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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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重木の原木

レイズはその頃、着実にジュラの奥地へと足を踏み入れていた。


どれほど歩いただろうか。周囲を覆っていた巨大な樹木の姿にも少しずつ慣れ始め、この異常な森の景色そのものが当たり前にすら感じられ始めた頃、レイズはようやく、それまでとは明らかに異なる植物を見つけた。


「……ん?」


思わず足を止める。


それは、決して大木ではなかった。ジュラの森に生えている周囲の巨木と比べれば、むしろ普通の木と呼んでもいい程度の大きさしかない。


だが、その見た目はまったく普通ではない。


幹を染める色は、炭でも塗り込めたかのような深い黒。その表面には僅かに銀色の光沢が浮かび、木材というより、何か特殊な金属でもそのまま樹木の形へ変えたような異様な質感を放っていた。


「…………」


レイズはゆっくりと近づき、その幹へ手を触れる。

硬い。

いや。

ただ硬いだけではない。


指先から伝わってくる、この独特な質感。そして木とは到底思えないほどの密度。


レイズはこれを知っている。


「……この質感。間違いないよな」


その瞬間、レイズの脳裏にアルバードの屋敷で何度となく握ってきた一本の木刀が浮かんだ。


ヴィルから渡され、鍛錬のたびに振り続けてきた異常なほど重い木刀。


「重木……」


レイズは思わず笑った。


「はは……マジかよ。あの木刀の原産って、ここだったのか?」


周囲を見渡せば、同じ特徴を持つ木がいくつか生えている。


レイズはそのうちの一本の根元へ落ちていた細い枝を拾い上げた。


「うおっ……!」


たかが小枝。


見た目だけなら子供でも簡単に拾えそうな細さしかない。


なのに、手へ乗せた瞬間、ずしりと理不尽なほどの重量が伝わってきた。


「重っ……。小枝だぞ、これ……」


軽く振ってみる。


ブンッ――!!


空気を押し退けるような鈍い音が響いた。

レイズは小枝を見つめ、思わず苦笑する。


「これ、小枝って言っていいのかよ……」


ただの枝。

だが、もしこれを本気で振り抜き、人間へ叩きつければ。


おそらく無事では済まない。

木材というより、質量そのものを武器にしたような物体だった。


そして

そこまで考えたところで。

レイズの表情が変わった。


「…………待てよ」


自分が使っていた重木刀。


あれは当然、誰かがこの木を持ち帰り、加工したものだ。


そしてレイズは、その木刀を誰から受け取ったのかを知っている。


「……ヴィル」


静かに、その名前を口にする。

もし。

本当に。

あの重木刀の材料が、ここから持ち帰られたものなのだとしたら。


「ヴィルも……ジュラに来たことがあるのか?」


その可能性が一気に現実味を帯びた。

レイズはもう一度、周囲を見渡した。


自分は死属性を纏っている。

ジュラに漂う魔力へ自らの存在を極力溶け込ませ、森そのものから強く拒絶されないようにしながら、ここまで進んできた。


だからこそ。


今のところ、大きく道を阻まれることなく奥地へ進めている。


だが。

ヴィルは違う。


「死属性も使わずに……ここまで来たのかよ……」


それだけでも十分におかしい。

さらに。

もし重木をここから持ち帰ったのであれば

ヴィルは見つけただけではない。

これを切り出し。

そして。


アルバードまで運んだ。

レイズは手の中にある小枝を見る。

たったこれだけで、この重量なのだ。


ならば木刀を一本作れるだけの材料ともなれば、一体どれほどの重さになるのか。


「…………」


想像してみた。

そして。

すぐにやめた。


「いやいやいや……」


レイズは額へ手を当てる。


「化物すぎんだろ……」


自分で言っておきながら笑えてくる。


「こんなの、どうやって持って帰ったんだよ。ほんっとに……」


ヴィルが規格外なのは昔から知っている。

知っているつもりだった。

だが、本人がいなくなった今になって。


こんな遠い場所で。

また新しい痕跡を見つける。


「……ヴィル。あんた、どこまで無茶苦茶だったんだよ」


呆れたように呟きながらも、その表情にはどこか嬉しそうな色が浮かんでいた。


ヴィルも。

かつて、この景色を見たのかもしれない。

自分と同じように、この黒銀の木へ触れたのかもしれない。


そう思うと。

少しだけ。

この場所が身近に感じられた。


レイズは近くの重木の根元へ腰を下ろし、しばらく身体を休めることにした。


その時だった。


――ベキッ。


「…………ん?」


――バキッ!!


レイズの顔が上がる。

何かが折れる音。


だが。


普通の枝が折れた音ではない。

レイズは先ほど拾った小枝を見る。


この重木は。

小枝ですら、異常なほど硬い。


それを。

――バキッ!!

何者かが踏み折っている。


しかも。

存在を隠そうとする気配など微塵もない。


「…………」


レイズはゆっくりと立ち上がった。

――ズリッ。

――ザリザリザリザリ……。


今度は。

何か巨大なものが地面を削りながら近づいてくる音がする。

そして。


木々の隙間から。

銀色の息が漏れた。


「…………あぁ」


その姿を見た瞬間。

レイズは理解した。

知っている。

ゲームの中でも。

この世界へ来てから得た知識としても。

あまりにも有名な存在。


「コカトリス……」


巨大な身体。

形だけを見れば鳥。


もっと分かりやすく言ってしまえば、鶏に近い。

だが。

そんな可愛らしい言葉で表現できるような生物ではない。

隆々と盛り上がった筋肉。

異様に発達した脚。

地面を引きずる巨大な尾は、動くだけで地表を削り取っていく。


そして何より特徴的なのが。

口元から漏れ続けている銀色の吐息だった。


災害級。


人間が遭遇すれば、それだけで一帯の被害を想定しなければならないほどの魔物。


コカトリスの銀色の瞳が。

ギョロ。

ギョロ。


周囲を見渡す。

白目に当たる部分まで銀色に染まり、その中心にある瞳だけが不気味なほど黒い。


そして。

その瞳が。


レイズを捉えた。


「…………」


レイズもコカトリスを見る。

コカトリスもレイズを見る。


数秒。

互いに動かない。


だが。

レイズには分かっていた。

こいつがここへ来た理由。


「……俺を食いに来たのか?」


その瞬間。

コカトリスの口から銀色の息が僅かに漏れ、それがすぐ近くに生えていた重木の表面へ触れた。


ミキッ。

ミキミキミキッ――。


「……ん?」


レイズの視線が重木へ向く。

変化している。

元々黒かった幹が、さらに深い色へ染まっていく。


銀色の光沢も増している。

だが。

石にはなっていない。


「…………」


レイズの目が僅かに細くなった。

コカトリスの吐息。

それは一般的に。

石化のブレスとして知られている。

生物だけではない。

植物。土。物質。

魔力を浴びたものの性質そのものへ干渉し、極端に硬質な状態へ変化させてしまう。


だが。

重木だけは。

石にならない。

むしろ。


「……硬くなってる?」


レイズは先ほど拾った枝と、ブレスを浴びた部分を見比べる。

密度が増している。

硬度も。

おそらく重量すら。


「もしかして……」


ある考えが浮かぶ。

重木は。

最初から、この状態だったわけではないのではないか。


長い年月。

この森で何度も。

何度も。

コカトリスの石化作用へ晒され。


それでも石化することなく。

その作用だけを取り込み続けた。

その結果。


木材とは思えないほどの密度と硬度を持つ植物へ変化した。


「……こいつが育てたのか?」


もちろん。

今この場で断定などできない。

だが。


可能性としては十分にあり得る。


「面白いな……」


レイズがそう呟いた。

その直後だった。


「コケェェェェェェェェェ!!」


「うおっ!?」


コカトリスが動いた。

巨大な脚が地面を踏み砕きながら、一気に距離を詰めてくる。


そして。

大きく息を吸い込んだ。


「……来る!」


次の瞬間。

銀色の濁流が。


レイズへ向かって吐き出された。

ゴォォォォォォォォ――!!

「…………っ!」


範囲などという言葉では足りない。

レイズ一人を狙う必要などないと言わんばかりに、周囲一帯を丸ごと銀色の霧が飲み込んでいく。


葉が。

土が。

草が。

次々と変質していく。

ミキッ。

ミキミキミキミキ――!!


生命を持っていた植物すら、一瞬で硬質な物質へ変わっていく。


普通の人間であれば。

避けなければ終わる。

いや。

集団であれば。


たった一度のこの攻撃だけで、全滅する可能性すらある。


それほどまでに。

コカトリスの石化ブレスは危険だった。


だが、

銀色の霧の中で。

レイズだけは。

普通に立っていた。


「…………」


自分の腕を見る。

何も起きていない。

皮膚が硬化することも。

身体が石へ変わることも。

ない。

当然だった。

レイズの身体へ触れた瞬間。

石化を引き起こす魔力そのものが。

死属性へ呑み込まれている。

石化へ耐えているのではない。

石化した後に解除しているわけでもない。


そもそも。

石化という現象が。

レイズの身体では成立しない。

死属性が。


コカトリスの魔力を。

その効果ごと消している。


「…………やっぱりか」


レイズは小さく呟いた。

周囲では今も。


ミキミキミキッ――!!


と。


様々なものが石化している。

その中心で。

一人だけ。


何事もなかったかのように立っている。

コカトリスの瞳が。

ギョロッ。

大きく動いた。


「…………」


レイズと目が合う。


「…………」


ほんの一瞬。

コカトリスが固まったように見えた。


「悪いな」


レイズは笑った。


「それ、俺には効かないんだよな……」


そして。

地面を蹴った。


一瞬だった。

コカトリスが反応するよりも早く。

レイズが懐へ潜り込む。

そして。


巨大な脚の。

足首を。


ガシッ!!

掴んだ。


「コケッ!?」

「…………」


レイズの眉が動く。


「お前……」


コカトリスが慌てて脚を振ろうとする。


だが。

離れない。

レイズの指が。

完全に食い込んでいる。


「鳴き声は鶏じゃねぇかよ!」

「コケェェェェェェェェ!!」

「ははははっ!!」


思わず笑った。

そのまま。

引く。


「よっ!」


「コケッ!?」


ズドォォォォォン!!

巨大なコカトリスの身体が。

あまりにも呆気なく。

横倒しになった。


「コケェェェェェェ!!」


コカトリスが暴れる。

巨大な翼を激しく羽ばたかせるたびに、周囲へ凄まじい風圧が巻き起こった。

砂。葉。細かな石。


それらが一斉に舞い上がる。


ゴォォォォォ――!!


一瞬で。

周囲の視界が消えた。


そして。

その砂塵の中から。


レイズの声だけが聞こえる。


「暴れんなって!」

「コケェェェェェ!!」

「だから暴れんなって!!」


次の瞬間。


――ドゴォォォォン!!


何か巨大なものが。

地面へ叩きつけられた。


「コケェッ!?」


もう一度。


――ドゴォォォォン!!

「コケェェェ――!!」

――バキッ!!


何かが折れた。

それでも。

まだ暴れる。


「お前……結構頑丈だな!」


――ドガァァァン!!


「コケッ――!」


――ドゴン!!

――バキバキッ!!

――ガンッ!!

――ドゴォォォォン!!


砂塵の向こうで。

一体何が起きているのか。

もはや外から見ただけでは分からない。


ただ。

地面が揺れ。

何かが。

何度も。

何度も。

叩きつけられている。

そして。

しばらくして。


「…………」


静かになった。

風が吹く。

舞い上がっていた砂塵が。

少しずつ晴れていく。


そこには。

すでに動かなくなった巨大なコカトリスが横たわっていた。

そして。

その横で。


「ふぅ……」


レイズが。

何事もなかったかのように立っていた。


「…………」


巨大なコカトリスを見る。

そして。

腕を組む。


「こんなでっかい鶏……全部食えねーな……」


先ほどまで災害級と呼ばれる魔物と戦っていた者とは思えない言葉だった。

だが。

倒した以上。

使えるものは使う。


レイズはコカトリスの胸元へ近づくと、その硬い皮膚へ腕を差し込んだ。


「よっ……」


ズブッ。

そのまま。

内部を探る。

そして。

何かを掴んだ。


「……あったあった、」


引き抜く。

レイズの手に握られていたのは。

拳ほどの大きさを持つ石だった。


「でっかいな……」


魔力石。

魔物の体内に形成される。

高濃度の魔力を内包した特殊な石。


魔族が持つ魔石とは異なり、こちらは魔物の体内に形成されるもので、その大きさも純度も。


基本的には。

持ち主の強さへ比例する。


そして。

災害級。

コカトリスほどの魔物から採取できる魔力石ともなれば。


その価値は。

レイズもよく知っていた。


「……これはいい土産になるな」


少し嬉しそうに笑う。

荷物からメモリアルストーンを取り出し。

魔力を流す。

ごぽごぽごぽ――。

水が流れ出す。

レイズは血に濡れていた魔力石を、その水で丁寧に洗った。


「便利だなぁ……ほんと」


洗い終えた魔力石を布へ包み。

鞄の奥へしまう。


「よし」


そして。

再び。

コカトリスを見る。


「…………」


当然。

まだ。

巨大な死体が残っている。


「全部は無理だけど……」


腹を触る。

ぐぅぅぅぅ――。


「…………腹減ったな」


決断は早かった。


「食うか?」


そこから。

レイズによる。

災害級魔物の解体が始まった。

硬い。

当然だった。

コカトリスの皮膚も。

羽も。

普通の刃物では簡単に傷をつけられるようなものではない。


だが。

レイズは。


「硬っ……」


などと言いながら。

ベリッ!!

普通に剥がしていく。


「これ羽も何かに使えそうだな……」


ベリベリベリッ!!

次々と。

災害級魔物の素材が。


十四歳の少年によって剥がされていく。

しばらくして。

食べられそうな部分を切り分けたレイズは。


先ほど見つけた重木の枝へ。

コカトリスの肉を突き刺した。


「…………」


ずっしりと重い枝。

そこへ。

巨大な鶏肉。


「なんか……絵面おかしいな」


自分で言って。

少し笑う。

だが。

気にしない。

鞄から。

旅のために持ってきていた香辛料を取り出す。


ぱらぱら。

ぱらぱら。


「これくらいかな」


そして。

火を起こそうとして。

周囲に落ちている枝を集めた。


当然。

その中には。

重木も混じっている。

火をつける。


「…………」

つかない。

もう一度。

「…………」

つかない。

「…………」

重木を見る。

「燃えねぇのかよ、これ!?」


当然と言えば。

当然なのかもしれない。

あれだけ異常な密度と硬度を持つ木だ。

簡単に燃える方がおかしい。


「薪にもならねぇ……」


仕方なく。

レイズは別の種類の小枝や。

乾燥した葉を集め始めた。

やがて。

パチッ。

パチパチパチ――。


ようやく。

小さな火が灯る。


「よし」


火の上へ。

重木の枝に刺したコカトリスの肉を置く。

じりじり。

肉の表面が。

少しずつ焼けていく。


脂が落ち。

火が。

ジュッ。

と音を立てた。

香辛料の匂いと。

焼けた肉の香りが。


ジュラの森へ広がっていく。


「…………」


レイズは。

じっと。

肉を見つめる。

先ほどまで。

災害級の魔物だった。

普通の人間なら。

出会っただけで死を覚悟する存在。

それが今。


「……いい匂いしてきたな」


今日の昼食になろうとしていた。

ジュラの森の奥地。

人間がほとんど足を踏み入れることのない危険地帯で。


死属性を持つ少年は。

災害級のコカトリスを倒し。

魔力石を土産として鞄へしまい。

その肉を。

重木の枝へ刺して。

焼いていた。


そして。

レイズ本人にとっては。

それがどれほど異常な光景なのかなど。

大した問題ではなかった。


「もうちょい焼くか……」


じりじりと。

肉が焼けていく。

その香りは。

静かなジュラの森の中へ。


ゆっくりと。

広がっていくのだった。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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