真剣な眼差し
眠りについたはずの夜、突如として俺を襲ったのは――とんでもない渇きだった。
「……あつい……あつい……」
体中が燃えるように熱い。
まるで昨日の鍛錬の代償を、一気に精算させられているようだった。
汗が滝のように噴き出し、布団は一瞬で濡れそぼる。
隣で眠っていたリアノは、その異変にすぐさま気づいた。
「当主様……!?」
顔をのぞき込み、呼びかけても反応はない。
瞳を閉じ、苦悶の声を漏らす俺の姿を見て、彼女は即座に理解した。
――脱水だ。
枕元のコップを手に取る。
だが、水を口に流し込もうにも、ぐったりした俺の体は飲み込む力すら失っている。
リアノは唇を強く噛んだ。
そして、決意したように顔を近づける。
「……失礼します」
指先をそっと俺の唇に差し込み、かすかに震える声で詠唱した。
「アクアミスト」
指先から生まれた小さな水流が、ゆっくりと俺の口の中へと流れ込む。
ひんやりとしたしずくが、乾ききった喉を潤していった。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
やがて俺の瞼がわずかに動き、重い意識が戻り始めた。
「……んがっ……んがぁぁがぁぁ!!」
目を開けた瞬間、口の中にリアノの指があることに気づき、情けない声を上げてしまう。
だが、目の前にあったのは――
俺を心から案じ、必死に支え続けるリアノの真剣な顔だった。
その頑なな瞳に、言葉を失う。
……受け入れるしかない。
俺は静かに目を閉じ、彼女の温もりと共に再び眠りへと落ちていった。




