みてる未来の解離
昼時が近づいた頃、ヴィルは穏やかな声でレイズに告げた。
「そろそろお昼になります。リアナ、今日も精のつく料理をレイズ様にご用意してください」
リアナは嬉しそうに目を輝かせ、「もちろんでございます!」と深くお辞儀し、足早に厨房へ向かおうとする。
だが、その背をレイズが呼び止めた。
「待てぃ!」
その声音には、ふざけ半分ではなく、確かな決意が込められていた。
リアナも立ち止まり、振り返る。
「と、当主様……?」
ヴィルもまた、孫が何を言い出すのかと真剣な表情で見守っている。
レイズは深呼吸し、重々しく言い放った。
「今日のお昼は――野菜を食べる」
その瞬間、リアナの顔は青ざめる。
「そ、そんな……!! それだけは……!」
そしてヴィルも厳しい声を響かせた。
「何を言っている!」
まるで死地に向かう孫を止めるかのような、怒気を含んだ気配だった。
リアナは怯え、一言も発せなくなる。
それでもレイズは臆せず語った。
「食事は体を作る資本だ。だが、精神を鍛えてこそ本当の強さを得られる。野菜を食べることは、精神を磨く鍛練の一つなのだ」
言葉選びは妙に堂々としていて、当主らしい威厳すら漂っていた。
その言葉に、ヴィルは震えるように感動し、呟いた。
「……すばらしい」
すぐにリアナへ向き直り、力強く言う。
「聞きましたね? 今日の食事は肉だけでなく、野菜もたっぷり使ったものを作りなさい」
リアナは強く頷き、走り去っていった。
残されたレイズは心の中で、深いため息をつく。
(……ここの“たくさん”って、一体どんな基準なんだろうな)
そんなレイズはどこか遠くを見つめている。
その様子を見つめながら、ヴィルは確信する。
――この子は未来を見据え、何かを成し遂げようとしている。
やはり私の眼に狂いはなかったと、
食事の件を一段落させると、ヴィルは表情を和らげ、続けてレイズに語りかけた。
「さて――今日の予定についてお話ししましょう。
午後には、あちらに見える大書斎へ向かっていただきます。リアナに案内させますので、彼女について行きなさい。そこには、あなたに魔法を教えてくれる優秀な者がおります」
ヴィルの声音は穏やかだが、言葉には確かな期待が込められていた。
「それから……鍛練は続けても構いません。ただし、今後は模擬戦を取り入れ、実戦に備えるべきでしょう。相手はクリスに任せます。彼ならば、きっと良い経験になるはずです」
そう優しく告げると、ヴィルは満足そうに小さく頷き、レイズの返答を待った。
レイズは一瞬、遠くを見つめていたが、ハッと我に返った。
「ま、魔法?!……」
その瞬間、瞳が輝く。
――そう、魔法だ。
痩せることはレイズにとって第一の使命ではある。だが魔法に関しては、ただただ純粋な憧れと喜びでしかなかった。
「ありがとう!ヴィル!楽しみにしてるよ!」
満面の笑みでそう告げるレイズ。
ヴィルは背を向けながら、小さく頷いた。
「……では、頑張ってください」
静かにその場を後にする。




