デュランの覚悟
修練所。
偵察隊の報告を受け、グレサスは眉をひそめた。
「……商人か。なるほど、確実に何かを握っているな」
ルーカスが進み出て報告を続ける。
「はい。アルバードから出入りは容易ですが、問題があります。内部に強力な魔族の存在が確認されました。あれに目をつけられれば、我々偵察隊では到底太刀打ちできません」
グレサスは顎に手を当て、しばし考え込む。そして冷たい声で言い放った。
「ならば保険をかけるまでだ。――デュランを同行させろ」
場が一瞬ざわつく。ルーカスが恐る恐る口を開く。
「で、デュラン様を……? ですが商人一人にそこまで――」
グレサスは薄く笑い、遮る。
「愚か者。問題は商人ではない。魔族だ。アルバードにいる連中は、もはや人の枠を越えている可能性がある。奴らが商人を守るよう動いた場合、貴様らだけでは手に余る。だが、デュランがいれば抑止力となる」
ルーカスは息を呑む。グレサスの眼差しには揺るぎない自信があった。
「いいか、ルーカス。商人は必ず捕らえろ。ただし決して長居はするな。アルバードの外に出た瞬間――それが好機だ。速やかに確保し、速やかに引き返せ。いいな?」
「はっ、必ず成功させてみせます!」
やがて命令はデュランへと伝えられる。
彼は腕を組み、淡々と答えた。
「商人一人の捕縛に私を……。なるほど、魔族が守る可能性を見越してのことだろう。分かった。ならば私が行こう。確認したらすぐに報告を寄越せ。――引き返す時は、一瞬の迷いも許さんぞ」
その声には、魔族相手でも退かぬ確信があった。
こうして、デュランと偵察隊が商人リールを狙い、アルバードの外で決行する作戦が動き出すのだった。
アルバードの外での作戦――
商人を捕らえる。ただそれだけのはずだった。
だが、デュランの胸中には拭えぬ影があった。
「……本当に、これほど単純な話で済むのか?」
疑念は消えない。
商人の背後には必ず、アルバードの気配がある。
それに――あの魔族の存在。
「確かに、奴らが守りに出てきたとしても……商人を押さえる間の足止めにはなるだろう」
デュランは自らに言い聞かせるように呟く。
だが、思考の先に浮かぶのは一人の名。
――ウラトス。
もしあれが現れたなら。
そのときばかりは策も理屈も通じない。
「……その時は、俺は命を賭けて戦うしかない」
覚悟を固めるように、デュランは拳を握りしめた。
彼の瞳には、冷静さと共に静かな決死の炎が宿っていた。




