伝えられなかった事実。
アルバードの屋敷では、レイズが一人でジュラへ向かっている頃、また別の場所でも静かな時間が流れていた。
屋敷の奥にあるリリアナの部屋。その扉の前に、リアナとリアノの二人が並んで立っている。普段なら勢いよく扉を叩きそうなリアナですら今日は少しだけ緊張した様子を見せ、リアノに至っては何度も小さく息を整えていた。
二人がここへ来た理由は同じだった。
レイズが王国の学院へ通うことが決まった。そして自分たちもレイズと共に学院へ通いたい。その気持ちはすでに決まっている。だが、だからといって自分たちだけで勝手に話を進めていいとは思っていなかった。
自分たちがアルバードへ来ることになった経緯。
これまで自分たちを見守ってくれた者たち。
そして何より、自分たちをまだ幼い頃から育て、家族のように接してくれたリリアナへ、きちんと自分たちの気持ちを伝えておきたかった。
リアノが静かに扉を叩く。
「リリアナ様……失礼いたします」
リアナもすぐ横から声を重ねた。
「リリアナ様!」
少しして、中から柔らかな声が返ってくる。
「どうぞ」
二人が扉を開けると、リリアナはちょうど部屋の中で何かを片付けているところだった。二人揃って姿を見せたことが少し珍しかったのか、リリアナは手を止めると柔らかく微笑む。
「あらあら。リアノにリアナ、二人揃ってですか。どうしたのですか?」
リアノは一度俯き、それから少し緊張したように口を開いた。
「その……私たちだけで決めるのではなくて、リリアナ様のお考えもちゃんと伺っておくべきだと思いまして……」
しかし、リアナはそんな慎重な言葉を待ちきれなかったように、一歩前へ出る。
「リリアナ様! 私とリアノも、レイズ様と一緒に学院へ通いたいんです! 駄目ですか!?」
「リアナ……! そんな急に……もう少し言い方というものが……」
「でも、聞きに来たんだからちゃんと言った方がいいでしょ?」
「そういう意味ではなくて……」
いつものように少しだけ噛み合わない二人のやり取りを眺め、リリアナは思わず小さく笑った。そして二人のもとまで歩み寄ると、そのままリアナとリアノの頭へそれぞれ手を置き、昔と変わらない優しい手つきでゆっくりと撫でる。
「本当に……レイズと、あの子と仲良くなってくれて。私は、それだけでも本当に嬉しいですよ」
「リリアナ様……」
リアナもリアノも、その言葉に一瞬だけ黙った。
リリアナは二人の頭から手を離すと、少し遠いものを見るような目で静かに呟く。
「そうですね……レイズが学院へ、ですか」
その言葉を自分の中で確かめるように繰り返すと、自然とその表情に懐かしさと寂しさが混じっていく。
「それなら、きっとヴィル様も……リヴェル様も、セシル様も……大変お喜びになるでしょうね」
その三人の名前が出た瞬間、部屋の空気が僅かに変わった。
リアナとリアノも、今から聞く話が単に「学院へ行っていいか」というだけのものではないのだと察し、自然と姿勢を正す。
リリアナは二人を見ながら、ゆっくりと続けた。
「ヴィル様が、貴女たち二人をアルバードへ連れて来られた日のことを思い出します」
リアナがすぐに食いつく。
「ヴィル様が? どんな話をされたんですか?」
「リアナ……」
リアノがまた注意するが、リリアナは気にすることなく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。あの日、ヴィル様は私にこう仰っていました。レイズには、同年代の仲間が必要になる、と」
その言葉と共に、リリアナの意識はゆっくりと昔へ遡っていった。
まだリアナもリアノも今よりずっと幼く、アルバードという場所自体にも今以上に重苦しい空気が漂っていた頃だった。
ヴィルは静かな表情でリリアナと向かい合っていた。
「リリアナ。レイズには、同年代の者が必要になります」
リリアナはその言葉を聞いてすぐには返事をしなかった。その意味を理解したからだ。
「ヴィル様……リアナとリアノを、レイズのお側に置かれるおつもりなのですか?」
「ええ」
ヴィルは迷うことなく頷いた。
だが、リリアナの顔には不安が浮かぶ。
「ですが……アルバードに仕えるということが、この先あの二人にどれほど辛い道を選ばせることになるのか……王国からどう見られるのかも、アルバードと関わるだけで何を失うのかも、あの子たちはまだ何も知らないのですよ?」
ヴィルは静かに聞いていたが、それでも首を横へ振った。
「だからこそです。そうならない未来を作るためにも、必ずあの二人は必要になります」
「レイズのために……ですか?」
「いいえ。レイズだけではありません」
ヴィルはそこで少しだけ目を伏せた。
「リアナとリアノにとっても、ここが幸せな場所になるために必要なのです」
リリアナはその言葉に少し驚いたようにヴィルを見る。
「ですが、もし二人が王国で生きることを選んだのであれば、もっと普通に、年相応の生活を送れる可能性だってあるはずです。あの二人には、それだけの才も……」
「ええ。分かっています」
ヴィルの声は落ち着いていたが、その表情には僅かな苦しさがあった。
「二人には王国で生き残れるだけの才がある。学院へ通い、その力を認められ、アルバードとは関係のない人生を歩める可能性もあるでしょう。すべて理解しています」
そして、ヴィルはゆっくりと息を吐く。
「だからこそ、私は自分のやっていることが正しいのか、今でも分からないのです。あの二人を巻き込んでいる。すべてアルバードの都合で……私のわがままで」
「そんなはずありません」
リリアナは即座に首を振った。
「ヴィル様がリアナとリアノを救ってくださらなければ、そもそもその未来を選ぶ可能性すらなかったのです。だから、そんな言い方をなさらないでください」
ヴィルはしばらく黙っていた。
リリアナはさらに続ける。
「きっと二人も、大きくなれば分かってくださいます。自分たちがどれだけ大切にされていたのかも、ヴィル様がどれだけ考えてくださっていたのかも」
ヴィルは静かに頷いた。
「ええ。その時が来れば、私の口から直接話すつもりです」
リリアナは少しだけ微笑む。
「感謝を、お伝えするのですね?」
しかしヴィルは僅かに目を伏せた。
「両方です」
「両方……?」
「感謝と謝罪を」
その一言に、リリアナの胸が僅かに締め付けられる。
本当に、この人はどれだけ自分以外のことばかり考えているのだろう。
リリアナは小さく笑った。
「なら、私も必ず一緒にお伝えします。ヴィル様だけで抱えないでください」
「リリアナ……」
「私もアルバードに仕える者なのですから」
ヴィルはほんの少しだけ表情を和らげた。
「本当に、貴女にも感謝が尽きませんね」
「ふふ……今さらですよ、ヴィル様」
現在へ戻り、リリアナはリアナとリアノを静かに見つめた。
「ヴィル様は、貴女たちを決してレイズを支えるためだけの人間として考えていたわけではありません。それどころか最後まで、自分が貴女たちをアルバードへ巻き込んでしまったのではないかと、ずっと心配していました」
リアナの唇が僅かに震える。
リアノは俯き、両手をぎゅっと握っていた。
リリアナは少し間を置いてから、さらに別の名前を口にする。
「でも、レイズの未来を願っていたのはヴィル様だけではありません。ずっと同じように、あの子の未来を願っていた方がいました」
二人が顔を上げる。
「セシル様です」
その名前を口にした瞬間、リリアナはまた別の記憶へ引き戻された。
まだレイズが物心すらほとんどついていなかった頃。
セシルはどこか儚げで、それでもレイズを見つめる時だけは誰よりも優しく、誰よりも強い目をする女性だった。
ある日、セシルはリリアナを呼び、何度も言葉を飲み込んだ末に静かに口を開いた。
「リリアナ。お願いがあります」
「お願い、ですか?」
「もし……もし私とリヴェルがいなくなったら、その時は私の代わりにレイズを……レイズの母親になってください」
その瞬間、リリアナは何を言われたのか分からなかった。
「何を仰っているのですか……。レイズ様の親はセシル様とリヴェル様以外にはありえません」
セシルは静かに首を振る。
「リリアナ。私はレイズに普通の人生を歩んでほしいのです」
「普通の……人生?」
「私のように、周りへ迷惑をかけてしまうような人生でもなく、リヴェルのようにすごい人になんてならなくてもいいんです」
「セシル様……誰も貴女を迷惑だなんて思っていません」
セシルはそれでも小さく首を振った。
「私は、ただレイズに友達がいて、笑って、普通に誰かを好きになって、普通に毎日を生きてほしい。それだけでいいんです。誰かに期待されるような立派な人にならなくてもいい。何かを背負うような人にならなくてもいい。ただ……生きていてくれれば」
その言葉を聞くうちに、リリアナの目には涙が浮かんでいた。
「セシル様……」
「もし私とリヴェルがいなくなった時には、レイズが争いに巻き込まれないように、あの子が普通に生きられるように、少しだけ支えてあげてください」
リリアナは涙を堪えながら頷いた。
「私にできることでしたら、どんなことでも。レイズ様が少しでも穏やかに生きられるよう、必ずお側で支えさせていただきます」
セシルはほんの少しだけ微笑む。
「ありがとう。でも……もう一つだけお願いしてもいいですか?」
「はい」
「もし私とリヴェルがいなくなったら、その時はレイズ様ではなく、レイズと呼んであげてください」
リリアナは目を見開いた。
「そ、それは……」
「リリアナ。子供に必要な呼び方なのです」
その一言で、リリアナの涙が一気に溢れた。
「なら……ちゃんと生きて、ご自分で呼んで差し上げてください……。私ではなく、セシル様がレイズ様を……レイズと呼んであげてください……」
セシルも静かに涙を流しながら微笑んだ。
「ありがとう、リリアナ……。貴女を本当に、大切に思っています」
そして時は流れた。
リヴェルもセシルもいなくなった後。
今度はヴィルがリリアナへ言った。
「リリアナ。過去のことです。貴女は今まで通り、レイズへ母親のように接していただいて構いません」
リリアナはすぐに首を振った。
「ヴィル様……私なんかでは……」
「いいえ。貴女にしかできないのです」
ヴィルははっきりと言った。
「リヴェルを、セシルを、心の底から大切にしてくれていた貴女だからこそ、その資格があります。分かっています。それがどれほど重荷になるのかも、どれほどこちら側の都合であるのかも」
そしてヴィルは、リリアナへ深く頭を下げた。
「ですが、リリアナ。これは命令ではありません。私からのお願いです」
ヴィルほどの男が、自分へ頭を下げている。
その姿を前に、リリアナは涙を堪えることなどできなかった。
「そんなの……断れるわけがないじゃないですか……。ヴィル様も、リヴェル様も、セシル様も、私にとって生涯お側にいると決めた方々ですよ。その方々の大切な、大切な子供を……私が見捨てられるわけないじゃないですか……」
ヴィルは静かに目を閉じた。
「ええ。本当に……痛いほど伝わっています」
その記憶を胸に残したまま、リリアナは現在のリアナとリアノを見つめた。
「私はずっと思っていました。いつかレイズが学院へ通い、同年代の子たちに囲まれて、友達を作って、笑って、普通の子供として過ごせる日が来ればいいと。それこそが、セシル様やリヴェル様が何より望んでいた未来だと思っていたのです」
リアナの目から静かに涙が落ちる。
リアノも何も言わず、涙を流していた。
「でもヴィル様は、その未来をほとんど望めないと思っていました。王国がアルバードの者を受け入れることなどありえない。だからこそ、せめて同じ年頃の仲間がレイズの側にいてくれるように、そして貴女たち二人にとってもアルバードがいつか自分の居場所になるように、リアナとリアノをあの子の側へ置いたのです」
そこまで聞いた時、リアノが俯いたまま拳を強く握った。
唇が震えていた。
そして先に言葉を発したのは、普段なら一歩引くことの多いリアノだった。
「私たちは……一度たりとも!! アルバードに、レイズ様のお側にいて……間違っていたなんて思ったこと、一度もありません!!」
リリアナが僅かに目を見開く。
リアノは涙を流しながら、それでも言葉を止めなかった。
「怖かったこともありました。辛かったこともあります。でも、ここに来なければ私は今の私にはなれなかったと思います。レイズ様にも会えなかった。リアナとも今みたいに笑えなかった。皆さんにも会えなかった。だから……もしヴィル様が私たちへ謝ろうとしていたのなら、謝らないでくださいって言いたかったです……」
声が震える。
「私たちはちゃんと幸せですって……そう言いたかったです……!」
その隣で、リアナも涙を流しながら強く頷いた。
「私もです!! 辛いこともいっぱいありました。怖いこともいっぱいあったし、どうして私たちがこんなことにって思ったことだってあります。でも……今はすごく幸せです。本当にレイズ様のお側にいられることが嬉しいです。アルバードに来られて、本当に良かったです!」
その答えは。
ヴィルがずっと恐れていた問いへの答えだった。
自分が二人を巻き込んでしまったのではないか。
自分のわがままで二人の人生を奪ってしまったのではないか。
その問いへ、ヴィル本人が答えを聞くことはもうできない。
それでも。
答えは今、確かにここにあった。
リリアナはついに涙を止めることができなくなった。
「そう……ですか。そうですか……」
何度も何度も繰り返し、泣きながら笑う。
そして誰もいない場所へ話しかけるように、静かに呟いた。
「ヴィル様……聞こえていますか……? 二人とも、幸せだと言ってくれていますよ……。貴方が間違えたのではないと、ちゃんと言ってくれていますよ……」
部屋の中に静かな嗚咽が流れた。
しばらく誰も話せなかった。
やがてリリアナは涙を拭い、二人へ改めて向き直る。
「だからこそ、私は二人にお願いがあります」
リアナとリアノが同時に顔を上げた。
「学院へ行ってください」
「本当ですか!?」
リアナの顔が一気に明るくなる。
リアノも驚いたように尋ねた。
「良いのですか……?」
「ええ。レイズと一緒に学院へ行ってください」
そしてリリアナは、少しだけ真剣な顔になる。
「ただし、学院にいる間は、貴女たちはレイズの使用人ではありません」
「え?」
「どういう……意味でしょうか?」
リリアナは優しく笑った。
「友人として過ごしてあげてください」
二人は一瞬、その意味を理解できなかった。
「友人……?」
リアナが小さく繰り返す。
リアノも同じように呟いた。
「友人として……」
「ええ。学院では、レイズ様、当主様、そういう立場を少しだけ忘れてもいいのです。同じ年頃の一人の男の子として、一緒に勉強して、笑って、失敗して、遊んで、喧嘩して……普通の友人として過ごしてあげてください」
リアナは少し困ったように首を傾げる。
「友人まで……ですか? でもレイズ様は、レイズ様ですよ?」
「ふふ。そうですね」
一方で、リアノは別の意味で固まっていた。
「友人……じゃ、私は……」
「はい?」
リリアナが見ると、リアノの顔が一気に赤くなる。
「い、いえ! 何でもありません!」
「リアノ、どうしたの?」
「何でもないってば!」
その様子を見て、リリアナは少しだけ目を細め、それから本当に楽しそうに笑った。
「ふふ……ただ、一つだけ私にも大きな誤算があったと思いまして」
「誤算?」
リアナが首を傾げる。
「ええ。セシル様も、リヴェル様も、ヴィル様も、レイズに友達ができることを願っていました。私も同じでした。でも……まさかレイズがこれだけ女の子を振り回すようになるとは」
リアナとリアノの顔が同時に赤くなる。
「リ、リリアナ様!?」
「えぇぇ!?」
「これだけは私も誤算でしたね」
「ち、違います!」
リアノが即座に否定する。
「何が違うのですか?」
「それは……!」
「リアノ、なんでそんなに慌ててるの?」
「リアナは少し黙ってて!」
「えぇ!?」
リリアナはとうとう声を出して笑った。
だが、その笑いが落ち着くと、また二人を優しく見つめる。
「リアナ、リアノ。学院へ行くことを、誰かのためだけの選択にしなくていいのですよ」
二人が静かになる。
「レイズを守るため。支えるため。その気持ちは、きっと貴女たちにとって大切なのでしょう。でも、貴女たちにも貴女たちの人生があります。学院で新しい友人を作ってもいい。好きなことを見つけてもいい。アルバード以外の世界を見てもいい。いつか別の道を選んでもいいのです」
リアナの目が僅かに揺れる。
リアノも静かに耳を傾けていた。
「それでも最後にアルバードへ帰りたいと思ってくださったなら、その時は私は心から『お帰りなさい』と言います。だから自由に選んでください。レイズも、貴女たちも、もう誰かの都合だけで生きる必要はないのですから」
再び涙が流れる。
だが、今度の涙は悲しみだけのものではない。
ようやく辿り着いた未来。
ヴィルがほとんど望めないと思っていた未来。
セシルが願った未来。
リヴェルが残した未来。
リリアナが守り続けた未来。
そして、リアナとリアノ自身がこれから選ぶ未来。
そのすべてが今、一つの場所へ繋がろうとしていた。
学院。
ただ子供たちが学ぶ場所。
本来なら、それだけのこと。
だが彼女たちにとって、そこへ行けること自体があまりにも遠い未来だった。
リリアナは涙を流しながら笑った。
「本当に……すべてが奇跡みたいですね」
リアノが小さく頷く。
リアナも泣きながら笑う。
「はい……!」
「叶いましたね。ヴィル様の願いも、リヴェル様の願いも、セシル様の願いも……そして貴女たちの願いも」
リアナがリリアナの手を握る。
リアノもその上へ、そっと自分の手を重ねた。
三人とも涙を流していた。
それでも。
誰一人、悲しい顔はしていなかった。
ただ長い、長い時間を越えて、ようやくここまで来られた。
それだけだった。
少しして、リアナが涙を拭いながらぽつりと言う。
「でも……友人としてレイズ様と過ごすって、どんな感じなんでしょう?」
リアノも少し考える。
「たしかに……レイズ様に敬語を使わないとか……?」
「無理じゃない?」
「無理だと思う……」
二人が真剣に悩み始める姿を見て、リリアナはまた笑った。
「ふふ。そこから練習ですね」
リアナが少し考えてから、思い切ったように口を開く。
「レイズ!」
「…………」
言った本人が固まる。
そして一気に顔を赤くした。
「む、無理です!!」
リアノも思わず笑う。
「リアナでも無理なんだ……」
「リアノもやってみてよ!」
「え!?」
「ほら!」
「わ、私は……」
リアノは顔を真っ赤にしながら、何度も口を開こうとしては閉じる。
「れ……」
「…………」
「レイズ……」
数秒の沈黙。
そして。
今度は二人揃って顔を覆った。
「無理です!!」
「無理ぃぃ!!」
リリアナは涙の跡を残したまま、声を出して笑った。
「ゆっくりでいいのですよ。学院は、きっと長いのですから」
それが本当に長い時間になるのか。
短い時間になるのか。
今は誰にも分からない。
だが。
レイズが学院へ行く。
リアナとリアノも、一緒に行く。
ただそれだけで。
かつて叶わないと思われていた未来の一つが、確かに現実へ変わろうとしていた。
もしその光景をヴィルが、セシルが、リヴェルがどこかで見ることができていたのなら。
きっと三人とも。
同じように笑っていたのだろう。
少なくとも。
リリアナは、そう信じていた。




