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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

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誠実なるアホ

夜の空気はひんやりとして、部屋の中の静けさを一層際立たせていた。

机のランプの光だけが、レイズの顔を淡く照らしている。

ベッドの端で考え込む彼の耳に、やがて小さなノックの音が届いた。


「……この音は……リアノか?」

レイズは顔を上げ、ため息をひとつ吐いてから短く返事をした。

「いいぞ、入っても。」


ゆっくりと扉が開く。

「ありがとうございます、レイズ様。」

入ってきたのはリアノではなく、クリスだった。


「……クリスか。どうした?」

レイズはわずかに首をかしげる。


クリスは静かに歩み寄り、ベッドのそばに立った。

「わたしも、腰かけてもよろしいでしょうか?」


「……ああ、いいぞ。」


そう答えた瞬間、クリスは何故かそのままベッドに腰かけた。

「ん?」とレイズが目を丸くするが、言葉は続けなかった。


「……それで、どうしたんだ、クリス?」


クリスは一度うなずき、ゆっくりとした声で切り出した。

「はい、レイズ様。実は、伝えなければならないことがございます。」


その声音に、不穏というよりは“重み”が宿っている。

レイズは思わず姿勢を正し、思考を巡らせた。


「実は、私はセバス様より“ある教授”を授かりました。」


「ほう。それで、どんなものだ?」


「はい。それは――“当主であるレイズ様が困っているときには、必ず側にいなさい”というものです。」


レイズはふっと笑みを浮かべ、肩の力を抜いた。

「ああ……そういうことなら、いつも支えてもらっているな。

 ありがとう、クリス。お前がいるおかげで俺は頑張れていることが多い。」


「……はい。では、失礼します。」


そう言うと、クリスはためらいなく布団に潜り込んだ。

レイズは固まる。


「えっと……クリス、これは?」


クリスは落ち着いた声で答えた。

「はい。今のレイズ様は、とても困惑し、疲弊しております。

 故に側に私がいます。なので、安心してください。」


男二人が一つのベッドに潜り込む――その光景にレイズは内心で頭を抱えた。


「う、うん……そうか……クリス、お前は……」


レイズが言いかけたとき、クリスが言葉を重ねた。


「はい。それで一つ、お話をしてもよろしいでしょうか。」


レイズは心の中で(いや、布団に入ってくるなよ……)と思いながらも、クリスの声に引き込まれていた。


「そうか。どんな話だ?」


「はい。私がアルバードに仕えることになった経緯についてです。」


レイズはわずかに目を見開く。

「……おお、それは確かに気になるな。」


クリスは薄く笑い、レイズの隣でゆっくりと息を吐いた。

その話が、二人の関係をさらに深く結ぶものになることを、レイズはまだ知らなかった。


夜の部屋は、淡いランプの光に照らされて静かだった。

レイズは布団の端で、クリスの言葉を黙って聞いていたが、内容が進むごとに顔が引きつっていく。



「私はまだ、王国に仕え始めて間もないころでした。」

クリスはゆっくりと語り出した。

「私は兄グレサスを越えたかったのです。

兄はその頃からすでに王国から多大な信頼を得ていて……私はいつもその影に埋もれていました。」


レイズは眉をひそめ、思わず口を挟んだ。

「は?……グレサスと兄弟?!」


クリスは落ち着いた声で頷く。

「はい。兄は強く、そして私は深く嫉妬しました。」


「ちょっと待て待て!」レイズは手を振る。

「そもそも、グレサスはもう三十は超えてるだろ?……お前、今何歳なんだ?」


クリスは一瞬考えてから、柔らかく答えた。

「そういえば、伝えていませんでしたね。私は今、二十一になります。」


レイズは頭を抱えた。

「……クリス……あのさ、王国に仕えていたのって何歳だったんだ?」


「そうですね……あの頃は今のレイズ様くらいでしたので、十三とかではないでしょうか。」


レイズは心の中で盛大に突っ込んだ。

(そりゃ勝てるわけねぇだろ!!)


「そうなのか……グレサスは強いもんな……」


クリスは静かに微笑んだ。

「えぇ。私が全力でやっても、腕を折ることしかできませんでした……」


「……十三歳でグレサスの腕を折った……?」

レイズは目を見開いたまま、クリスを凝視する。


「そして、私は腕も足も折られ、いつも泣いていました。

まるで相手にもならない。その結果、兄への嫉妬はいつしか恨みへと変わりました。」


レイズは間抜けな声を漏らした。

「お、おう……」


その表情には呆れと驚きと、そしてどこか妙な感心が入り混じっていた。

クリスの声は淡々としていたが、そこに隠された過去の痛みが、レイズにはじわりと伝わってくるのだった。


クリスの話は、静かながらも確かな重みを帯びて続いた。

レイズは布団の中で、目を細めてその言葉に耳を傾ける。


――兄弟喧嘩でそこまでやるか、と思わず口にしそうになりながらも、クリスは当時の敗北を完全な屈辱として受け止めていた。

彼の瞳には、ただただ「越えたい」という一念だけが残っている。


最強兄弟の稽古――それは、外から見れば狂気のようなもの

クリスは昔を思い返すように小さく息を吐いた。


幼き日の稽古場は、血と汗と鋼の音で満ちていた。

グレサスとクリス――互いを砥石にし、互いを叩き上げる。だが、そこには愛情だけでは説明のつかない、容赦のない厳しさがあった。

クリスは何度も立ち上がり、何度も打ち据えられ、折れた腕や足の痛みを抱えながらも、ただ一つの目標に囚われていた。――兄を越えること。


そして転機が訪れる話に。ある日、グレサスは“ヴィル”という最強と相対することになった。

「ヴィルとか……!?」とレイズが思わず声を上げると、クリスは小さく頷いた。


「はい。ヴィル様は、その頃からすでに驚異的な力を持っていました。

 一瞬にして、兄の動きを封じたのです。」


その光景は、戦場にいた者すべてに衝撃を与えた。

グレサスは、初めて自らの無力を知ったのだ。あの誇り高き兄が、真剣な表情で顔をゆがめるのを、クリスは初めて見たという。


それからというもの、グレサスの鍛錬は別物になった。

眠る間も惜しんで己を追い込み、剣の刃に血と理を刻み続ける。だが、グレサスとクリスの差はいつしか開く一方だった。強さの質が、根本から変わっていった。


クリスは、その時決意したという。

「私は――兄を倒せる者に仕えよう」と。


「それで、ヴィルに仕えたのか」とレイズが促すと、クリスは静かに言葉を続けた。

「はい。あの方の強さに触れれば、私もまた変われると信じたのです。兄を越えるために、私は選んだのです。」


言葉は淡々としているが、その背後にある執念は凄まじい。

部屋の空気が一瞬だけ張り詰める。レイズはそれを見て、ふっと息を吐いた。


「──なるほどな。だから今のクリスがあるのか」


クリスは小さく微笑む。

「はい。あの時の選択が、私をここまで導いてくれました。

 しかし、同時に多くを失ったのも事実です。誇り、幼さ、王国の立場、グレイオンの名を、そして――純粋さの一部を。」


その言葉に、レイズは黙って頷いた。

夜は深まり、二人の間に過去と決意の静かな共有が残された。


クリスは話を続けた。


「私は名目上、アルバードへの“監視”ということで、ここへ来たのです」


クリスは窓の外の夜景でも眺めるように、静かに話し始めた。

「ヴィル様は、その……温かく迎え入れてくれました。

 セバス様は最初、私を厄介者のように見ていましたが――それは仕方のないことです」


レイズは呆れたように口を開きかけるが、言葉は出なかった。

(そりゃ、そうだろう)とでも言いたげな表情を浮かべる。だが、クリスは続けた。


「しかし私は、ヴィル様の“強さ”の本質を理解しました。

 強さとは、相手をただ倒すことではない、と。」


レイズはぽかんとした顔で返す。

「気絶させればいいんじゃないのか?」


クリスは首を振る。表情には揺るがぬ確信が宿っていた。

「いいえ。向こうは、こちらを――本気で、殺すつもりで来ます。

 だから“殺さずに制圧する”というのは、並大抵のことではありません。

 それを成し遂げるには、圧倒的な実力が必要なのです」


言葉の端々に、彼が見聞きしてきた場面の残像が混じる。

拳がぶつかる音、折れる木のきしみ、そして叫び。だが、その奥には──もっと静かなものがあった。


「そして、その実力の根底にあるのは、必ず“守るという意思”です。

 ヴィル様はかつて“魔族殺しの剣神”の異名を持っていましたが、今では“不殺の剣神”と称えられています。

 『人を殺さぬ剣』ほど、強さを如実に示すものはありません。」


レイズはしばらく黙ってクリスの顔を見つめた。

その瞳に、少しずつ理解の色が差し込んでいく。


「分かりますでしょうか、レイズ様、相手を殺さずに倒す難しさということが――」


短い沈黙のあと、レイズは深く息を吐いた。

「……分かる。だが、それをやるのは――相当の覚悟と技量が要るな」


クリスは小さく頷いた。

「ええ。ですから――私がここにいる意味があるのです。

 ヴィル様に仕え、彼の“剣”と“意思”を学び日、それを受け継ぐこと。

 それこそが、私が兄を越えるために選んだ道でした。」


窓の外では、夜風が木々を揺らす。

部屋の静けさの中、二人の間に言葉以上のものが流れていた。

それは、強さにまつわる理念の共有であり、戦う者だけが分かち合える静かな尊厳のようなものだった。


夜の部屋には、ランプの淡い光と、わずかな夜風が入り込む音。

レイズは布団の端に横になり、クリスの言葉を聞いていた。


「ですが、レイズ様はそれをさらに越える力を示そうとしています」

クリスの声は落ち着いていた。

「それは――戦わずに勝つということです。

 これは、かのヴィル様でも成し得なかった偉大なことです」


レイズは目を細め、息を吐いた。

「……そこを繋げてきたのか……」

感心しながらも、彼の表情にはどこか影が落ちている。


「ぁぁ、だが、クリス。俺はまだそれが成せたと思っていない。

 常に苦悩している。今も不安しかない。果たしてうまく行くのか……」


クリスはその言葉を遮るように、力強く言い切った。

「必ず、うまく行きます」


「……ぉぉ、おう……」

レイズはわずかに顔をそらした。


「ですから、レイズ様はもっと自信をお持ちください」

クリスは真剣な目で彼を見つめる。

「結果ではなく、その意思こそが、必ずレイズ様を更に上へ成長させます。

 もっと誇りを持つべきなのです」


その言葉のあと、クリスは静かに体の向きを変え、レイズの方へ寝返った。

布団越しに伝わる微かな体温に、レイズの背筋がぞわりと震える。


「……おう、ありがとう。クリス、俺はもう大丈夫だから……」

レイズは慌てて反対向きに体を変えた。


「はい! それでは、レイズ様……おやすみなさい」


やがて、クリスはその場で静かな寝息を立て始める。

部屋の空気は一層穏やかに、温かく包み込むようになった。


レイズは目を閉じ、ひとりごとのように小さくつぶやく。

 「.....クリス……違う意味で眠れねぇよ……

てかクリス.....ほんとにアホだな....だがほんとに真っ直ぐで強いやつだよ。お前は....」


そう言いながら、レイズの瞼はゆっくりと重くなっていった。

胸の奥には、確かに小さな安心と落ち着きが芽生えていた。



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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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