれば自ら戦う。それでも足りないのであれば、ジュラに存在する他の神獣たちへ力を借りる。
本来ならば容易に集めるべきではない者たちまで、メーレはすでに選択肢へ入れ始めていた。
倒せるかどうかではない。
重要なのは、止めなければならないということ。
あの男が好奇心のまま森を荒らし続ければ、いずれ触れてはならない場所へまで辿り着く可能性がある。
そして、それだけは絶対に許すことができなかった。
「…………レアリス」
メーレが静かに、その名を口にする。
ジュラが隠しているもの。
この森が外からの侵入者を拒み続ける理由の一つ。
生物という定義すら曖昧にする存在。
決して目覚めさせてはならないもの。
そして奇しくも、かつてレイズ・アルバードという少年も、その存在について同じ言葉を口にしていた。
――絶対に目覚めさせてはいけない。
なぜ少年がレアリスを知っているのか。メーレには分からない。
だが今は、それ以上に気になる存在がいた。
「そして……三つ目」
メーレの意識が、森の中を動き続ける小さな存在へ向けられる。
白い。ふわふわとした毛に覆われた、小さな獣。
見た目だけならば、ジュラに存在するどの魔物よりも無害にすら見える。力も決して強くない。速さも、魔力も、純粋な戦闘能力だけを比較すれば、先ほどの二人とは比較にすらならない。
だからこそ最初は簡単だった。
魔物を向かわせた。一体、二体、さらに複数。
何度も。
その白い獣は殺された。噛み砕かれた。引き裂かれた。食われたことすらあった。
なのに。
「…………なぜだ」
最後に残るのは、いつもあの白い獣だった。
向かわせた魔物の方が消えていく。食われたはずの獣が、いつの間にか相手を食らっている。
殺したはずなのに死なない。
いや。
「死んではいる……のか?」
メーレですら判断できなかった。
死ぬ。そして戻る。
ならば不死なのか。
だが、そんな単純な言葉だけで説明できるのか。
「何も知らぬまま……理を無視する者」
三者の中で最も弱い。
そして、最も理解できない。
だからこそメーレは、その白い獣を最優先で確認することにした。
だが、その前に一つだけ、どうしても頭から離れない疑念があった。
「不死……」
生物の定義へ当てはめることのできない存在。死という終着点が意味を持たない生命。
「まさか……同じなのか?」
レアリス。
その名が再び思考の中へ浮かぶ。
偶然なのか。それとも、何か繋がりがあるのか。まだ分からない。
だからこそ、確かめなければならない。
「…………よかろう」
メーレはゆっくりと身体を起こした。
まず一人目。金髪の少年。
目的は分からない。だが、あのまま進ませれば確実にこちらへ近づいてくる。ならば迷わせる。
ただ道を変える程度のものではない。本来のジュラが持つ、迷宮としての力。入った者の距離感を狂わせ、方向を失わせ、歩いている本人すら気づかぬうちに同じ場所へ戻す。
――迷いの森。
そこへ少年を誘い込み、その先でどう動くのかを見る。
そして二人目。グレサス。
こちらは今すぐどうこうする必要はない。すでに森を離れようとしている。
だが、必ず戻ってくる。
次に来た時は、自ら対応する。必要であれば他の神獣にも力を借りる。
最後に三つ目。
「……私が行く」
これだけは、自ら確かめる必要があった。
そしてもし、あれが本当に何も知らず、ただこの場所へ迷い込んだだけの存在であるのなら。
「保護する必要も……あるか」
そう結論づけ、メーレは歩き出した。
この時、メーレはまだ知らない。
三つの異物の中で、最も話が通じる存在が、最もジュラへ協力できる存在が、最初に迷いの森へ送り込もうとしている少年――レイズであることを。
そして最も弱く、最も無害そうに見え、だからこそ保護しようとしている白い獣こそ、この世界の理から最も大きく外れた存在であることを。
さらに今は森を去ろうとしている男が、次に何を持って戻ってくるのかも。
ジュラを知り尽くし、ジュラの理を操り、この場所において絶対的な優位を持つ神獣。
そんなメーレでさえ、これからジュラより遥かに理解し難い者たちを知ることになる。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして、白い獣――ディアは、自分の前に現れた存在をじっと見つめていた。
今までとは違う。
明らかに違う。
ジュラへ来てから、ディアは何度も魔物に襲われてきた。噛まれた。食べられた。身体を引き裂かれた。
だから目の前にいる存在も、同じなのだと思った。
けれど、怖くない。
先ほど出会った、あの笑いながら自分を追いかけてきた人間とは全然違う。
ディアは少しだけ首を傾げた。
食べられるだろうか。
そんなことを考える。
お腹が空いている。
ずっと、ずっと空いている。
だから食べたい。
メーレもまた、目の前の白い獣を静かに観察していた。やはり強そうには見えない。敵意も殺意もほとんど感じない。ただ、空腹だけが異常なほど強く伝わってくる。
「お前、名は?」
その言葉に、ディアの動きが止まった。
名前。
自分へ向けられた言葉。
それがなぜなのか、少しだけ嬉しかった。
「ディア……ディア!!」
最初は小さく。それから、今度は少しだけ嬉しそうに答えた。
メーレは目を細める。
「ディア……か。私はメーレだ」
「メー……レ?」
「ああ」
ディアはその音を覚えるように何度か口を動かし、それから小さく頷いた。
「メーレ……」
「そうだ」
名前を教える。その程度のことだった。
だがディアにとっては、それだけで相手が少しだけ分かる存在になった。
メーレはそれを確認すると、静かに問いを続けた。
「ディア。お前はなぜここにいる。何を求めてジュラへ来た」
ディアはしばらく黙った。
難しい。
目的というものが、よく分からない。
何かを求めて来たのか。
そんなことも分からない。
ただ、一つだけ覚えている。
「ディア……ヨバレタ」
「呼ばれた?」
「ウン。コッチ……オイデ……イワレタ。ディア……ヨバレタ」
メーレの表情が僅かに変わる。
「誰にだ」
「ワカラナイ……アル……?」
「アル?」
「アル……ナニカ……イミワカラナイ」
ディア自身にも、何を伝えようとしているのか分からない。ただ、確かに自分は呼ばれた。その声を追いかけて、ここまで来た。
メーレは黙ってその言葉を受け止める。
偶然ではない。
餌が豊富だから来たわけでもない。
何者かが、この存在をジュラへ呼んでいる。
その事実を考えようとした、その瞬間だった。
「…………オナカスイタ」
「ん?」
「メーレ……タベル!!」
次の瞬間、ディアが飛びかかった。
大きく口を開き、メーレの身体へ噛みつこうとする。
だが。
パシッ。
「アウッ!!」
尻尾の一振り。ただそれだけで、ディアの身体は地面を転がった。
メーレは呆れたようにその姿を見る。
やはり弱い。
あまりにも弱い。
だが、次の瞬間。
「…………?」
メーレの目が自らの尻尾へ向いた。
僅か。
本当に僅かではある。
そこに纏わせていた魔力が欠けている。
「…………」
視線を戻す。
ディアが。
モグモグ。
モグモグ。
何かを食べるように口を動かしていた。
「……なるほど」
メーレの目が細くなる。
「肉ではないのか。お前が食らうものは」
ディアは分からない。ただ腹が空いている。だから食べる。
だが、メーレは理解し始めていた。
ディアが相手を食べているように見えるのは、結果でしかない。
本質は違う。
まず魔力を食う。
少しずつ、少しずつ相手の力を奪い、抵抗するための魔力さえ削り、最後には本当にすべてを食らう。
「そうして……倒してきたのだな」
「オナカ……スイタ!!」
返ってくるのは、それだけ。
メーレはしばらくディアを見つめ、それから何かを確かめるように前脚を地面へ叩きつけた。
ダンッ!!
「ビクッ!!」
ディアの身体が跳ねる。
直後、森の暗闇から一つ、二つ、三つ、さらにいくつもの気配が現れた。
複数の魔物。
それらがディアを完全に取り囲む。
「…………?」
ディアは周囲を見渡した。
食べ物。
そう認識したのかもしれない。
だが、メーレは静かに告げる。
「食べたいのであろう。ならば好きなだけ食らうがいい」
ディアの目が僅かに輝く。
だが、メーレは続けた。
「ただし、食らうというのなら、食われる覚悟も持て」
次の瞬間、魔物たちが一斉に飛びかかった。
「ギッ――」
牙がディアの身体へ食い込む。
脚。
腕。
胴体。
首。
白い身体が瞬く間に引き裂かれていく。
そして最後には、一頭の巨大な犬型の魔物が、ディアの頭ごと丸呑みにした。
「…………」
静かになった。
メーレは、ただ見ていた。
「不死……ここまでされても戻るのか?」
数秒。
何も起こらない。
十数秒。
まだ何も。
だが。
「…………?」
犬型の魔物が突然よろめいた。
次の瞬間。
「グァァァァァァ!!」
激しく暴れ始める。
口から泡を吹き、地面を転がり、木へ何度も身体を打ちつける。他の魔物たちが押さえつけようとするが、それでも止まらない。
何かを体内から抑え込もうとしている。
そんなふうにすら見えた。
やがて。
犬型の魔物の瞳から、ゆっくりと光が消えた。
「…………」
死んだ。
その直後。
その口から、小さな白い手が伸びた。
一本。
そしてもう一本。
ズルッ。
ディアが、死んだ魔物の口から這い出してきた。
「モグ……モグ……」
何かを食べながら。
見た目だけならば愛らしい。
白く。
ふわふわしている。
だが今。
死んだ魔物の口から這い出てきた。
周囲の魔物たちは、明確に恐怖していた。
どうすればいい。
どうすれば、これを止められる。
その答えを持つ者はいなかった。
メーレですら、まだ分からない。
「…………もうよい」
ダンッ。
再び地面を叩く。
その瞬間、残っていた魔物たちは一斉にその場を離れ、ジュラの深い闇へ溶けていった。
そして残されたディアは、倒れた魔物へ近づき、その身体へかじりつく。
「モグ……モグモグ……」
必死に。
ただ食べ続ける。
メーレはその姿を静かに見ていた。
最初に思ったのは、異物。
次に思ったのは、不死。
そして今。
ようやく、一つだけ違うものが見えた。
「ディア」
「…………?」
呼ばれたディアは、口を動かしながら顔を上げる。
「お前は……生きたいのだな」
「イキル……?」
「ああ」
ディアは意味が分からず首を傾げた。
メーレは急かさなかった。
「食べることは、生きることだ。お前はずっと腹が減っているのだろう?」
「スイタ!!」
即答だった。
メーレは少しだけ笑う。
「そうか。それは、美味いか?」
ディアは口いっぱいに肉を頬張りながら、嬉しそうに答えた。
「オイシイ!! スゴク……オイシイ!!」
「ハハハ……そうか」
その答えを聞いて、メーレは初めてディアをただの理解不能な存在としてではなく、一つの生命として見た。
殺しても死なない。
食われても戻ってくる。
相手の魔力を奪い、最後には相手そのものを食らう。
生物の理から、あまりにも大きく外れている。
それでも。
「食べることは、生きることだ。そして美味しいということは、楽しいということだ」
「タノ……シイ?」
「ああ。嬉しいはずだ。そして……楽しい。美味しい。もっと食べたい。そう思うことだ」
「モット……タベタイ!!」
「ハハハ。そうであろう」
ディアはまるで新しい言葉を覚える子供のように、メーレの言葉を一つずつ追いかけていた。
「ならば、ディア。お前は生きることを喜んでいる」
「ヨロコブ……?」
「ああ」
ディアは不思議そうに首を傾げる。
喜ぶ。
生きる。
楽しい。
どれも、今まで必要のなかった言葉。
腹が減る。
食べる。
襲われる。
食べ返す。
それだけで、これまでは足りていた。
だが。
メーレは静かに続けた。
「だから、お前は生きていていい」
「…………」
ディアの動きが止まった。
意味は、よく分からない。
生きていていい。
そんなことを考えたことすらない。
ただ腹が減ったから食べた。襲われたから食べた。死んだ。でも、また腹が減った。だから、また食べた。
それだけだった。
それでも。
なぜだろう。
その言葉は嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ胸の奥が温かいような、不思議な感覚があった。
「ディア。私について来るがいい」
「…………?」
「お前は、何も知らぬ」
「…………」
「食べること以外を、何一つ知らぬのであろう?」
ディアは少し考えてから、正直に答えた。
「ワカラナイ」
「ああ。ならば、それでいい」
メーレは静かに笑う。
「私が教えてやる」
「オシエル……?」
「生き方をな」
「イキカタ……」
ディアはしばらくその言葉を噛みしめるように繰り返し、そして一番重要だと思ったことを聞いた。
「ソレ……モット、オイシイ?」
「…………」
メーレは一瞬だけ黙った。
そして。
「ハハハハハ……!」
声を上げて笑った。
「ああ。とてつもなく、美味しいだろう」
「…………!」
ディアの目が一気に輝いた。
「ワカッタ!!」
「そうか」
だが。
すぐに。
ディアは何かを思い出したように顔を上げた。
「デモ!! ディア……ヨバレテル!!」
「…………そうだったな」
「イク!!」
「待て」
「…………?」
メーレの声に、ディアは足を止めた。
「今は会えぬ」
「…………」
「だが、私と共にいれば、いずれ会える」
「…………!」
ディアの顔が少し明るくなる。
「ホント?」
「ああ」
メーレは短く頷いた。
ディアを呼んでいる存在。
それがもし、自分の考えている存在であるなら。
今すぐ会わせることはできない。
だが。
いずれ。
その時は来る。
「だから今は、それを食べていろ」
メーレが倒れている魔物へ視線を向ける。
ディアも、その先を見る。
「…………タベテイイ?」
「ああ」
「ゼンブ?」
「好きなだけ食べろ」
「…………!」
ディアの顔が、ぱっと明るくなった。
「タベル!!」
そうして再び、魔物へかじりつく。
だが、今度は先ほどまでとは違った。
急いでいない。
誰かに奪われることを恐れる必要もない。
襲われることを警戒しながら食べる必要もない。
ゆっくり。
ゆっくり。
味わうように。
「オイシイ……」
食べている。
それは、ディアにとって生まれて初めてと言ってもいい平穏な食事だった。
食べてもいい。
奪われない。
急がなくていい。
誰にも怒られない。
たったそれだけのことが。
ディアには、どうしようもなく嬉しかった。
メーレはそんな白い獣を静かに見つめていた。
最初は、野放しにしてはいけないから。
危険だから。
未知だから。
それだけの理由で保護しようと考えていた。
だが今は。
ほんの少しだけ。
意味が変わっている。
何も知らない。
自分が何なのかも。
生きるということが何なのかも。
ただ腹が減るから食べる。
それだけで今日まで存在し続けてきた。
ならば。
少しくらい。
教えてやってもいい。
食べること以外にも、この世界には楽しいものがあるということを。
美味しいだけではない。
嬉しいということ。
安心するということ。
誰かと共にいるということ。
それらを。
「…………私が守るか」
誰に聞かせるでもなく、メーレは静かに呟いた。
その言葉の意味を、ディアはまだ理解していない。
「モグモグ……」
ただ今は。
初めて安心して食べられる食事を。
嬉しそうに。
ゆっくりと味わっている。
「さて……」
メーレは、その姿を見守りながら思考を戻す。
もし本当にレアリスがこの者を呼んでいるのであれば、話は想像以上に大きくなる。
なぜレアリスがディアを呼ぶ。
なぜディアは死なない。
なぜ生物の理から外れている。
そして。
レアリスとディアには、一体どのような繋がりがある。
まだ何も分からない。
だが。
一つだけ。
決めたことがある。
この白い存在を。
少なくとも今は。
自分の側へ置く。
守る。
そして。
理解する。
「ディア」
「モグモグ……?」
「食べ終わったら行くぞ」
「ドコ?」
「私のいる場所だ」
「タベモノアル?」
「…………ある」
「イク!!」
「まだ食べている途中であろう……」
「ワカッタ!!」
そう答えながら、ディアはまた一心不乱に肉へかじりついた。
メーレは小さく息を吐く。
ジュラを守護する神獣。
その長い生の中で。
まさか自分が正体不明の不死の獣へ、生き方と食事の仕方を教えることになるとは。
さすがに想像したこともなかった。
そして。
メーレはまだ知らない。
自らが迷いの森へ誘い込もうとしている少年が、レアリスという存在を知り、その危険性を知り、何よりこのジュラへ来た本当の目的が、自分と争うことなどではないということを。
今、目の前で幸せそうに食事を続けるディアが、なぜレアリスに呼ばれたのかも。
そして。
今は森を去った男が。
必ずまた戻ってくることも。
ジュラでは。
まだ。
何一つ終わっていなかった。




