魔族の抗争
その頃、魔族領。
荒野を揺るがす怒号と轟音が響き渡っていた。
「我らに屈せよ! バルキア族の者ども!!」
ヴェルの指揮下にある魔族たちが咆哮を上げる。
だが、返る声は憎悪に満ちていた。
「ふざけるな! 人間に媚びる貴様らに屈するものか!
貴様らは臆病者だ! 我らならばその“レイズ”とやらを喰らい、その血肉を力に変えてやる!」
怒り狂ったバルキア族の魔族たちは、天空を裂くように魔法を放った。
炎、氷、雷――嵐のごとく振り下ろされる大魔法の雨。
だが、その全ては――虚しく消え去る。
ヴェルの部下が手にするのは、レイズから託されたメモリアルストーン。
放たれた魔力は石に吸われ、無効化され、そして――逆に跳ね返る。
「な……何だこれは……!」
バルキア族の者たちは次々と膝を折り、悲鳴を上げる。
一方が放つ魔法はすべてかき消され、
一方は確実に反撃を与える。
それはもはや「戦い」ではなかった。
戦場は圧倒的な片側の支配に染まり、抗争と呼ぶにはあまりに一方的な光景となっていた。
戦場の熱気がようやく収まり、荒野に静寂が戻る。だが沈黙の中から先に口を開いたのは、屈した者の声などではなかった。低く、誇り高く響く声音──それが最初に宣言する。
「我らは屈したのではない。盟約を結ぶ。対等だ。そしてその盟約の根底にあるのは──われら魔族を守るために必要なことだ。」
怒号と嘲りが入り混じる返答が飛ぶ。だが、相手側に余裕はない。口調は荒くも、その背後には迷いが見え隠れする。
「我らは力を示した。それでもなお、われらに従わぬというのか。強きものに従え──それが魔族の掟だ」
言葉が交錯し、緊張が増すなか、ヴェルの部下の魔族が前へと進み出た。彼(彼女)の声は冷静だが、確かな威厳を携えていた。
「愚かな争いは終わらせよう。おまえたちが守るべきものを、我らも守る。礼を重んじ、誓いを立てることこそが、本当の強さだ」
その宣言は決して口先だけのものではない。ヴェルの部下である魔族の横顔に漂う凛とした表情が、言葉に重みを与える。反論の声は次第に小さくなり、やがて一人が低く呟いた。
「──わかった。だが、その“レイズ”という者が我らの期待に沿わなかったら、俺は命を懸けてでもそいつを討つ」
場は一瞬硬直する。しかしヴェルの部下は笑いにも似た、冷ややかな顔で応じる。
「心配するな。すぐに分かるだろう。だが覚えておけ──それでもおまえらが勝てるなどということは断じてない」
その声は脅しではない。確信に満ちた約束であり、同時に警告でもあった。聞いた者たちの表情に、さまざまな色が差す──不安、興奮、そしてわずかながら希望にも似たもの。
やがて互いに視線を交わし、粗野だが固い握手が交わされる。盟約は形となり、荒野の風がその結びつきをそっと撫でた。争いは奇妙な静けさへと変わり、魔族たちは新たな関係を胸に歩むのだった。




