純粋なリアノ
やがて、レイズとリアノはダークエルフの集落へと足を踏み入れた。
すぐに黒衣の者たちが彼らを見つけ、その顔に笑みを浮かべる。
「――よく来た、純粋なるレイズ!」
その声に、レイズは胸を張りながら応じた。
「ありがとう、純粋なるエルフたちよ!!」
満足げに頷くダークエルフたち。彼らはその言葉を疑うことなく受け入れ、ざわめきが広がっていく。
その隣で、リアノも小さな声で続けた。
「……ありがとうございます。純粋なる皆様……」
少し恥ずかしそうに言うと、レイズがすかさず囁く。
「もっと聞こえるように言わないと!」
リアノは頬を染めながらも、意を決して大きな声を張り上げた。
「純粋なる皆様ぁぁ! ありがとぉぉっ!」
その叫びに、集落が一瞬静まり返る。
次の瞬間、ダークエルフの一人が肩を揺らして笑い、落ち着いた声で返した。
「ん? さっきので聞こえていたぞ。我らは耳がいいからな。」
「……あ。」
リアノは横目でレイズをにらむように見やり、レイズはバツが悪そうに笑いながら返す。
「ぁあ、そうだったな……」
リアノはほほをふくらませ、恥ずかしさに視線をそらす。
だが、その様子にダークエルフたちは一気に盛り上がった。
「人間の娘――リアノよ!
おまえが我ら“純粋”を理解するとは……嬉しいぞ!!」
どっと賑わいを見せる集落。
笑い声と歓声が響き、まるで祭りのような空気に包まれていった。
集落の中へと足を踏み入れると、そこには懐かしい笑顔があった。
「……そうですか。レイズさんは悲しみを乗り越えたのですね。本当に、よかった。」
フェリルが目を細め、安堵を滲ませて迎え入れる。
その横で、レイがじっとレイズを見つめると、無言のまま歩み寄り、彼をそっと抱きしめた。
「――よく頑張ったね。」
耳元に届くその言葉は、優しく、深い慈しみに満ちていた。
「ちょ、ちょっと……みんな見てるから! おばあちゃん!」
レイズは顔を赤らめ、恥ずかしそうに抗議の声をあげる。
その様子を、周囲のダークエルフたちは微笑ましく見守っていた。
だが――リアノだけは、複雑な表情でその光景を見ていた。
若々しく美しいエルフの姿で、レイズに抱きつくレイ。
(……おばあちゃん、だもんね……)
そう自分に言い聞かせるように小さく呟き、理解を示す。
それでも心の奥に、ほんのわずかなざらつきが残るのを隠せなかった。
「それでは……今日はわざわざここに来てくださり、本当にありがとうございます。」
フェリルが柔らかく声をかけると、レイズも真っ直ぐに応じた。
「こちらこそだ。アルバードを助けてくれて、ありがとう。」
その言葉に続くように、リアノも胸の前で手を組み、少し緊張した声をあげる。
「ありがとうございます……純粋なる皆様……」
その響きに、レイズが苦笑混じりに肩をすくめた。
「もう“純粋”はつけなくても平気だぞ。」
「えっ……あっ、そうなんですか……」
リアノは小さく頷きながらも、ダークエルフのルールを理解するのに必死だった。
そんな彼女の戸惑いを見て、集落のあちこちから笑い声が湧き上がる。
「おまえも“純粋”だ! リアノ!」
「そうだそうだ! 純粋なる仲間だ!」
瞬く間に騒ぎとなり、リアノの名を呼ぶ声と笑いが重なっていく。
リアノは顔を赤らめて両手を振るが、その様子すらも彼らには愛らしく映った。
その光景に、レイズは小さく笑いながらも、どこか安心した表情を浮かべるのだった。




