↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
265/361

リールに賭ける



アルバードに、一人の男が辿り着いた。

――リールだった。


馬車には、ぎっしりと積み上げられた魔力石。

げっそりとやつれた顔に、幾晩も寝ずに道を急いだ疲労が刻まれていた。


「……やっと、着いた……」


重い息を吐きながら目にした光景に、リールは思わず立ち尽くした。

そこには巨大な気配を放つ魔族、凛として並ぶダークエルフ、そしてアルバードの民たちが慌ただしく準備を進めている。

人と魔が交わり、同じ場で暮らしている――それは、リールの知る常識をあっさりと覆す光景だった。


「リールさん、おかえりなさい」


声をかけてきたのはイザベルだった。

彼女は明るく手招きし、そのまま案内する。

導かれるまま辿り着いた先――そこには整然と並べられた大量のメモリアルストーン、そして中央に立つレイズの姿があった。


「よく来てくれたな、リール」

レイズは真っ直ぐに告げた。

「このメモリアルストーンを、全部王国に売ってほしい。

ただし――公共のために使うのであれば安くても構わない」


「……なっ……!?」

リールは耳を疑った。これほどの宝を、敵対するかもしれない王国に渡すというのか?


レイズは続ける。

「王国に伝えてくれ。戦を起こさぬのなら、さらに輸出は増やす。

だが――欲をかくな。

貴族の贅沢ではなく、国民のために使うんだ」


その声音は媚びるでもなく、脅すでもない。

ただひたすらに、戦を避けるための策。

豊かさを示すことで、争いを無意味にするための、確かな決意だった。


「もし戦を選ぶのなら――これ以上の供給は絶つ。

それだけではない。応用の術――装置の仕組みも、我ら以外には一切渡さない」


静かに、だが強く放たれた言葉。

それは「戦えば損をする」という現実を、王国に突きつけるものだった。


リールは震えるように理解した。

――これが、戦わずして勝つということか。


イザベルは胸を張って、誇らしげに笑った。

「リールさん、レイズくんは頭が飛んでるけど……これは血を流さないための方法なのよ。だから本当に大変だと思うけど、よろしくお願いしますね。」


レイズはリールの目を見据え、短く頷く。

「あぁ……全てはお前にかかっている。あとは戦力の“威”を見せつけるだけだ。これで王国との因縁に終わりをつける。お互いに、平和でいることに損はない。だから、何もしない。何もしなければ利がある、損はしないんだ。」


言葉は冷静だが、そこに滲む覚悟は誰の耳にも伝わった。

「リール、お前なりの言葉で説明してくれ。形式でもよい、真摯さでもよい、方法は任せる。要は、相手に“戦う気にならせない”ことだ。」


広間の空気が締まる。イザベルは静かに頷き、レイズは少しだけ肩の力を抜いた。

リールは重い箱を抱えるように息を整え、これから伝えるべき言葉を胸に抱えて立ち上がった。


レイズは深々と頭を下げた。屋敷の木の床に微かな音が響くほど、真摯な所作だった。


「頼む。」


リールは震える手で荷綱を握りしめながら、息を吐くように答えた。 「断れるわけないじゃないですか……。承知しました、レイズ様。」


その日はリールを屋敷に泊め、翌朝の出立に備えることになった。だが、既に王国は静かに動き出していた。


王国の偵察隊は目を光らせ、街の雑踏の中で一人の商人に目を止める。

「あの男……商人か? あいつなら、何か掴んでいるはずだ」

視線は合図を交わすように動き、標的はリールに定まった。


屋敷にいたヴェルが、静かにレイズの居室へとやって来る。

気配は巨大でありながら穏やかで、だがその瞳には確かな警戒が灯っていた。


「レイズよ。王国が、あの商人に目をつけている。行かせて本当に大丈夫なのか?」


レイズは少しだけ笑ってから、首を横に振った。

「大丈夫だ。王国のやつらは、すぐには手を出せない。上からの指示が必要になる。だが――これは好機かもしれない。ヴェル、切り札を使うときが来たかもしれない。」


ヴェルは微かに身を乗り出し、低い声で問うた。

「ほう。どう使うつもりだ?」


レイズは目を細め、言葉を選ぶように答える。

「リールを単に守るだけでは意味が薄い。彼が王国へ持ち帰る情報を、過剰に大袈裟にさせる。怖れを植え付けるんだ。見せつけるんだよ――アルバードは手を出せば大きな代償を払う、と。ヴェル、お前の切り札で『とんでもない存在』を示してくれ。だが露骨に出すな。」


ヴェルは薄く笑みを浮かべ、うなずく。

「わかった。私がリールの影に忍び込み、必要ならば警鐘を鳴らしてやる。だが、使う力は一度しかできぬと心得た。」


「その一度で十分だ。」レイズは静かに断言した。

「王国に『ここはいまや簡単に手出しできない』と理解させる。それだけで戦意は大きく削げる。君たちには無駄な血は流させない。」


ヴェルは重々しく頷き、視線を窓の外の遠い道筋へ向ける。朝の光が村の屋根を淡く照らしていた。外では民がいつものように動き、だがその空気はどこか昨日と違って凛としている。


「行け。リールを見張りつつ、必要なら静かに示威を行え。判らせるだけでいい。」


「了解だ、レイズ。」


こうして、リールを先導役にした小さな作戦が、静かに幕を開けた。誰にも気づかれぬように――だが確かに、王国に「アルバードは侮れぬ」と刻み込ませるための一歩が踏み出されたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。