本来の歴史
こうして場面は移る。
レイズは木刀を握り、クリスとの模擬戦に臨んでいた。
打ち合うたびに響く乾いた音。
汗が飛び散り、呼吸が荒くなる。
ギャラリーはディアナとリアナ、そしてリアノだけ。
かつてなら――イザベルの笑い混じりの声や、少し離れた場所で静かに見守るヴィルとセバスの視線があった。
だが、もうその光景は戻らない。
レイズは理解している。
胸に広がる寂しさも、喉を締め付けるような悲しみも。
けれど時間は決して待ってはくれない。
いまのアルバードは、魔族の協力があっても王国軍と互角がせいぜい。
そこに“最強”グレサスが加われば――一瞬で崩れ去る。
その未来を想像するだけで、手に汗が滲む。
だからこそ、鍛錬をやめるわけにはいかなかった。
ふと視線が模擬戦の合間に逸れる。
イザベルがいつも座っていた椅子。
「もっと腰を落としなさいよ!」とからかう声。
それも、いまはない。
イザベルはあれから部屋に閉じこもったまま、書簡と向き合い続けている。
無理もない。肉親を同時に失った心の穴は、彼女にとって計り知れぬ傷となった。
――レイズは知っている。
この歴史が、もとはどう進むはずだったかを。
ヴィルとセバスを失い、その後にアルバードを継いだイザベル
心に深い傷を作り、追い詰められ、やがて命を落とす。
それが「本来の歴史」で、アルバードの終わりだったはずだ。
木刀を握る手に、自然と力がこもる。
だが、今は違う。
歴史はすでに変わった。
そしてこの場に立っているのは自分だ。
追い詰められてはならない。
力をつけねばならない。
一人で戦ってはならない。
だからこそ、仲間を集め、軍を築く。
迷いはない。




