誰と行くか。
「――そういうことで、クリス、ディアナ。俺は魔族領に顔を出してくる。」
唐突な宣言に、二人の目が見開かれる。
「どういうことですか!」
鋭く突っ込む声が響く。
レイズは少し肩を竦めて答える。
「いや、だから……魔族たちにもメモリアルストーンの装置を使えるよう説明しなくてはならない。それに、ただでアルバードのために戦ってもらうわけにはいかない。対価が必要なんだ。」
静かな言葉に、クリスは真剣な面持ちで頷いた。
「……確かに、志だけで動かせようとするのは、我々の都合に過ぎました。お見それいたしました。」
その言葉に続くように、ディアナは小さく息をつきながら呟いた。
「なんだか……レイズ様、さらに成長されたといいますか……」
だが、レイズはその評価を受け止めることなく、むしろ厳しい声音で言葉を重ねる。
「それだけ本気でやらなくてはならないんだ。道理を欠けば、魔族も人も信用を失う。その意味は、ディアナなら分かるはずだろう?」
「……」
“信用”という言葉に、ディアナは言い返そうとして、言葉を失った。
その一語は彼女の胸に突き刺さり、返すべき言葉を全て封じてしまったのだ。
「……はい。よくわかります。」
ディアナが小さく頷くと、レイズはさらに言葉を重ねた。
「つまり――やる時は全力でやる。
そして今、波が来ている。そういうことだ!!」
その声音には強い熱が宿り、場の空気を一気に塗り替える力があった。
「さすがで御座います、レイズ様!」
クリスは崇拝にも近い眼差しで、食い入るように頷く。
その姿は、主君に全てを託そうとする従者そのものだった。
一方でディアナは、言葉を失いながらも心の奥で苦笑を漏らしていた。
(なんというか……凄いのに、凄くない……)
矛盾する印象に戸惑いながらも、それでも彼の真剣さと情熱だけは否定できない。
「それで、レイズ様……まさか一人で行かれるわけではないですよね?」
クリスが、期待を隠せない声音で問いかけた。
レイズはその思いを理解しながらも、柔らかく微笑んで答える。
「……クリスは連れていかないよ。」
「な、なぜですかっ!」
クリスの声が揺れる。動揺は隠せなかった。
レイズは軽く肩を竦める。
「何故って……クリスがこの場を離れたら、ここを誰が守るのさ。」
その言葉に、クリスははっと息を呑む。
自分がここを離れることの意味。そして――レイズが自分に寄せる“絶対の信頼”を悟った。
「つまり、クリスと俺は一緒に遠くに行きたくても……今は行けないんだ。だから連れてはいけない。」
そう言いながら、レイズはふとディアナへ視線を送る。
「……えっ、まさか私と!?」
驚きと期待の色を隠せないディアナ。
だが次の瞬間、レイズは静かに告げた。
「ディアナはクリスとお留守番。」
「……えっ? 今の流れは私を誘う流れでは……?」
肩を落とすディアナに、レイズは優しい声音で笑う。
「うん。お留守番。」
「クリスとディアナがここに残ることに意味がある。二人ならきっと上手くやってくれると信じてる。」
その言葉に、結局二人とも反論を失い、半ば丸め込まれるように頷くしかなかった。
「では……それなら一体、誰を……?」
「リアノかな。」
レイズは即答した。
「一番魔族にも受け入れられているし、リアノならよくわかってるから緊張しないと思う。」
クリスが控えめに口を挟む。
「それでは……イザベル様が……」
「イザベルがどうかしたの? っあ!」
レイズが言いかけると、クリスは安堵の笑みを浮かべて一礼した。
「ようやくお分かりになられましたか。」
レイズは軽く手を振る。
「イザベルには……いや、イザベルも、クリスとディアナと三人で今後の提案をまとめてほしいんだ。軍を立てるための知識や構想をな。」
その言葉に、クリスはがっくりと肩を落としたが、すぐに顔を引き締める。
「……はっ! 承知しました!」
レイズは静かに頷き、仲間たちの決意を受け止めた。




