リアノを誘う
レイズは屋敷の中を探し、見つけるや否や大きな声で呼びかけた。
「――リアノ!!」
「はい!!」
元気よく返事をするリアノ。その声にレイズは口元を緩め、続けざまに告げる。
「魔族領に行くぞ!!」
「はい……??」
リアノは一瞬、理解が追いつかず、首をかしげる。
レイズは片手を振りながら軽い調子で言葉を継いだ。
「魔族たちにな、対価を差し出さないといけない。アルバードを助けてくれたんだし、ちゃんと礼を言わないとな。」
「……あっ、なるほど!」
リアノの表情にすぐさま納得の色が浮かんだ。
「たしかに……お礼を伝えるのは大事です!」
レイズは満足そうに頷く。
「そういうこと。だから準備しておけ、リアノ。」
「はいっ!」
力強く返事をするリアノ。その純粋さに、レイズは思わず笑みをこぼした。
「まったく……リアノもかわいいよなぁ。」
何気なく、レイズはそう口にしてしまった。
それは決して外見のことを指しているわけではなかった。
素直さや、真っ直ぐさ――その人柄そのものを指したものだった。
しかし、その言葉は確かに「かわいい」として響いてしまう。
「……かわいい、ですか?」
リアノは思わず戸惑い、頬を赤らめて視線を落とす。
(レイズ様……なんだか、前と少し違う……?)
ほんのわずかに、けれど確かに変化を感じ取る。
そして次の瞬間、リアノの唇から小さな声がこぼれた。
「ありがとうございます……かわいいだなんて……」
純粋な喜びを隠せず、はにかむようにお礼を告げるリアノ。
その様子に、レイズは思わず笑い声を上げた。
「はははっ! そうかそうか!」
上機嫌で笑うレイズの横顔は、普段の冷静さとは違う柔らかさを纏っていた。
その笑みを見つめながら、リアノの胸の奥には小さな灯りがともっていくのだった。
そのやり取りを、離れた場所から聞き逃さなかった二人がいた。
一人はリアナ。
彼女は、レイズとリアノの距離が少しずつ縮まっていくのを目の当たりにし、胸をときめかせていた。
(……すごくいい感じ……。あの二人、なんだか絵になるなぁ……)
羨望にも似た眼差しで、その様子を微笑ましく見つめる。
もう一人はイザベル。
彼女は表情を和らげつつも、ほんの少し切なさをにじませた。
「……簡単に、そういうこと言わないでよね……」
小さな声で呟きながら、視線を落とす。
その声音は、軽い冗談に聞こえるかもしれない。
だが確かにそこには、レイズの何気ない一言に揺れ動く心が隠されていた。
理解を示しながらも、心のどこかで少しだけ寂しさを覚えている――そんな複雑な感情だった。




