文明の発明。
アルバードの屋敷の夜は、基本的に蝋燭の火が灯すものだった。
柔らかい光ではあるが、油や蝋の補充が欠かせず、何より暗さも残る。
レイズはふと考える。
(……メモリアルストーンを、灯りとして使えないだろうか。)
だが、その発想にはすぐに壁があった。
魔力を流し続けなければ、ストーンは光を放たない――。
レイズは思考を重ねる。
どうすれば、持続的に魔力を送り込めるのか。
そこで一つの可能性に辿り着く。
「……ミスリル。」
ミスリルを細く線状に加工し、その上に魔力石を置いたらどうだろうか?。
魔力石――魔力を宿す一般的な鉱石。
粉末にすれば魔力回復の“飲み薬”として利用できるが、過剰摂取には副作用の危険がある。
そのため通常は、魔力を含む薬草を用いたポーションのほうが主流であった。
だが、石そのものにはまだ未開拓の用途があるはずだ、とレイズは信じていた。
試しにメモリアルストーンに魔力石をかざす。
……反応はしない。
しかし、基礎魔法を記録させたストーンの近くに置くと、突如として反応し、魔法が発動した。
「……なるほど、水のように質量の多いものは難しいが……。
光や火のような“軽い現象”なら、魔力石で十分に起動できるのか。」
さらにミスリル線を繋ぎ、その先に魔力石を置く。
すると、ストーンは淡い光を放ち、部屋の一角を明るく照らした。
「……これなら、屋敷の灯りに使える。」
レイズは確信した。
魔力を浪費することなく、持続的に光を灯せる仕組み――。
アルバードの屋敷は、やがて蝋燭の火に代わって、魔法の光で照らされることになるのだった。
メモリアルストーンを灯りに転用できるとわかってから、レイズは夢中になった。
ガラスの器にストーンを収め、ミスリル線で繋げて光を導く。
透明なガラスだけでなく、赤や青、緑などの色ガラスを試してみれば、灯りは幻想的な彩りを放った。
(……どうせなら、皆の前で見せてやろう。)
そう思い立ったレイズは、一同を夜に屋敷の中央へと集めることにした。
静かな夜、全員が緊張した面持ちで集まる。
「……なんでこんな夜中に?」とイザベルは訝しむが、
ディアナとクリスは「何か仕掛けるのだろう」と理解した顔をしている。
リアナは瞳をきらきらさせて胸を弾ませ、
リアノはじっとレイズだけを見つめ続けていた。
その様子を横で見ながら、リリアナは――唯一事前に知らされていたため――小さく微笑んでいた。
「では……ロウソクを消してくれ。」
レイズの一言で、ふっと火が消え、場は闇に包まれた。
沈黙が落ちたその中で、レイズが静かに宣言する。
「今日から――我らアルバードはロウソクを使わない。」
コトリ、と魔力石を器に置く。
瞬間、色ガラスを透過した光がふわりと広がり、屋敷の中央を柔らかく照らした。
赤や青が織りなす光はまるで宝石のようにきらめき、
見上げる者たちを幻想的な空間に誘った。
「な……なにこれ!!」
「一体これはどういう仕組みなのですか!」
思わず声をあげる皆に、レイズは口角を上げてニヤリと笑う。
「魔力石を使えば、こうして光を生み出せる。
持続時間はおよそ一日。新しい石を置けばまた光を灯せる。」
淡々と説明するレイズだが、その口調とは裏腹に、皆の心は大きく揺さぶられていた。
イザベルは両手をバタバタさせながら叫ぶ。
「ちょ、ちょっと!!レイズくん、いったいどんな発想してるのよ!」
その場に集まった全員は、改めてレイズの才覚が只者ではないことを痛感するのだった。




