レイズの告白。
アルバードの広間には、人と魔族が一堂に会していた。
本来ならば、同じ場所に集まり、同じ目的のために肩を並べることなど考えられなかった者たち。それが今は、迫りつつある王国との衝突を前に、同じ広間で一人の少年の言葉を待っている。
ざわめきが少しずつ静まっていく中、レイズは皆の前へ進み出た。クリス、イザベル、リアノ、リアナ、ディアナ。そしてヴェルやエルイをはじめとした魔族たち。その一人一人を確かめるように見渡してから、レイズは静かに口を開いた。
「みんな、よく集まってくれた。最初にはっきり言っておく。今の俺たちには、決して余裕があるわけじゃない。ヴィルも、セバスもいない。今までアルバードを支えてくれていた二人の絶対的な力は、もうここにはない。そして王国の手は……すでにこっちへ伸びてきている」
広間の空気が僅かに重くなる。ヴィルとセバス。その二人を失った事実は、ここにいる者たちにとってあまりにも大きい。だがレイズは、その沈黙を振り払うように首を横へ振った。
「でも、心配するな。二人がいなくなったから終わりじゃない。俺たちには、まだ仲間がいる」
レイズは人々を見る。そして、その隣に立つ魔族たちを見る。
「人と魔族が手を結んで、同じ敵を前にして一緒に立っている。こんなことは今までなかった。だから俺は、これをただの戦いにはしたくない。ここにいる全員で、この先へ進みたい」
一度だけ息を吸い、レイズは強く言い切った。
「誰も死なせない。そして俺たちは必ず勝つ」
誰も声を上げなかった。だが、それは疑っているからではない。レイズの言葉を受け止めようとする沈黙だった。
「そのための準備を、今から始める。まずヴェルとエルイには、可能な限り大きく魔力を放出してもらう。戦うためじゃない。俺たちにはこれだけの戦力があると王国側に思わせるためだ。相手が勝手に警戒してくれるなら、それだけでも戦いを避けられる可能性は上がる」
ヴェルは面白そうに笑い、エルイも少し緊張した表情を浮かべながら頷いた。
「そして――ヴェルには、もう一つ役目を頼んでいる」
そう言いながら、レイズは一つのメモリアルストーンを取り出した。
その瞬間、イザベルの視線が石へ向く。
「それが……切り札なの?」
「あぁ」
「何を記憶させているの? 危険なものじゃないでしょうね?」
レイズはメモリアルストーンを見つめ、少しだけ笑った。
「まだ誰にも見せたことがない魔法だ。俺も最近になって、ようやくまともに扱えるようになった。言うなら……未来の魔法だな」
エルイが不思議そうに首を傾げる。
「未来の魔法……ということは、氷属性ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、レイズは僅かに目を見開いた。
そして気づく。
そうか。そうだよな……。
ここにいるほとんどの者は、まだ知らない。
自分の本当の属性を。
「……そうか。みんな、俺が氷属性しか持っていないと思ってるんだな」
その言葉に、何人かが顔を見合わせた。
レイズは手に持ったメモリアルストーンを握り締める。
本来ならば、言うべきではない。
ヴィルにもそう言われていた。
この力は隠せ。
知られれば、必ず利用しようとする者が現れる。
だから今まで隠してきた。
だが。
レイズはもう一度、目の前にいる者たちを見る。
そして静かに告げた。
「俺には、もう一つ属性があるんだ」
広間が静まり返る。
「氷と――死属性だ」
空気が変わった。
「……死属性?」
誰かが呟いた。
それだけで十分だった。死属性。その言葉に対するこの世界の認識を、レイズは知っている。
忌避される属性。
役に立たない力。
劣印。
持っていたところで何の価値もないとされるもの。
そしてそれは古くから、この世界の全てに嫌われている力であることを。
だからこそ、周囲から戸惑いの視線が向けられるのも当然だった。
だがレイズは、その視線から逃げなかった。
「知っていたのは……ヴィルだけだ。俺はずっと、この力を隠していたんだ」
イザベルの表情が変わる。クリスも目を見開き、ディアナも信じられないようにレイズを見ている。
レイズは手にしたメモリアルストーンを掲げた。
「これを作っているのも、その力だ」
「…………え?」
「魔石をメモリアルストーンへ変えているのは、俺の死属性だ」
今度こそ、明確などよめきが起こった。
光。
水。
火。
冷気。
そして王国で今まさに広まり始めている、これまでの常識では考えられなかった数々の道具。
その根本にあるものが、誰もが無価値だと思っていた死属性。
誰もすぐには理解できなかった。
レイズは構わず続ける。
「死属性って名前がついているけど、本質は違う。本質は無属性だ」
「無属性……?」
「あぁ。そして、この力が持っている一番異常な性質は――魔力に干渉できることだ」
レイズの表情が変わった。
「魔力を消すことができる。魔法を無力化することもできる。そして魔力石そのものへ干渉して、別の性質を持たせることだってできる。それがメモリアルストーンだ」
ディアナが眉を寄せる。
「そんな……死属性に、それほどの力が……?」
「ある」
レイズは即答した。
「だから俺は、死属性を無能だとは思ってない。むしろ逆だ。正しく使えるなら……この世界の常識そのものを壊せるくらい、異常な力だと思ってる」
その言葉にディアナの表情がさらに曇った。
「この世界の……常識?」
しまった。
レイズは一瞬だけそう思った。
ディアナはじっとレイズを見ている。
「レイズ様……あなた、さっきからまるで……」
言葉が止まる。
レイズは何も答えなかった。
代わりに、もう一つの秘密を利用することにした。
完全な真実ではない。
だが、完全な嘘でもない。
「俺は、この力で……未来の記憶を手に入れている」
「…………未来?」
今度は先ほど以上の沈黙が落ちた。
「俺が知っている知識。メモリアルストーン。これから起きるかもしれない出来事。そういうものを、俺は未来の記憶として知っている」
イザベルだけは黙っていた。
彼女はレイズが未来を知っていること自体は知っている。
だからこそ、何も言わない。
「覚えてるだろ? 城壁の灯りも、水を出す仕組みも、冷やすための道具も。俺は何もないところから全部思いついたわけじゃない。未来に存在するものを知っていたから、それを今ここで再現したんだ」
レイズは広間を見渡した。
「だから俺は、未来を変えられる」
その言葉だけは、強かった。
「俺が知っている未来では、失われるものがたくさんある。死ぬ人間もいる。起きてほしくないことだって起きる。だから俺は、それを変えるためにここにいる」
レイズの脳裏にヴィルとセバスが浮かぶ。
そして僅かに拳を握った。
「……全部を変えられるなんて、もう思ってない」
その言葉だけは、少し弱かった。
「俺が知っていても、救えなかったものはある。もっと早く強くなれていたら。もっと早くこの力を使えていたら。ヴィルも……セバスも……」
誰も口を挟まない。
レイズは一度目を閉じ、再び開いた。
「だからこそ、もう同じことは繰り返したくない」
そして皆を見る。
「俺一人で全部抱えるのもやめる」
イザベルが僅かに顔を上げた。
「ヴィルからは、この力を簡単に他人へ教えるなと言われていた。俺もその通りだと思ってた。知られれば王国は欲しがる。俺の力を。そして場合によっては……死属性を持つ人間そのものを調べ始めるかもしれない」
ヴェルが腕を組みながらレイズを見る。
「ならば、なぜ今になって我らへ話した?」
レイズはヴェルを真っ直ぐ見返した。
「信じることにしたからだ」
短い答えだった。
「俺がここにいるみんなを信じないで、みんなに命を懸けて戦ってくれなんて言えるわけないだろ」
その言葉に、イザベルが僅かに目を伏せた。
リアノは胸の前で手を握る。
クリスは何も言わない。ただ、誇らしそうにレイズを見ていた。
ヴェルはしばらく黙ったあと、大きく笑った。
「ハハハハ!! なるほどな。ようやく合点がいった。お前がこれまで見せてきた異常な知識も、理解できぬ道具も、すべてそこへ繋がるというわけか」
「あぁ」
「そして、それほどの秘密を我らへ話した。それを信頼の証とするか」
「あぁ」
ヴェルは笑った。
「ならば我らも、それに応えねばなるまい」
その時だった。
魔族たちの中から、一人のダークエルフが立ち上がった。
「そんなものは関係ない!」
突然の大声にレイズがそちらを見る。
「レイズは純粋なる仲間だ!」
「…………」
レイズが固まる。
すると別のダークエルフまで立ち上がった。
「そうだ! 純粋なるレイズだ!」
「死属性だろうが何だろうが関係ない!」
「純粋なる仲間に異論などあるか!」
「おいおい……」
重かった空気が一瞬で崩れていく。
レイズは思わず苦笑した。
「お前ら……本当に『純粋』って言葉好きだよな」
「当然だ!」
「純粋だからな!」
「意味わかって使ってるか!?」
その言葉に笑いが起こる。
ヴェルまで楽しそうに腕を組んだ。
「ハハハハ!! それでこそ我らよ。レイズ、お前はとうに我らの純粋なる仲間だ。属性程度で今さら何が変わる」
「……ありがとう」
レイズは小さく笑った。
それだけで十分だった。
そして、ようやく本題へ戻る。
レイズはメモリアルストーンをもう一度掲げた。
「それで――これが今回の切り札だ」
広間の空気が再び引き締まる。
「この中には、俺の死属性の魔法を記憶させてある。俺が今使える死属性の中でも、最大級の術だ」
クリスが石を見る。
「どのような効果なのでしょうか?」
「完全な無力化に近い」
レイズは短く答えた。
「発動すれば、範囲内にいる相手はまともに魔力を扱えなくなる。魔法を維持することも難しくなるし、相手によっては立っていることすらできなくなる。それくらい強く魔力そのものへ干渉する」
ざわめきが起こる。
「ただし、欠点もある」
レイズはすぐに付け加えた。
「必要な魔力量が多すぎる」
そしてヴェルを見る。
「だから、ヴェルに持たせる」
クリスが手を挙げた。
「でしたら、そのメモリアルストーンを複数用意し、皆へ配ることはできないのでしょうか?」
「できない」
レイズは首を横へ振った。
「正確には、石そのものは作れる。でも発動できる人間がほとんどいない」
「魔力量ですか?」
「あぁ。今ここで確実に使えるのは……俺とクリスとヴェル。この三人くらいだと思う」
リアノが驚いたようにレイズを見る。
「レイズくんも……?」
「あぁ」
レイズは自分の手を見る。
「俺も最近になって、ようやく届いた」
何度も魔力を使い切った。
何度も限界まで魔法を使った。
身体を鍛えながら、魔力も鍛え続けた。
才能だけではない。
未来を知っているからでもない。
積み重ねた結果として、ようやく届いた場所だった。
「だから、これは最後の切り札だ。できれば使わない。それが一番いい。でも王国側の強者が出てきて、どうしても止められなくなった場合は……ヴェル、頼む」
「任せろ」
ヴェルが笑った。
「相手が誰であろうとな」
その言葉を聞き、レイズは頷いた。
「絶対に死ぬな」
その一言で、再び空気が少し変わった。
「俺はもう、誰かが死ぬことを前提に作戦を考えるつもりはない。これは命令だ。勝つことより、生き残ることを優先している」
リアノはその言葉を聞きながら、ずっとレイズを見ていた。
ヴィル。
セバス。
失った二人。
そして、それでも前を向こうとしているレイズ。
自分たちを信じるからこそ、誰にも話していなかった秘密まで明かした。
リアノの胸の奥で、何かが決まった。
「レイズくん!!」
突然の大声に、レイズが驚く。
「な、なんだ!」
リアノは一歩前へ出た。
そしてイザベルを見る。
「イザベル様……申し訳ございません!」
「……え?」
イザベルまで困惑する。
リアノは大きく息を吸った。
「私……決めました」
そして。
真っ直ぐレイズを見る。
「私は、レイズくんが好きです」
「…………は?」
広間が静まり返った。
「レイズくんの隣にいたいです。レイズくんを信じたい。これから先も、ずっと傍にいたい。だから私は……レイズくんを愛します!」
「ちょっと待て!?」
最初に反応したのはレイズだった。
「なんで今なんだよ!?」
リアナが目を丸くする。
「リアノ!? このタイミングで!?」
ディアナまで驚いている。
「ちょ、ちょっとリアノ……あなた、そんな大胆なことを……」
だが。
イザベルだけは、しばらくリアノを見たあと、ふっと笑った。
「……知ってたわよ。私だけじゃない……」
「イザベル様……」
「リアノがレイズくんを好きなのくらい、とっくに分かってた」
イザベルはそのままレイズを見る。
「でも、私もレイズくんが好き」
「イザベル!?」
「だから譲るつもりはないわよ、リアノ」
そして笑う。
「どっちが先にレイズくんの隣に立てるか――競争ね」
「はい!」
「はい!じゃないだろ!!?」
レイズが頭を抱えた。
「お前ら、今なんの話してたか覚えてるか!? 王国が来るって話してたんだぞ!?」
その瞬間。
「純粋だ!!」
ダークエルフの誰かが叫んだ。
「何が!?」
「純粋なる愛だ!!」
「うるせぇ!!」
広間が一気に騒がしくなる。
そんな中、クリスだけが妙に真剣な顔をしていた。
「……遂に、この時が来てしまったのですね」
「クリス?」
クリスは胸の前で両手を組む。
「私が誓います!」
「何を!?」
「レイズ様の伴侶となられるお二人を、私が全力で支えます!!」
「勝手に伴侶にするな!! あと誓うな!!」
クリスは聞いていない。
「身の回りのお世話、警護、住居、必要とあらば――」
「具体的に考え始めるな!!」
ディアナが肩を震わせる。
「クリス……あなたのサポート、逆に不安なんですが……」
「問題ありません!」
「その自信が一番怖いんですよ!」
さらにダークエルフ達まで拳を掲げ始める。
「ならば我らも誓おう!」
「純粋なる愛を見届けるぞ!」
「お前らまで参加するな!!」
ヴェルも完全に面白がっていた。
「ハハハハ!! よいではないか、レイズ。我も見届けてやろう」
「ヴェル! お前は止める側だろ……」
そして、その騒ぎの中。
「あ、あの……!」
エルイが小さく手を挙げる。
「私も……立候補しても……」
「純粋だ!!」
「おお!!」
「聞いてください!!」
完全にかき消された。
レイズは頭を抱える。
「お前らいい加減にしろ!! こういうのはな、死亡フラグって言うんだよ!!」
全員が止まった。
「…………死亡?」
「…………ふらぐ?」
レイズも止まる。
「あ」
また言ってしまった。
イザベルが吹き出した。
「ふふっ……やっぱりレイズくん、時々よく分からないこと言うわね」
「いや、今のは忘れてくれ……」
「あの!」
今度こそエルイが声を張った。
全員が見る。
エルイの顔は真っ赤だった。
「わ、私も……レイズさんが好き……なんですけど……」
「…………」
レイズは数秒固まった。
「あ……え? ありがとう! でも今はとりあえず、俺の話を最後までさせてくれ!!」
「そこなの!?」
誰かが叫んだ。
だがレイズはもう必死だった。
「伴侶とか恋愛とか、正直俺にはよく分からない! 今はそれより、これだけは聞いてくれ! 俺の秘密を知った以上、みんなには今まで以上に危険が及ぶ可能性がある。だから誰一人、勝手に命を懸けるな。必ず生き残る。必ず全員で帰ってくる。それだけは約束してくれ!」
ヴェルが愉快そうに笑った。
「未来は分かっても、恋は分からぬか。随分と浅いものだな、レイズ」
「うるさい!」
リアノは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに笑っている。
イザベルは呆れたようにレイズを見る。
(そこは分かりなさいよ……)
クリスはそんな二人を見ながら、何やらすでに将来の支援計画でも考えているような顔をしている。
エルイは「ありがとう」だけで流されてしまったことに小さく肩を落としていた。
そして。
「なら!!」
今まで黙っていたリアナが突然一歩前へ出た。
レイズが嫌な予感とともに振り返る。
リアナは胸を張った。
「私が一番、レイズ様を愛してますけどね!!」
「「「えっ!?」」」
広間が爆発した。
「リアナ!?」
「いつから!?」
「待ってください!」
「純粋だぁぁぁ!!」
「また純粋かよ!!」
誰が驚き、誰が笑い、誰が本気なのか、もはや分からない。
レイズは両手で頭を抱えた。
「……もう収拾がつかねぇ……」
ほんの少し前まで。
ここでは王国との衝突について話していたはずだった。
死属性という、レイズがこれまで隠し続けてきた最大級の秘密を明かしたはずだった。
それなのに今は、なぜか自分を巡って言い争いが始まり、ダークエルフ達は「純粋」を連呼し、ヴェルは大笑いし、クリスは勝手に伴侶の支援を誓っている。
めちゃくちゃだった。
だが。
レイズはその光景を見ながら、ほんの少しだけ笑った。
これでいい。
ヴィルには言われていた。
死属性のことは隠しておけ、と。
それが正しいことも分かっていた。
それでもレイズは今日、自らその秘密を明かした。
もう。
ここにいる者たちを、心から信じているからだ。
誰も犠牲にするつもりはない。
誰か一人を切り捨てて未来を変えるつもりもない。
だからこそ、自分だけが秘密を抱えたまま、その者たちへ命を預けろとは言いたくなかった。
無属性。
メモリアルストーン。
未来の記憶。
レイズは自分が抱えてきた秘密を、初めて大勢の仲間へ明かした。
――ただし。
一つだけ。
まだ、話していないことがある。
未来の記憶。
それだけは。
死属性とは何の関係もない。
レイズは、そこだけは嘘をついた。
いや。
正確には。
本当の理由を、別の秘密で覆い隠した。
未来を知っている理由。
この世界では知り得ないものを知っている理由。
レイズ・アルバードという少年の中に。
本来ならばここに存在しないはずの、別の誰かの記憶が宿っていること。
それだけは。
まだ言えなかった。
死属性を明かすことはできた。
未来を知っていることも明かすことができた。
だが。
「自分が何者なのか」
その最後の秘密だけは、まだ怖かった。
もし話せば。
今、自分へ笑いかけてくれている者たちは。
どういう顔をするのだろう。
レイズは、騒ぎ続ける皆を静かに見つめる。
リアノがいる。
イザベルがいる。
リアナがいる。
クリスがいる。
リリアナがいる。
ディアナがいる。
エルイがいる。
ヴェルがいる。
人も。魔族も。
いつの間にか。
こんなにも多くの者が、自分の周りにいる。
だからこそ。
いつか。
いつかは。
その最後の秘密も。
この者たちになら――話せる日が来るのかもしれない。
レイズはそう思った。
「レイズ様!」
「レイズくん!」
「純粋なるレイズ!!」
「だから純粋ってなんなんだよ!!」
再び広間に笑い声が響いた。
戦いは近い。
王国との衝突も避けられるとは限らない。
何が起こるのか。
レイズにも、もう完全には分からない。
知っている未来は、すでに少しずつ形を変え始めている。
それでも。
少なくとも今だけは。
この騒がしくて。
面倒で。
どこか温かい時間を。
失いたくないと思った。
だからレイズは、もう一度だけ心の中で誓う。
必ず守る。
今度こそ。
誰一人として――失わない。




