リヴェルとセシルの出会い
セシルはアルバードの庇護のもと、隔離された場所でひっそりと育っていた。
人々は彼女の存在を受け入れようとはしなかった。
「なんで、魔族がここにいるんだよ……」
「見ろよ、あいつ。笑ってやがる。どんな神経してるんだ。」
陰口は絶えなかった。だが、誰も彼女に手を出すことはできなかった。アルバードの加護があったからだ。
セシルはそれを理解していた。理解した上で、それでも笑顔を絶やさなかった。
それは誰かに教えられたものではなく、ただ彼女自身が選んだ生き方だった。
――憎まないこと。
――まっすぐに生きること。
だからこそ、彼女の笑顔には曇りがなかった。
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やがて成長したセシルは、ヴィルの実の息子――リヴェルと顔を合わせることになる。
「君が……セシルか。初めて会えたね。」
軽い調子で声をかけたリヴェルに、セシルは少し緊張しながらも答える。
「そ、その……ヴィル様にお世話になっています。
私に……話しかけてくださって、ありがとうございます。」
そして、はにかむように笑顔を向けた。
その瞬間、リヴェルは息を呑んだ。
目の前の少女の笑顔には一切の曇りがなく、ただ真っすぐに自分を映していたからだ。
王国から「次代の宝」とまで称される彼でさえ、その透明な光を前にどう応じればよいのか分からなかった。
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それからというもの、リヴェルはセシルのもとを訪れることが増えていった。
気が付けば、二人で過ごす時間は日常になっていた。
ある日のこと。リヴェルは思い切って口を開いた。
「君の父は、僕の父と兄弟にあたる。
父は多くを語らないけど……君を見ていると分かる。
きっとウィズ様も偉大な人だったんだって。」
セシルは少しだけ悲しそうに笑った。
「私は……父も母も、よく覚えていないんです。
でも……感じるんです。
私のことを、すごく愛してくれていたって。
私のことを……」
言葉は途中で途切れ、頬を伝って涙が零れ落ちた。
本当は分かるはずがない。
父と母の愛を当たり前に受けて育つことができなかった彼女が、その温もりを知っているはずがないのだ。
けれど――セシルは確かに信じていた。
愛されていたことを。
希望を捨てずに、生きていることを。
その姿に、リヴェルの胸の奥に強い衝動が宿る。
(……この子は、俺が守らなくてはならない。)
それは同情ではなかった。
ただ、心の奥底からあふれ出す、確かな決意だった。
だが、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。
王国に――セシルの出自が知れ渡ってしまったのだ。
誰が告げ口をしたのか、どこから漏れたのかは分からない。
しかし日に日に成長するセシルの面影を見て、気付く者がいた。
「あれは……ヴィズと、ダークエルフの娘だ」
その噂は瞬く間に広がり、やがて王の耳に届いた。
王は重々しく命を下す。
「ヴィル……私は残念だ。なぜヴィズの隠し子を匿っていた?」
ヴィルは堂々と答える。
「確かに、セシルは弟ヴィズの娘です。
ですが――子に罪はありません。
だからこそ、私が育てました。」
王の顔に怒りが走る。
「貴様! 王国を愚弄するか!
騎士の座に連なるお前がそれでは、誰が王国の誇りを守るというのだ!」
そして冷酷に続ける。
「最後にチャンスをやろう。セシルを殺せ。
二度は言わせぬぞ。」
ヴィルは静かに剣を握りしめ、はっきりと告げた。
「セシルはすでに、私の息子リヴェルと結ばれている。
それを殺せと言うのは――すなわち、私に息子も殺せと命じることですか?」
その声音には、王に向けられた明確な敵意が込められていた。
王は深く頭を抱え、やがて吐き捨てるように言った。
「……ならば、アルバードは王国に連なることに相応しくない。
命は取らぬ。だが責任は重い。
――お前を騎士から除名する。」
こうしてヴィル・アルバードは王国騎士の座を追われた。
その話は瞬く間に広がった。
アルバード家に仕えていた多くの騎士は、立場を恐れて次々と離れていく。
だが――ただ一人、静かにヴィルのもとを訪れた者がいた。
セバスである。
彼はひざまずき、低い声で言った。
「ヴィル様。あまりにも……王国の判断は誤っています。
どうか、私を――あなたの部下としてお仕えさせてください。」
ヴィルは目を細め、問いかける。
「……それがどういう意味を持つか、分かっているのですか?」
セバスは迷いなく首を振った。
「はい。私には身内もいません。
すでにただの一人の騎士に過ぎない。
失うものも、守るべき立場もない。……安心してください。」
その声音に、ヴィルは深く理解した。
セバスは――もはや“国”や“王”を守るのではない。
目の前の人間、その在り方を守ることを選んだのだと。
だが、その決断は――セシルの心に深い傷を残した。
「わたしのせいで……
ヴィル様も……セバス様も……
そして……リヴェル様まで……」
彼女は一人、声を殺して泣き続けた。
自分が存在することで、大切な人たちを苦しめてしまった。
そう思わずにはいられなかったのだ。
しかし、そんな彼女を放っておけるはずがなかった。
リヴェルはそっと寄り添い、揺れる瞳をまっすぐ見つめて言った。
「気にするな。間違っているのは父でも、セバス様でもない。
そして――君も間違っていない。
僕はそんな“正しいセシル”が……大好きだ。」
その言葉はまるで光のように、セシルの胸に届いた。
彼女は嗚咽を止めることはできなかったが、それでも確かに救われたのだった。
こうして、王国から完全に孤立したアルバード家。
その決断は、やがて訪れる王国と魔族の大戦において――
大きな悲劇を生み出す引き金となってしまう。
それは、レイズの知らぬ過去。
そして決して知ることのない――真実の物語であった。




