レイの家にいく。
話がひと段落したところで、フェリルが微笑みながら口を開いた。
「今日はもう夜も遅いですし……良かったら泊まっていってください。それに、レイも喜びますから。」
レイズはその言葉の意味をすぐに察した。
「そうか……じゃあ俺はレイのところに行くよ。リアノは――」
そう言いかけると、フェリルがリアノの手を取り、にっこりと微笑んだ。
「リアノさんには、私の家に泊まっていただきますね。」
リアノは小さく頷き、どこか名残惜しげにレイズを見つめる。
「……お世話になります。それではレイズ様、また明日……」
「おう、また明日な。」
そうしてフェリルの家を後にした瞬間、レイズの全身にぞわりと悪寒が走った。
――視線。
殺気よりも恐ろしく、背筋が凍りつくような圧。
振り返れば、そこには純粋なる瞳を輝かせたダークエルフたちの群れが立ち並んでいた。
「レイズ! 今日は我らの家に泊まるのだ!」
「いや、私のところだ!」
「馬鹿を言うな! レイズ様はこの私が!」
一斉にレイズを奪い合う、純粋すぎる大騒動が勃発する。
レイズは冷や汗を浮かべながら、必死に出口を探した。
(や、やばい……これはもう誰を選んでも火種にしかならねぇ……!)
そして――。
「……ああ、今日はおばあちゃんの家に泊まるんだ。」
ぽつりと、救いを求めるように呟いた。
次の瞬間、場の空気が一変する。
「なっ……!」
「レイのところなら仕方ない……」
「ぐぬぬ……それは……純粋に勝てない……」
ダークエルフたちは肩を落とし、しょんぼりとした背中を見せて去っていく。
喧騒が嘘のように静まり返り、レイズはその場に一人残された。
(……助かった……レイ、ありがとう……!)
胸を撫で下ろしながら、レイズはそっと夜の闇に紛れていった。
そうしてレイの家の前に立ち、レイズは軽くノックをした。
「……入っておいで」
中から落ち着いた声が返ってくる。
「お邪魔します」
扉を開けると、そこには小さな食卓いっぱいに料理が並んでいた。
温かな湯気が立ち、静かな家の中にだけ豊かな香りが満ちている。
準備をしていたのだろう、レイが卓のそばに佇んでいた。
その顔には、言葉少なながらも穏やかな笑みが浮かんでいる。
「……待っていたよ」
レイズは息を呑んだ。
奪い合うような喧噪の中で押し潰されそうになった心が、今ようやく安らぐのを感じた。
「ありがとう……おばあちゃん」
自然に出たその言葉に、レイは小さく頷くだけ。
それ以上、余計なことは言わない。
椅子を引き、手で座るよう促す。
「……冷める前に」
その一言に、すべての気遣いが込められていた。
レイズは微笑み、椅子に腰を下ろした。
久しく感じていなかった、静かな温もりがそこにあった。
食卓の向かいに座ったレイは、無言のままじっとレイズを見つめていた。
初めて会った頃は、すぐに視線を逸らしていた彼女が――今は違う。
その瞳は、何かを確かめるように揺るがず、ただレイズを捉え続けていた。
居心地の悪さに、レイズは思わず口を開く。
「……ねぇ、レイ。おじいさまは、どんな人だったの?」
問いかけに、レイの瞳がわずかに揺れた。
しばし沈黙ののち、彼女は静かに息を吸い込む。
そして――少しずつレイは語る。




