ディアブロの巣。
ガイルは、ティグルの洞窟に足を踏み入れていた。
無言で、靴音だけが洞窟の奥にこだまする。
いつもなら隣にいたはずのディアブロの姿は、もうどこにもない。
歩くたびに胸の奥に穴が空いたような感覚が広がり、
彼自身も分からない――喪失を埋めようとしているのか、
あるいは、残された何かを探しているのか。
壁や地面に刻まれた無数の傷跡が目に入る。
それはかつて、この洞窟の奥でディアブロと死闘を繰り広げた証。
その記憶は、鮮やかに脳裏へ蘇る。
さらに奥へ進むたび、洞窟は深さを増し、
岩肌は研ぎ澄まされた刃のように鋭く、どこか神秘的な輝きを放っていた。
それは――まるで、ガイルとディアブロの戦いが刻んだ爪痕が、
新たな形を与えられ、美しさすら宿しているようだった。
そしてガイルはふと立ち止まり、拳を握りしめる。
「……ディアブロ。」
その名を呼んだ声は、洞窟に吸い込まれていき、
返事はもちろん返ってこない。
それでもガイルは歩みを止めなかった。
まるで、そこにまだ“彼”がいるかのように――。
ガイルは巣の中央に足を踏み入れると、思わず息を呑んだ。
「ここか……あいつの寝床ってのは。」
洞窟の奥、外光は一切届かず、ただ灯りの魔法をかざさねば何も見えないほどの暗闇。
湿った岩壁、冷え切った空気、孤独そのものを凝縮したような空間だった。
その静けさの中――目に飛び込んできたのは、見覚えのある鉄片や布切れ。
ガイルは無意識に手を伸ばし、拾い上げた。
「これは……俺の装備じゃねぇか。」
戦いの最中に失った肩当て。
折れかけた剣の欠片。
血と汗にまみれた破れた手甲。
それらが無造作に転がっているのではなく、まるで「宝物」のように並べられていた。
岩の窪みに整然と置かれ、飾られている様は――記憶を慈しむ者の仕業としか思えなかった。
「……ったく、何考えてやがったんだよ。」
ガイルは笑おうとした。
だが声は震え、胸の奥から熱いものが込み上げる。
ディアブロは敵だった。
長年殺し合い、互いを罵り合い、命を削りあった相手。
だが、そんな“敵”が、自分の残した装備を寝床に置き、まるで思い出を抱くように眠っていた――。
「バカ野郎が……。そんなもん集めて、何になるんだよ……らしくねぇ。」
拳を強く握りしめたガイルの目から、ぽたりと涙が落ちる。
暗い巣の中、その雫は小さな光を反射しながら、静かに石床に吸い込まれていった。




