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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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入り口にすら立てない者の心

レイズの姿が、少しずつ遠ざかっていく。


誰も追わなかった。追えるはずもなかった。つい先ほどまで目の前にいた十四歳ほどの少年が放った魔力、その圧倒的な力の余韻が、まだその場に残っているような気さえしていた。


やがてレイズの背中が小さくなり、巨大なジュラの森へ続く道の向こうへ消えていっても、盗賊たちはしばらくその場から動くことができなかった。


「…………」


誰も口を開かない。


先ほどレイズに腕を掴み、軽く振り払われただけで吹き飛ばされた男が、ようやく震える手を地面について身体を起こした。


「……なんなんだよ、あいつ……」


誰かが答えることもなく、その言葉だけが乾いた風の中へ消えていく。


殺されなかった。

それどころか、最後には見逃された。


本来なら安堵するべきなのだろう。自分たちは少年を攫おうとした。持っていたメモリアルストーンを奪い、そのうえ人として売り飛ばそうとしたのだ。腕の一本くらいなくても売れる――そんな言葉まで平然と吐いた。


殺されてもおかしくなかった。

それなのに。

男の一人が拳を握りしめた。


「……なにが……落ちこぼれだよ」


その声に、何人かがゆっくりと顔を向ける。


「俺たちは、ただ……」


そこから先の言葉が出てこない。

何を言えばいいのか、自分でも分からなかった。


ただ。

悔しかった。

――誰にも期待されないって、嫌だよな。

――その気持ち、俺は分かるよ。


先ほどの少年の言葉が、何度も頭の中で繰り返されている。


「……分かる?」


男の口元が歪んだ。


「何が分かるってんだよ……」


あれほど強い人間に。


自分たちが何人束になっても届かないほどの力を持つ少年に。


何が分かるというのだ。

「……ふざけやがって」


だが、その言葉に反論する者はいなかった。


彼らにもかつて、夢があった。


生まれた時から盗賊だったわけではない。人を攫いたかったわけでも、奪うことに喜びを感じていたわけでもない。


もっと幼かった頃。


まだ、自分たちの未来というものが、今よりずっと大きく見えていた頃。


王国の片隅にある貧しい土地で、彼らは暮らしていた。


金などない。

立派な家もない。


冬になれば寒さに震え、食事の量が足りない日だって珍しくなかった。父親が働けなくなれば家族全員が困り、母親が病気になれば薬を買う金さえない。


王国の中心から見れば、そこに暮らす者たちは国を支える名もなき民の一部でしかなかった。


だが、そこに暮らす子供たちにも。

当然、夢はあった。

『なぁ、見ろよ!』


まだ幼かった男の一人が、遠くの道を指差した。


王国の紋章を掲げた者たちが、馬に乗って通り過ぎていく。


美しい鎧。

磨き上げられた剣。

堂々とした姿。

子供たちは目を輝かせていた。


『騎士だ……!』

『すげぇ……』

『俺も大人になったら、あれになる!』

『馬鹿! 騎士なんて俺たちじゃ無理だって!』


『じゃあ兵士!』

『俺は戦士になる!』


そんな会話を、本気でしていた。

王国の騎士になれなくてもいい。

兵士でも。

戦士でも。

魔物と戦える人間になればいい。


そうすれば金を稼げる。


家族にもっと腹いっぱい食わせてやれる。


今より明るい場所へ連れていける。


そして何より。


誰かに言ってもらえる。


――お前は強い。

――お前がいてくれて助かった。

――お前には価値がある。


子供だった彼らにとって、それは何より眩しい未来だった。


だから身体を鍛えた。


木の枝を剣に見立てて何度も振った。

殴り合いもした。

山へ入り、小さな獣を追いかけたこともある。


いつか。

自分たちも。

だが。


大人になるにつれて、彼らは知っていった。


王国で「戦う者」として認められるということが、どれほど難しいことなのかを。


「……学院」


男の一人が、忌々しそうに呟いた。

王国で正式に戦士として認められる。

騎士への道を進む。

そのために最も確実なのが学院だった。


だが、入るだけでも金がいる。

装備にも金がいる。


学ぶためにも金がいる。

そして、それだけではない。


経歴。

家柄。

推薦。

魔法の適性。

戦闘能力。


将来、王国を背負う者として相応しいか。

様々なものが問われる。


彼らにとっては、その入り口に立つことすら容易ではなかった。


だから。

それなら力を示せばいいと思った。


学院に入れないなら。

誰より強くなればいい。

魔物を倒せばいい。


自分たちの力を証明すれば、いつか誰かが見てくれる。


そう信じた。

だが、それすら。

現実は簡単ではなかった。

魔物は――強い。

そして。

怖い。


今までレイズの周囲で繰り広げられてきた戦いを知る者なら、その感覚は麻痺してしまうのかもしれない。


クリスが斬る。グレサスが叩き潰す。

レイズが圧倒する。

ヴィルやセバスほどの者が戦い、魔族にはガイルやディアブロのような存在までいる。


だが。

彼らこそが異常なのだ。

普通の人間にとって、魔物は命を奪う怪物だった。

一体。

たった一体。

それを倒すだけでも、命を賭ける必要がある。

仲間を集め。

武器を揃え。

罠を考え。

何度も話し合い。


それでも。

勝てるかどうか分からない。

実際に彼らも戦ったことがある。


震えた。

逃げたくなった。

仲間が怪我をした。

それでも歯を食いしばった。

何人も束になり。


ようやく。

ようやく一体を倒した。


その時は嬉しかった。

これで。

自分たちも。

ようやく誰かに認めてもらえると思った。


だが。

現実は違った。

王国の正式な兵士であれば、一人で倒せる者もいる。


騎士ならば、さらにその上。

そして座位を持つ者ともなれば。


自分たちが命を賭けて倒した魔物など、強さを測る基準にすらならない。


「……笑えるよな」


男の一人が、乾いた声を漏らした。


「俺たち……あの時、本当に死ぬかと思ったんだぜ?」


誰も笑わなかった。


「五人で囲んで……一人腕をやられて……それでも倒したんだ」


「あぁ……」


「俺……あの時、これで認めてもらえると思ってた」


「…………」


「なのにさ」


男は地面を見つめる。


「それくらいなら、王国の兵士でもできるってよ」


その言葉を聞いた時。

何かが折れた。

だが。

それでも兵士なのだ。

騎士ではない。

王国の騎士とは、その兵士たちの中からさらに強い者が選ばれる。


そして騎士たちの中から、さらに稀有な才能を持った者たちが上へ進む。


その頂点にいるのが座位騎士。


だが。


その座位騎士の中にすら。

どうしようもない格差が存在する。


グレサス・グライオン。


その名を知らない者など、王国内ではほとんどいない。

王国最強。

一人で戦局すら変える怪物。


そして二位に座するデュランでさえ、普通の騎士から見れば遥か遠い場所にいる。


そんな者たちを。

国は認める。

国は称える。

国は求める。

国の誇りとして。

英雄として。

必要な存在として。


「……才能」


男の一人が吐き捨てる。


「結局、それなんだよ」


学院に通ったから強いのではない。

学院へ行けるような者は。

最初から。

持っている。

金を。

家柄を。

教育を。

魔法を。


そして。

才能を。


「俺たちは……最初から、入り口にも立ってなかったんじゃねぇか」


誰も答えない。


「強くなればいいって思ってた」


拳が震える。


「戦えばいいって思ってたんだよ」


魔物だって怖かった。

でも戦った。

死ぬかと思っても逃げなかった。

彼らだって。

彼らなりに。

必死だった。


誰かに強いと言われたかった。

誰かを守りたかった。

誰かに必要とされたかった。


そして何より。

自分自身が。

自分には価値があると信じたかった。


だが。

何度戦っても。

何度傷ついても。

上には上がいる。

遥か上がいる。


自分たちの努力など、努力とすら呼ばれないほどの存在がいる。


いつしか。

憧れは。

違うものへ変わっていった。

――羨ましい。


それが。

――ずるい。


に変わった。

そして。

――憎い。


へ変わった。


「……何が分かるってんだよ」


また。

同じ言葉が漏れる。

彼らの脳裏に、先ほどの少年が浮かんでいた。

金色の髪。

整った顔。

上質な衣服。

メモリアルストーン。


そして。


自分たちが何人でかかっても勝てないほどの身体能力。


さらに。


解放しただけで周囲を震わせるほどの魔力。

まだ十四歳程度にしか見えない。


それなのに。

何もかも。


自分たちが欲しかったものを持っているように見えた。


そんな少年が。

言った。


――誰にも期待されないって、嫌だよな。


――その気持ち、俺は分かるよ。


「……ふざけんなよ」


ぽつり。


「お前に……何が分かるんだよ」


誰も止めなかった。


「そんな力持ってて……」


拳を握る。


「そんな高ぇ道具持ってて……」


唇を噛む。


「そんな格好して……」


目が熱くなる。


「一人でジュラに行けるくらい強くて……!」


声が大きくなる。


「何が落ちこぼれだよ!!」


叫びが、静かな大地へ響いた。

だが。

返事はない。

レイズはもう。

遥か遠くにいる。


「俺たちは……!」


それ以上。

続かなかった

本当は。

分かっている。

自分たちは今。

人を襲っている。

金を奪っている。

弱い者を狙っている。

そして今日。

少年を攫い。

売ろうとした。

自分たちがかつて憧れた騎士とは。


まるで正反対の存在になっている。


「…………」


男は地面を殴った。


「……くそ」


誰も慰めなかった。

慰められるようなことをしていないからだ。

事情があった。

貧しかった。

認められなかった。

才能がなかった。


だが。


だからといって。


自分たちがやっていることが正しいわけではない。


それも。

本当は分かっていた。

だからこそ。


余計に腹が立つ。


先ほどの少年は。

自分たちを殺さなかった。

金も要求しなかった。

武器を奪うこともしなかった。


ただ。


『次に同じことをしたら、今度は見逃さないぞ』


そう言って。

去っていった。


「…………なんでだよ」


一人が呟いた。


「何が?」

「なんで……俺たちを見逃したんだ。」

「知らねぇよ」

「……俺たち、あいつ売ろうとしたんだぞ」

「だから知らねぇって……」

「普通なら……」


言葉が止まる。

普通なら。


自分たちがずっと憧れていた「強い人間」なら。


悪党を倒す。

犯罪者を裁く。


そして

英雄として称えられる。

それが当然だと思っていた。


だが。


あの少年は違った。

圧倒的な力を持っていた。

自分たちを簡単に殺せた。


なのに。

殺さなかった。

そして。


事情があるのは分かる。

そう言った。


「…………」


だから。

余計に。

理解できない。

そして。

余計に。

腹が立つ。


「……ずるいよな」


一人が小さく呟いた。


「生まれた時から……持ってる奴は」


誰も答えなかった。

彼らは知らない。

先ほどの少年が。

かつて。

出来損ないと呼ばれていたことを。


肥えた身体を嘲笑われ。

アルバードの血を引きながら何もできないと見下され。


人の上に立つ資格などないと。

そう思われていた少年だったことを。

重い木刀を振り。

倒れ。

走り。

何度も立ち上がり。

死ぬ未来を知りながら。


それでも。

自分の未来だけではなく。


周囲の人間の未来まで変えようとしてきたことを。


彼らは。

何一つ知らない。


そして。

レイズも知らない。


目の前にいた盗賊たちが。


幼い頃。

王国の騎士を見て。

目を輝かせていたことを。

自分も。

誰かを守れる人間になりたい。


そう願っていたことを。


互いに。

相手の過去を知らない。

だから。

レイズの。


『分かるよ』


という言葉は。

本当は。

誰よりも彼らに近いところから出た言葉だったのに。


彼らには。

届かなかった。

長い沈黙のあと。

一人の男が。

レイズが消えていった方向を見る。


その先には。


巨大なジュラの森がある。


「……本当に行きやがったな」

「あのガキ……本当に一人でジュラへ……」


別の男が乾いた笑いを漏らす。


「……化物じゃねぇか」

「グレイオンか何かだろ、あいつも」

「知らねぇよ…」

「でもよ……」


一人が、先ほどまでレイズが座っていた岩を見る。

地面には、メモリアルストーンから溢れた水がまだ残っていた。


「……あいつ」

「なんだよ」

「最後に………」


――もうすぐだからな。

――お前らにも、ちゃんと役割が。

――価値が見出される。

――そんな未来がちゃんと待ってるからな。


男は眉間に皺を寄せる。


「……何の話だ?」


誰も答えられない。

王国が。

今。

少しずつ変わり始めていることなど。

彼らは知らない。

王カイネルが。


アルバードという土地を自らの目で見て。

国の強さとは。

武力だけではないと。

初めて本当の意味で考え始めたことなど。


知るはずもない。

貧困を減らす。

仕事を作る。

戦えない者にも。

国を支える役割を作る。


そんな話が。

つい先日。

王国の最上層で。


初めて本格的に動き始めたことなど。

この場所にいる彼らへ届くはずもなかった。


だから。


彼らにとって。

レイズの言葉は。

ただの綺麗事だった。


「……もうすぐってか、」


男は小さく笑った。


「いつだよ。そんなの」


返事はない。

ただ。

その言葉だけは。

なぜか頭から消えなかった。


憎い。

ずるい。

何が分かる。

そう思う。

それでも。


自分たちを殺さなかった少年の言葉が。


消えてくれない。

一人が落としていた剣を拾う。

その剣を、しばらく眺める。


かつて。

騎士になりたくて握った剣。

いつから。

人を守るためではなく。

人から奪うための剣になったのだろう。


「…………くそ」


誰に対して吐いた言葉なのか。

本人にも分からなかった。

レイズなのか。

王国なのか。


才能を持つ者なのか。

自分たちを見向きもしなかった社会なのか。


それとも。

ここまで落ちてしまった。


自分自身なのか。

分からない。

ただ。


その日。


彼らはもう一度だけ。

遠くを歩いていく少年の背中を見た。

もう顔など見えない。


金色の髪すら、ほとんど分からない。


そして

誰も。

その少年の名前を知らない。


「……結局」

一人が呟く。

「名前も……聞けなかったな」


「どうでもいいだろ……?」


別の男がそう答えた。

だが。

誰も。

本当の意味では。


どうでもいいとは思っていなかった。

彼らが。

その少年の名前を知るのは。


もう少し先の話になる。

その名が。

レイズ・アルバードであることを。

そして。


自分たちが憎んだあの少年こそが。


王国そのものを変えるきっかけの一つを作った人物であることを。


彼らは。

まだ。知らなかった。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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