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必死の賜物。



休むことなく、真面目に木刀を振り続けるレイズ。

時折、ふっと顎を引き、余裕を漂わせるような仕草を見せる。

――だが、その余裕は木刀を持ち上げる瞬間に、跡形もなく吹き飛ぶのだった。


「レイズ様……そろそろ休憩をしてくださいませ」

心配そうに声をかけるリアナ。


だがレイズは低く落ち着いた声を作り、ゆっくりと振り返った。

「……リアナよ。時には男とは、決めた道を突き進まなければいけない時がある」


一呼吸置き、真剣な眼差しで言葉を続ける。

「そう、それが今なんだ。……見ててくれ」


リアナは思わず頬を赤らめ、うっとりとその姿を見つめる。


そしてレイズは再び木刀を握り直す。

――カッコつけた以上、今度こそ変な声は出さない。そう固く誓った。


だが、振り上げる瞬間。


「……っっっ!!!」


喉から声を絞り出さないよう必死に堪えた結果、顔はぐにゃりと歪み、目も口も開ききって、とんでもない形相になっていた。


もちろんレイズは気づかない。

だがリアナは「さすがです!」と声を上げ、その必死さを真剣に受けめていた。



木刀を振り続けるレイズのもとに、重々しい足音が近づいていた。

図書館のある方角から、ゆっくりと歩み寄る影。


最初に気づいたのはリアナだった。

彼女はすぐさま膝を折り、深く頭を下げる。


――ヴィルだ。


だが、レイズはそのことに気づかない。

全身から汗を飛び散らせ、必死の形相で木刀を振り続けている。


ヴィルは近くまで歩み寄ると、その姿を黙って見つめた。

それは努力する孫に対する驚愕か。

それとも、あまりにも凄まじい形相に言葉を失ったのか。

あるいは、ただ邪魔をしたくなかったのか。

――その真意を知る者はいなかった。


やがて木刀を置き、一息つくレイズ。

満足げに顎を引き、カッコつけた声で言い放った。


「っふ……では少し休憩を――」


そして振り返った瞬間。


「おわぁっ!!」


そこに立っていたのは、いつの間にか見守っていたヴィルだった。


思わず情けない声をあげ、慌てふためくレイズ。

次の瞬間、顔を真っ赤にしてうつむき、どこか恥ずかしそうに目をそらした。


ヴィルはその姿を、静かに、惜しむように見つめていた。

だがその眼差しには、深い愛情が込められていた。



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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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