イザベルとレイズの回想
幼き日の庭
アルバードの草原。
夕暮れ、まだ幼いイザベルの髪は短く、桃色の光を夕日で透かしながら風に揺れていた。
その隣には、まだ「少年」と呼ぶにふさわしい頃のレイズ。
ヴィルが遠くで鍛錬を見守る姿があったが、当時の二人にはただ「大きな背中」でしかなかった。
「ねえ、レイズくん」
イザベルが真剣な目で見つめてきた。
「おじいさま、すごぉく頑張ってるよね。…でも、なんだか心配。」
レイズは少しむくれながら答える。
「心配なんかいらないさ。僕一人で十分だ。僕が、おじいさまを守るんだ!!だからイザベルは僕を守ればいい!」
その言葉にイザベルは頬をふくらませて、反論する。
「だめ! 私も守るの。それじゃぁさ!二人で約束しようよ。おじいさまに『安心して』って言えるくらい、ちゃんと強くなるって!」
レイズは渋々視線を逸らしながらも、イザベルの瞳の強さに負けたように微笑んだ。
「…わかった。じゃあ二人で、おじいさまを安心させよう。絶対だぞ。わすれるなよ!」
「うん、絶対だよ!レイズくんこそ!」
イザベルは小さな手を差し出す。
レイズもそれに応え、二人の掌が固く結ばれた。
その時の二人の笑顔と、夕日に染まる桃色の髪。
それは、彼らの未来を確かに繋いだ“誓い”だった。
今イザベルはその言葉に、もう耐えきれなかった。
頬を伝う涙を止められず、震える声で答える。
「そうだよ……レイズくん。あの約束……忘れるわけない……」
彼女は泣きながら、幼き日の二人を思い出す。
あの時、固く手を結んだ温もりが、今も確かに胸に残っている。
こうしてイザベルは、涙の中でレイズにかつての繋がりを確かに感じ取った。
彼が「別の誰か」ではなく、幼き日の約束を共に交わしたレイズそのものだと、心で受け入れたのだ。
レイズ自身は、そんなつもりで言葉を紡いだわけではない。
ただ必死に、自分が「ここにいる」と伝えたかっただけだった。
だが――抑えきれずに溢れ出す過去の記憶、胸に響く約束の残響を、彼はもう否定できなかった。
静かに、確かに。
レイズは“過去の自分”を、今の自分の中に受け入れたのだった。




