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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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押し寄せる問題

その頃――。


自分との対話を終えたカイネルが、帰りの馬車の中で王国の未来について考えを巡らせていることなど知る由もなく。


レイズは、まったく別の問題に頭を抱えていた。

「……入学することは決まりだ」


重々しく。

まるで戦場へ赴く覚悟でも決めるかのように、レイズは言った。


「もう……後には引けないんだ」


その言葉を聞いた瞬間。

クリスとイザベルが、ほとんど同時に反応した。


「ですから! レイズ様! 学院などへ行く意味がありません!」


「そうよ、レイズくん! それ以前にアルバードはどうするのよ!?」


左右から飛んでくる声に、レイズが僅かに身を引く。


イザベルは腕を組み、明らかに納得していない顔で続けた。


「学院に通うってことは、王国にしばらく滞在するってことでしょう!? あなたはアルバードの当主なのよ!?」


するとクリスが、何でもないことのように答えた。


「いいえ。その必要はありません」

「……え?」

「レイズ様であれば、三刻ほどあれば通えます」


「…………」


クリスは真顔だった。

「わざわざ王国に住む必要などありませんよ」

「おま……おまえ!」


レイズが思わずクリスを指差す。

「毎日通学で三時間も走るやつがあるか!?」

「ですが、私との鍛錬ではその倍以上は走り込みをされています」

「アホか!!?」

即座に怒鳴り返した。


「鍛錬と通学を一緒にするなよ! 学院に着いた時点で俺だけ汗べったりじゃねぇか!」


「着替えをご用意すれば問題ありません」

「そこじゃねぇよ!!」


想像する。


まだ朝も早いうちからアルバードを出発し、ひたすら王国まで走る。


そして学院へ到着。

周囲には身なりを整えた少年少女たち。

その中へ。

汗だく。

息切れ。

髪もぐちゃぐちゃ。


服まで汗で張り付いたアルバード当主が現れる。


「どう考えてもおかしいだろ! 入学初日から変人扱いされるわ!!」

「レイズ様であれば問題ありません」

「何を根拠に言ってんだよ!」


二人のやり取りを聞いていたイザベルが、とうとう声を上げた。


「だから! なんで通うことを前提に話してるのよ!?」

「仕方ないだろ!?」


レイズも負けじと言い返す。


「陛下が必要だって言ったんだよ!」

「だからって……!」

「アルバードが王国との関係を示すために必要なことだって!」


レイズは自分の胸を指差す。


「つまり俺が!」

もう一度。


「俺が学院にいることが、アルバードと王国の間にある壁を完全になくす証明になるんだよ!」

「…………」


妙に自信満々だった。


しかし。


少し離れたところで聞いていたディアナが、困ったように笑う。


「たぶん……違う気がするのですが……」

「え?」

「いえ……」


ディアナはそれ以上言わなかった。

だが。

その勘は――ほとんど当たっていた。


レイズは知らない。


すでに王国とアルバードの間に存在していた巨大な壁は、レイズとカイネルが言葉を交わした時点で、ほとんど意味を失っている。


カイネルがレイズに学院へ来てほしいと願った本当の理由。


それは国家間の関係を示すためという大義だけではない。


もっと単純で。

もっと個人的なものだった。


――レイズ・アルバードという少年を、もっと知りたい。

カイネルは、そう思ってしまった。


王としてではない。

一人の人間として。


レイズという少年が、これから何を見るのか。

何を学び。

誰と出会い。

何を考え。

そして何を生み出すのか。


それをもっと近くで見てみたい

さらには。


この少年をアルバードという一つの土地だけに留めておくことを、カイネルは惜しいとすら感じ始めていた。


その結果として出てきた学院への入学という条件は――。


かなりの部分で。

国王カイネル個人の我が儘だった。


もちろん。

そんな事実を、この場にいる者たちが知るはずもない。


「レイズくん」


イザベルが、ものすごく疑わしそうな顔をする。


「な、なんだよ」

「あなた……騙されてるんじゃない?」

「騙される?」


レイズは自分を指差した。


「俺が!?」

心底あり得ないと言いたげだった。


「それこそまさかだろ!」

「その自信はどこから来るのよ……」

「あのおじさんは、俺に覚悟を示せって言ってんだよ!」

「…………」


ディアナの眉がぴくりと動く。


「レイズ様」

「なんだよ」

「陛下をおじさん呼ばわりするのは駄目ですよ?」

「…………」


レイズの勢いが止まる。


「あぁ……」

少し目を逸らした。


「今のは……なかったことにしてくれ」

「私は聞きましたけど」

「忘れてくれよ!」


すると。


「何を仰いますか」

クリスが低い声を出した。


「あのジジイの腹の黒さを、私はよく知っています」

「…………」


今度は

全員がクリスを見た。


イザベルが目を見開く。

「あ、あんた! クリス!」

「なんですか」

「仮にもあんただって元王国の人間でしょう!? それ以前に国王陛下よ!?」

「だからこそです」


クリスは一切悪びれない。


「王国にいたからこそ、あの御方がどれほど腹の内を隠す方なのか理解しています」

「だからってジジイは駄目でしょうが!」

「事実として年上です」

「そういう問題じゃないのよ!!」

「おい、二人ともやめろって!」

「レイズくんは黙ってて!」

「なぜレイズ様を黙らせるのですか!」

「またそこから!?」

「レイズ様への態度を――」

「やめろぉぉ!!」


わぁわぁと声が飛び交う。

学院へ行く。

行かない。

王国へ住む。

毎日走って通う。

そもそも当主が領地を離れていいのか。

クリスが同行する。

いや年齢的に無理。

だったら護衛として。

そもそも国王は何を考えている。


そんな話が、まとまるどころか話せば話すほど別の方向へ広がっていく。


そんな騒がしい光景を。


少し離れたところから、リリアナが静かに見つめていた。


「…………」


クリスが怒り。

イザベルが呆れ。

ディアナが苦笑し。

リアナとリアノがレイズを心配そうに見つめ。


その中心で。

レイズが必死に声を張り上げている。

リリアナの表情が、ゆっくりと柔らかくなった。


「ふふ……」

小さな笑いだった。

そして。

誰にも聞こえないほどの声で。

二人の名を呼ぶ。


「リヴェル様……」


少しだけ。

声が震えた。


「セシル様……」


レイズの。

本当の父と母。

今はもう、この場にはいない二人。


リリアナは、騒がしいレイズたちを眺めたまま静かに続ける。


「願いが……叶いましたね」


その目から。

一筋だけ。

涙が流れた。


二人が何を願っていたのか。

その願いを知っているからこそ。


今、レイズが王国の学院へ通うという話を皆と騒ぎながらしている。

その事実だけで。

リリアナには十分だった。


争うためではない。

敵地へ向かうためでもない。

命を奪い合うためでもない。


ただ。

一人の少年として。

学び。

人と出会い。


同じ年頃の者たちと時間を過ごすために。

王国へ行く。

かつてなら。

想像すらできなかった未来だった。


リリアナは指先で涙を拭う。

そして、すぐにいつもの穏やかな表情へ戻った。


「さて……」

小さく呟く。

感傷に浸っている暇はない。


レイズが本当に学院へ行くのであれば、準備しなければならないことはいくらでもある。


衣服。

生活用品。

学院で必要となる物。

王国で滞在するなら、そのための準備も。

そして何より――。

レイズは放っておけば、必要な物を絶対に何か忘れる。


そんな確信すらあった。


リリアナはもう一度だけレイズを見て、優しく微笑むと、その場を離れていった。


一方。


そんなリリアナの想いなど知らないレイズたちは、未だ何一つ話がまとまっていなかった。


「行きましょう! レイズ様!」

リアナが勢いよく手を挙げる。

「私がレイズ様の側で常に警戒しますから!」

「わ、私も……!」

リアノも負けじと声を上げた。

「私も、ご一緒します……!」


すると。


「だぁからさぁ!!」


イザベルの我慢が限界を迎えた。


「当主不在とかありえないでしょ!?」

「だから!」


レイズも反論する。


「その間はイザベルとクリスにアルバードを任せるっての!」

「ちょ……!」


イザベルが目を見開く。


「クリスと私でなんとかなるわけないでしょ!?」

「できるだろ!」

「できないわよ!」

「なんでだよ!」

「あなた、自分が普段何やってるのか分かってる!?」

「…………」


一瞬。


レイズが黙った。

イザベルは指を一本立てる。

「町のこと」

二本目。

「新しい技術のこと」

三本目。

「他領との話」

四本目。

「魔族とのこと

五本目。

「王国とのこと」

そして。


「メモリアルストーンの輸出はどうするのよ!?」

「…………」


レイズの表情が止まった。


「あ……」

イザベルの目が細くなる。

「今、忘れてたわね?」

「…………」

「忘れてたでしょ?」

「いや……」

「レイズくん?」

「…………忘れてました」

「ほらね!!」


完全に抜け落ちていた。

王国との条件の中には、メモリアルストーンの定期的な供給も含まれている。


だが。


メモリアルストーンは、ただ職人へ作り方を教えれば量産できるようなものではない。


その作成工程には――。

レイズの死属性が必要不可欠だった。


そして。

その事実を知る者は、極端に少ない。


死属性そのものが秘匿すべき力である以上、製造方法を無闇に他者へ教えるわけにもいかない。


現在、その工程の核心を知っているのは。

レイズ。

そして。

今はこの場にいないヴィル。

ほぼ、その二人だけだった。


「…………」


レイズの目が虚空を見る。

頭の中で。

ものすごい速度で問題が増えていく。


学院。

アルバードの統治。

王国との関係。

通学か滞在か。

メモリアルストーン。

死属性の秘匿。

供給量。

作り置き。

輸送。


「…………」


そして。


レイズの頭が。

一気にフル回転を始めた。


(待て。まず必要な供給量を計算する。学院に行く前に一定数作り置きするか? いや、長期間なら無理だ。定期的に戻る? でも距離が………いや、それは現実的な話じゃない。だったら加工工程だけアルバード側で終わらせて、最後の付与だけ俺が――)


完全に思考の世界へ入り込んでいる

そんなレイズを見ながら。


イザベルが。

「ほんとに……勘弁してよね」

小さく呟いた。

その声は。

先ほどまでより少しだけ弱かった。


「それに……」

「ん?」


思考から引き戻され、レイズが顔を上げる。

イザベルは少し目を逸らした。

「レイズくんがそっちに行ったら……」

「うん」

「私と、またいつ会えるのよ……」

「…………?」


レイズは首を傾げた。

イザベルが本当に気にしていること。


それは。

アルバードから当主が不在になることだけではない。


領地運営だけでもない。

メモリアルストーンでもない。

想いを寄せる相手と。

数年。

離れるかもしれない。


その可能性を。


イザベルは受け入れたくなかった。

しかし

その本心を。

レイズが理解するはずもない。


「え?」


レイズは純粋な疑問を浮かべる。


「学院って休みとかないの?」

「…………」


イザベルはじっとレイズを見た。

一瞬。

何か言いたげな顔をしたが。

やがて諦めたように息を吐く。


「基本的に、休みなんてほとんどないわよ……」

「え?」

「毎日、朝から夕方まで勉強と魔法の鍛錬」

「…………」

「それだけじゃないわ」


指を折りながら続ける。


「魔法研究」

「…………」

「実技訓練」

「…………」

「魔物の討伐」

「魔物!?」

「あるわよ」

「学校だろ!?」

「学院よ!」

「同じようなもんだろ!?」

「それに試験だってあるし……」


イザベルは思い出しただけで嫌になったのか、少し眉間に皺を寄せる。


「卒業するのに、私だって三年もかかったのよ!?」

「…………」


レイズが止まる。


「三年?」

「そうよ」

「…………」


そして。

ゆっくりディアナを見る。


「なぁ、ディアナ」

「はい?」

「三年で卒業って……どうなんだ?」

「…………」


ディアナは一瞬。

イザベルを見る。


そして。

「普通は、ありえませんよ」

「…………え?」


レイズの顔が固まる。


「そんな短期間で卒業するのは……普通ではありません」


レイズがゆっくりイザベルを見る。


「…………」


イザベルが目を逸らす。


「な、なによ」

「いや……」

「なによ?」

「お前、普通にすごかったんだな」

「普通にって何よ!」

「いやだって、いつも――」


「何?」

「…………なんでもない」


危険を察知して口を閉じる。

しかし。

別の問題がある。


レイズは再びディアナを見る。


「じゃあ……」

「はい」

「俺なら何年くらいかかると思う……?」


その問いに。

誰よりも早く。

そして誰よりも自信満々に答えた男がいた。


「二日もかかりません」

「…………」


レイズが横を見る。

クリスが真顔で立っていた。


「…………」

「…………」

「いやいやいや!」


レイズが両手を振る。


「お前は学院のこと何も知らんだろ!!」

「レイズ様であれば一日でも可能かと」

「短くするな!!」

「では半日」

「なんでさらに縮むんだよ!!」

「レイズ様ですので!」

「理由になってねぇ!!」


ディアナが思わず笑う。


「ふふっ……」

「ディアナ!」

「はい」

「真面目に!」

「申し訳ありません」


まだ少し笑いながらも、ディアナは説明する。


「毎年、研究した内容や学論などを発表する機会があります」


「うん」

「ただし、誰でも発表できるわけではありません。その中でも優秀と判断された数名の生徒だけです」


「…………」


「そこで学院側から高い評価を受け、多大な功績を残したと認められれば、通常より早く卒業することは可能です」


レイズの表情に。

ほんの少し希望が戻る。


「じゃ、じゃあ……」

「はい」

「めちゃくちゃ頑張れば?」


ディアナは少し考える。


「……早くても二年、でしょうか」

「二年……」


すると。


イザベルがすぐに首を振った。


「二年で卒業した人なんて、少なくとも私は聞いたことないわよ」

「え?」

「というか」


ディアナが苦笑する。


「三年で卒業した方だって、ほとんどいませんよ?」

「…………」


レイズの顔色が。

再び悪くなる。


そして。

恐る恐る尋ねた。


「ディアナは……?」

「はい?」

「どれくらい……だったんだ?」

「…………」


ディアナが少しだけ視線を逸らした。

珍しく。

恥ずかしそうな顔だった。


「私は……」

「うん」

「五年は、かかりました……ね」


「…………」


レイズが固まった。


「五年?」

「はい……」

「ディアナが?」

「……はい」

「王国の座位持ちの?」

「はい」

「五年?」

「何度確認するんですか!」


「だって!!」


レイズは頭を抱えた。

現在。

王国座位第四位。

学院を卒業した後。

王国でも指折りの実力者へと成長したディアナ。

その彼女ですら――。

五年。


「…………」


レイズの脳裏に。

恐ろしい未来が浮かぶ。

一年。

二年。

三年。

四年。

五年。

ずっと学院。


「…………」

青ざめる。

「俺……」


誰に言うでもなく。

ぽつりと呟いた。


「帰ってこられるの……?」

「だから最初からそう言ってるでしょうが!!」


イザベルの叫びが響く。


「大丈夫です」


クリスだけは平然としていた。


「レイズ様なら二日です」

「まだ言ってんのかお前は!!」


再び。

アルバードにレイズの叫び声が響き渡る。


王国座位第四位へ到達したディアナですら、卒業まで五年。


三年で学院を去ったイザベルですら、極めて異例。


王国中から才能ある者たちが集まり。

魔法。

兵法。

研究。

実戦。

学論。

その全てを求められる場所。


レイズは。

ようやく理解し始めていた。

自分がこれから向かおうとしている場所は。

ただ子供たちが集まって勉強する場所などではない。


王国が長い歴史をかけて築き上げた。

才能を磨き。

才能を競わせ。

その中から、次代を担う者を選び出す場所。

――王国学院。

ある意味では。


下手な戦場よりも。

よほどレイズに向いていない場所なのかもしれない。


「…………」


レイズの額を。

一筋の冷や汗が流れ落ちた。

魔族と戦った時とも違う。

王国の騎士を相手にした時とも違う。

デュランと対峙した時とも違う。


純粋な。

未知への恐怖。

それが今。

レイズの頭の中を。


ものすごい勢いで駆け巡っていた。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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