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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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295/358

最優先は

そうして、数日が過ぎた。


学院へ入学するという方針そのものは決まったものの、それは今日明日にすぐ始まる話ではない。王国側にも学院側にも準備が必要であり、アルバード側も当主であるレイズが長期間離れる可能性を考えれば、片付けておかなければならないことはいくらでもあった。


そんな中、レイズは自室で旅支度を始めていた。必要な道具を選び、荷物をまとめ、しばらくアルバードを離れることを前提に最低限の準備を整えている。その様子を見つけたイザベルが、すぐに怪訝そうな顔で近づいてきた。


「ねぇ。そんな準備までして、今度はどこへ行くのよ」


「あぁ、ちょっとな。ダークエルフと約束したことがあるんだよ。それを果たすために、数日アルバードを離れることになる」


「ダークエルフとの約束……?」


イザベルが眉を寄せる横で、当然のようにクリスが一歩前へ出た。


「それでしたら、私も同行いたします」


「いや」


レイズはすぐに首を横へ振る。


「クリスがいるのは確かに心強いんだけどな。今回はそうもいかないんだよ」


「なぜですか?」


クリスが納得できないという顔をする。レイズは手にしていた荷物を一度置き、少しだけ考えてから答えた。


「俺がこれから向かう場所は、王国領にあるとある場所なんだよ。今までは王国との関係もあったから簡単には動けなかったけど、ようやくそれも繋がっただろ? だったら学院に入る前に、どうしてもやっておきたい」


王国の、とある場所。


その言葉を聞いて、イザベルはいくつか候補を頭の中に浮かべる。以前なら王国領へレイズ一人を向かわせるなど絶対に認められなかった。だが今は違う。国王カイネルと直接言葉を交わし、王国とアルバードの関係そのものが変わった以上、王国内の大半の場所であれば以前ほど心配する必要はない。


何よりレイズ自身、今ではそう簡単に命を落とすような実力ではないことくらい、イザベルも理解している。


しかし、クリスには関係なかった。


「場所と理由によります。場合によっては、レイズ様ご本人からの命であろうとも、私は肯定できません」


「はぁ……」


レイズは小さく息を吐く。


そして、あっさりとその名を口にした。


「ジュラだよ」


「…………え?」


イザベルの表情が一瞬で変わった。


「ジュラって……ちょっと待って」


王国で危険地帯として名前が挙がる場所はいくつか存在する。その中でも、ほとんど特別扱いされている場所がある。


ジュラの森。


人の支配がほとんど及ばず、危険な魔物が数多く生息し、場所によっては座位騎士が複数揃わなければ探索許可すら下りないとされる王国屈指の危険地帯。


そこへ。


レイズは一人で行くつもりなのだ。


「ちょっと!? レイズくん! そこがどんな場所なのか、ちゃんと分かって言ってるの!?」


「あぁ。たぶん誰よりも分かってると思うぞ?」


「…………」


その答えに、今度はイザベルが言葉を失った。


そうだった。


レイズは、ただ王国の記録からジュラを知っているわけではない。


彼が知る未来にも、ジュラという場所は存在していた。


今の王国が把握している知識よりも、レイズの方が遥かに深い部分まで知っている可能性がある。そう考えれば、軽率に「何も知らないくせに」と言うことすらできなかった。


それでも。


イザベルは首を横へ振る。


「分かって……分かっているなら、なおさら行かせるわけないでしょ……?」


その言葉には、理屈よりも先に心配が出ていた。


クリスも珍しく少し考え込む。


「ジュラ……ですか。私も過去にグレサスを追いかけて入ったことがあります」


レイズが思わず振り返る。


「は?」


「どうかされましたか?」


「いや待て。グレサス、あんなところで何してたんだよ」


「鍛錬ですね」


「…………」


レイズは数秒黙った後、思わず笑ってしまった。


「鍛錬なんてする場所じゃないだろ、あんなとこ……」


「そうでしょうか」


「そうだよ!」


クリスは何が可笑しいのか分からないという顔をしたまま続ける。


「当時はいくつか危険な魔物が存在していたと認識しています。ただ、今の私であれば大きな脅威とは到底思えませんが」


「クリス……?」


イザベルが思わず呆れた声を出す。


レイズも苦笑するしかなかった。


「まぁ、お前やグレサスならそうだろうな。普通の魔物が相手なら、力技でいくらでもどうにかできるだろうよ」


「でしたら――」


「でもな」


クリスが言葉を続ける前に、レイズが遮った。


「だからこそ、ジュラは閉じるんだよ」


「……閉じる?」


クリスが首を傾げる。


レイズは少しだけ声を落とした。


「ジュラには、神獣と呼ばれる存在がいる。そいつは、とある場所を守ってるんだ。まぁ今回、俺が用があるのはその神獣なんだけどな。正直、その先まで行く必要はないし、俺も行くつもりはない」


「神獣……」


「そう。で、なんでお前やグレサスみたいなのを連れて行かないのかって話だけど、それもそいつらが守るためなんだよ」


「私たちがいると、なぜ閉じるのですか?」


「圧倒的すぎるからだよ」


レイズはクリスを指差した。


「お前みたいなのが森に入ったら、ジュラの側から見れば完全に脅威なんだよ。森は道を閉ざす。受け入れようともしなくなる。そうなると、どれだけ歩いても目的地へ近づけなくなる可能性がある」


「そのような話……聞いたことがありませんが」


「そりゃ普通は知らないだろうな」


クリスの疑問に、イザベルが少し慌てて割って入った。


「ほ、ほらクリス。レイズくんは死属性を持っているし……未来の知識もある程度持ってるって前に言ってたじゃない。たぶん、そのあたりの話よ。ね?」


「あぁ、そういうことだ」


レイズも自然に話を合わせる。


「俺なら死属性を使って、自分から漏れる魔力そのものをかなり薄くできる。完全に透明に近い状態まで落とせるはずだ。だから森からすれば、俺一人ならそこまで警戒する必要がない」


そして少しだけ表情を真面目にする。


「逆に変に人数を増やせば、それだけで森全体を敵に回す可能性がある」


「でしたら」


クリスは当然のように答えた。


「私が力尽くで道を切り開いてみせます」


「だからそれをするなって話をしてるんだよ!」


レイズが即座に突っ込む。


「できるかできないかの話じゃない! 今回は神獣と戦いに行くんじゃないし、ジュラそのものを敵に回すつもりもないんだよ!」


「ですが、レイズ様へ危害を加えるようであれば――」


「それもだめ!」


レイズは頭を掻きながら続ける。


「お前らが強引に森を刺激すると、本当に面倒になるんだ。それにな……下手に刺激して目を覚まさせたら、本気で洒落にならないやつだって、あそこにはいる」


クリスの目が僅かに細くなる。


「洒落にならない……ですか?」


「あぁ」


「どの程度でしょう」


「とんでもなく、だよ」


「ヴィル様やセバス様が存命であられても?」


その問いに、レイズは一瞬だけ黙った。


ヴィル。


セバス。


クリス。


自分が知る中でも、間違いなく異常と呼べるほどの実力者たち。


普通の強敵であれば、その三人が揃った時点で大概の問題はどうとでもなる。


だが。


レイズはすぐにはっきり答えた。


「あぁ。ヴィルやセバス、それにクリスがいても絶対に無理だ」


「…………」


「そういう強さの尺度で考えること自体が馬鹿らしい話なんだよ。だからこそ刺激しない方がいい。今回は俺一人で行くのが、一番安全で、一番手っ取り早い」


レイズは肩をすくめる。


「わざわざ短く済む話を、大きな戦いにする意味もないだろ?」


「で、ですが……」


クリスがまだ納得できない顔をする横で、イザベルも不安そうに口を開いた。


「そうよ……。ジュラにはコカトリスや、災害クラスの魔物だっているって聞いてるわ。学院でもジュラだけは絶対に軽率に近づくなって教えられた。座位騎士が何人か揃って、ようやく探索が許されるような場所なのよ?」


「あぁ、そういえばそんなのもいたな」


「そんなのって……」


レイズは少し考えた後、突然離れた場所へ声を飛ばした。


「リアノ!」


「は、はい!!」


少し離れたところで作業をしていたリアノが驚いて振り返る。


「レイズ様! どうなさいましたか!?」


「ティグルの洞窟に行った時にいた魔物たち、覚えてるか?」


その言葉を聞いた瞬間、リアノの顔から僅かに血の気が引いた。


あの時の記憶は、彼女にとって決して簡単に忘れられるものではない。


「はい……。とてつもなく危険な魔物ばかりで……」


そして心配そうにレイズを見る。


「もう二度と、あんな場所へ行くのは駄目ですよ……?」


レイズは少し笑った。


「俺、あの魔物たちに臆してたか?」

「そんなわけありません!」


リアノは即座に否定する。


「レイズ様は、あれほど危険な魔物を……それよりもずっと強大な魔物だって、ほとんど無傷で倒されていました!」

「だろ?」


レイズはイザベルとクリスを見る。


「つまりそういうことだ」


「…………」


「ティグルに住んでる魔物と、ジュラに住んでる魔物。純粋な危険度だけなら、はっきり言ってティグルに巣食ってたやつらの方が圧倒的にヤバい。それに向こうの方が遥かに攻撃的だった」


レイズは自分の手を見るようにして続ける。


「それでも俺は、あの程度ならもう問題なく対応できるくらいには強くなったって自覚してる」

「そ、そんなの……」


クリスが苦しそうに言葉を探す。


「そんな簡単に信じろと言われましても……」


レイズは静かにクリスを見る。


「俺の言葉だぞ?」

「…………」

「信じられないか?」

「い、いえ……!」


クリスが反射的に姿勢を正す。


「ヴィルは信じて送り出してくれたぞ?」


その言葉に、今度はイザベルがものすごい勢いで振り返った。


「ちょっと待って」

「ん?」

「私たち、そのティグルの洞窟って話自体が初耳なんですけど?」


「…………」


レイズの目が僅かに泳ぐ。


イザベルがさらに詰め寄る。


「ティグルって……魔族領よね?」

「まぁ……そうだな」

「なんで教えないのよ!!」


「仕方ないだろ!? 戻ってきたと思ったらヴィルと模擬戦したり、ディアナがいたり、王国のこともあったり! こっちはこっちで色々ごちゃごちゃして、説明する暇がなかったんだよ!」


「そういう大事なことは暇がなくても言うのよ!!」


「悪かったって!」


クリスはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。


「……分かりました」

「お?」

「ですが、本当に安全なのですね?」


レイズは少しだけ笑う。

「じゃあもう一回聞くぞ、クリス」

「はい」

「俺の今の実力で、ジュラの普通の魔物に後れを取ると思うか?」

「そんなわけありません!」


今度は一切迷わなかった。


「レイズ様の実力であれば! グレサスですら赤子の手を捻るようなものです!」


「アホか!!」


レイズの突っ込みが即座に飛ぶ。


「グレサスはどう考えてもまだ無理だろ!?」

「そのようなことは――」

「ていうか、そこでいちいちグレサスを引き合いに出すなよ! お前もグレサスも、俺からしたらとんでもない化物みたいなもんなんだよ!」


「いえ!」


クリスは本気だった。


「レイズ様はいずれ、このクリスなど……ましてやグレサスなど、瞬く間に追い抜いてしまわれます!」

「今はそんな話してない!」


レイズは呆れながらも、ふとクリスを見る。


「それにな、クリス」

「はい?」

「お前、たぶん自分で気づいてないからはっきり言うけど」

「……?」


クリスが首を傾げる。


「今のお前とグレサスの実力、はっきり言ってもうほぼ互角だ。」


「…………」


一瞬。


クリスが固まった。

そして。

その目が明らかに輝いた。


「……互角ですか?」


ぽつりと呟く。

グレサス。

クリスにとって兄であり、越えるべき相手。

幼い頃からずっと背中を追い続けてきた存在。

その兄と、今の自分が互角。


レイズが何気なく口にしたその評価が、クリスにとってどれほど重い意味を持つのか。


残念ながら、レイズ本人はそこまで理解していない。


「そんな……まだ僅かながら、グレサスの方が上のはずです」


「お前が最後にグレサスと模擬戦したの、何歳の時だっけ?」


クリスは少し考える。


「そうですね。アルバードへ仕える前ですから……十二歳の頃でしょうか」


「だろ!?」


レイズは呆れたように両手を広げた。


「十二歳で、二十歳を越えてたグレサスとまともに戦えてる時点で、お前がおかしいんだよ!」


「…………」


「で、今のお前は二十二だろ? グレサスも三十くらいだ。年齢的にも肉体的にも、お互い全盛期に近い。しかもお前はアルバードに来てからもずっと鍛錬してる」


レイズはクリスを指差した。


「技術だって昔より遥かに上だろ。なら今は互角か、むしろお前が少し越えてたって何もおかしくないんだよ。少しくらい、自分の馬鹿げた強さに気づけ!」


「そんな……」


クリスは本気で戸惑っていた。

だが。

すぐに小さく頭を下げる。


「ありがとうございます、レイズ様」

「いや、礼を言われる話でも……」

「もし再びグレサスと戦う機会があれば、必ずこのクリスが勝利してみせます」


「いや、もう王国と争わないからな!?」


レイズが慌てて止める。


「グレサスと死闘するような話そのものが、もう起きないから!」

「いえ。やつとは必ず戦うことになるでしょう」


「なんでだよ!」

「グレサスですので」

「理由になってねぇよ!」


クリスは妙に落ち着いた顔で続ける。


「大丈夫です。やつがこちらへちょっかいを出さぬ限り、このクリスも我慢しますので」


「ちょっかいって……」


レイズは頭を抱えた。


「まぁ……もういい」


これ以上続けても話が進まない。

レイズは改めて荷物を持ち上げる。


「とにかく今回は一人で行く。最短を選ぶなら絶対に一人だ。これは譲らない」


「…………」


「だからクリスもイザベルも、ここで待っててくれ。王国との問題についてはもう大丈夫だと思うけどな」


そこで。

レイズの表情が少し変わった。


「ただ、一つだけ気になることがある」


イザベルはその変化にすぐ気づく。


「一体どれだけ知ってるのよ……ほんとに」


そして。

少し寂しそうに続けた。


「それに、どれだけ一人で抱えるつもりなのよ……」


レイズは一瞬イザベルを見る。


だが。


今はその言葉に答えず、静かに続けた。


「ヴィルとセバスが最後に戦った相手のことだ」


「…………」


クリスの空気が一瞬で変わる。

レイズはそれを理解しながらも続ける。


「俺はそいつらを知ってる。ティグルの最奥にいた魔物、ディアブロ。そして最果てに住んでいて、自称魔王を名乗ってる男――ガイル」


「…………」


「そいつらが手を組んで、アルバードまで来た」


クリスの目から、先ほどまでの柔らかさが消えていく。


「ディアブロは……聞いた話だと、たぶん死んだと思う」


レイズは少しだけ言葉を濁した。


「でも、ガイルは生きてる」

「…………」


「そして今、あいつが何を考えてるのか、正直俺には分からない」


クリスの目が冷たく細められた。


「もし……」


レイズは続ける。


「またガイルがアルバードへ来た時、止められるやつが必要なんだ」


その瞬間。


クリスの口元が、僅かに歪んだ。


「それはつまり……」


低い声。


「セバス様と、ヴィル様の仇を討つ機会があると?」

「いや」


レイズは即座に否定した。


「絶対に殺すな」

「…………」


クリスの顔から笑みが消える。


「ガイルはとんでもなく強い。だけど、絶対に殺したら駄目だ」


「なぜですか!?」


「ガイルを殺せば、最果てに住んでる最上位の魔族たちの怒りを一気に買うことになる」


「その程度であれば――」

「クリス」


声が変わった。

その一言だけで。

部屋の空気が止まった。


リアノも。

イザベルも。


そしてクリス自身も。

反射的にレイズを見る。

レイズは怒鳴っていない。


眉間に皺を寄せてもいない。

ただ。

真っ直ぐクリスを見ていた。


「俺に、もう魔族を殺させるような結果を絶対に残すな」


「…………」


低い声だった。


普段の軽口も。

困ったような笑い方も。

そこには何一つ残っていない。

怒っているのではない。


だが。

これは命令だった

アルバード当主として。


そして。

レイズ・アルバードという一人の人間が。

絶対に譲るつもりのない一線だった。


「…………」


クリスは言葉を失った。

ただの「殺すな」ではない。


ガイルを許せという話でもない。

ヴィルやセバスのことを忘れろと言っているわけでもない。


ガイルを殺せば、また誰かが怒る。

その怒りがアルバードへ向かう。

戦いが起きる。


そして。

その時。


レイズはまた誰かを守るために、魔族を殺さなければならなくなる。


レイズが拒絶しているのは。

その未来そのものだった。


「…………」


イザベルも。

その意味を理解している。

だからこそ何も言わない。

リアノも。

レイズから目を離せずにいた。


クリスは、ゆっくりと頭を下げた。


「……はい」


それだけだった。


だが。


そこには、先ほどまでの「それでも私は」という反論はなかった。


レイズも、それ以上は言わなかった。


ほんの数秒前まであった冷たい空気を、自分から切り替えるように肩を落とす。


「……まぁ、そういうことだ」


そして。

いつもの調子へ戻った。


「じゃあ、さくっと行ってくるから」

「ちょ、レイズくん!」

「数日で戻るって!」

「そういう問題じゃ――!」


イザベルの声を背中に受けながら、レイズは荷物を抱えてさっさと歩き出していく。


あまりにもいつも通り。

まるで。


少し町へ出掛けてくるとでも言うような軽さで。


その背中を、イザベルたちは黙って見送った。

やがて。


レイズの姿が見えなくなってから。

クリスが小さく息を吐いた。


「…………」


額には。


僅かな汗が浮かんでいる。


「先ほどのレイズ様の言葉……」


イザベルが静かに答える。


「ええ。本気よ」

「…………」

「だからクリス」


イザベルは彼を見る。


「絶対に、駄目よ?」


クリスは少しだけ目を伏せた。


「……はい」


実力だけで言えば。


現時点では、まだクリスの方がレイズよりも遥かに上にいる。


もし純粋な戦闘になれば、その差は簡単に埋まるものではない。


だが。

そんな話ではなかった。


クリスが感じたのは恐怖ではない。

もっと別のものだった。


あれは。


レイズが決して譲るつもりのない意思。

自分が何を失っても。

誰に反発されても。

決して越えさせない境界線。


そして。

その線を自分が越えれば。

レイズを裏切ることになる。


それを。

クリスは瞬時に理解していた。

ヴィルとセバスの仇。


その言葉だけならば。

ガイルを前にした時。


自分が何をするかなど、少し前までは決まりきっていた。


殺す。


それ以外は考えなかった。

だが。

今は違う。


「…………」


クリスは拳を握る。


レイズは、復讐を忘れろとは言わなかった。


怒るなとも言わなかった。


ただ。


その怒りを理由に、新たな戦争を生み出すなと言った。


そして。

それこそが。

今のレイズ・アルバードが。

何よりも守ろうとしているものなのだと。

クリスはようやく。

その重さを少しだけ理解し始めていた。


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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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