グレサスの報告と次の手
王に呼び出され、傷跡を帯びた姿で玉座の間に現れたグレサス。
王は深く礼をしてから言った。
「よく来てくれた。此度の戦、誠に大義であったぞ、グレサス。」
グレサスは低く短く息を吐いて返す。
「ハッ……」
王は続けて訊ねる。
「聞けば、アルバードの二大戦力が命を落としたという。今こそ、アルバードを潰す好機ではないのか?」
だがグレサスは静かに首を振り、低い声で答えた。
「今は好機ではありません。」
王座の間は静まり返っていた。カイネル王が問いただす。
「では、我らは今、何を為せばよいのだ?」
グレサスはゆっくりと身を正し、低く落ち着いた声で答えた。
「正面から殴り合うのではありません。動かず、蓄え、仕掛ける時を待つのです。」
彼は言葉を選びながら続ける。
「まずは情報戦です。直接の証拠で攻めるのではなく——信じやすい噂でじわじわと焦りを与えるのです。挑発に乗りやすい相手ほど、自ら矛先を向けるよう仕向けられます。」
王が眉を寄せると、グレサスはさらに具体的に語った。
「魔族内部には既に派閥があります。不信の種を蒔き。亀裂が深まれば、魔族は自ら分裂し、われわれはその光景を静かに見守り、最も有利な瞬間に動くのです。」
締めくくるように、彼は王をまっすぐに見た。
「要は『仕掛ける時を選ぶ』こと。アルバードとあの男が互いに疲弊した瞬間こそ、我らが介入すべき時です。今は動かず、蓄え、裂け目を広げる──それが最も確実で、犠牲を抑えた勝ち筋になります。」
王はしばらく黙った後、息を吐いた。やがて頷き、作戦の輪郭が静かに承認された。
王がふと視線を落とし、静かに問う。
「グレサス、その姿はあまりにも痛々しい。治療はしなくてよいのか?」
グレサスは切なげに、しかし揺るがぬ声で答えた。
「これは戦いの証です。傷は恥ではなく、学びの刻印。消すつもりはありません。その痕を己の糧にして、さらに強くなる──それが私の流儀です。」
王は少し顔を曇らせたが、やがて穏やかに頷く。
「ならば、その覚悟に値するよう、我らも支えよう。だが無理はするな。強さは積み重ねるものだ。壊れては意味がない。」
グレサスは短く礼をし、目を閉じて傷を確かめるように拳を握った。
彼の背には戦いの匂いが濃く残っている。だが、その目はすでに次の戦いを見据え、静かに燃えていた。




