そこにいるんだなレイズ。
目的地へと走り続けるレイズとクリス。
その先に――影がひとつ、揺れていた。
セバスだった。
そして、その広い背中にぐったりと背負われているのは……ヴィル。
「……ヴィル!」
レイズの声は震え、涙が滲んで視界が揺れる。
「よかった、無事で――!」
そう言いかけた瞬間、心の奥で理解してしまった。
ヴィルはもう、終わりに近いのだと。
クリスは思わず顔を背け、肩を震わせる。
セバスは静かに、優しく背負ったままのヴィルをレイズの目の前に見せた。
――かつては不死身のように思えたあの人が。
今は血の気を失い、儚く、ただかすかな息だけを残している。
ヴィルはわずかに瞳を開き、レイズを見つめた。
「……レイズ……」
「ヴィル! 今助けてやる! だから……だから堪えてくれ!」
必死の言葉を投げかけるが、ヴィルはどこか安らぐように微笑む。
「最後に……私を……呼んでくれ……」
「ヴィル!! いくらでも呼んでやる! ヴィル! ヴィルッ!」
嗚咽のような声が大地に響いた。
そして、レイズの唐突に――口から溢れたのは、子供の頃の記憶の呼び名。
「……おじいさま……! どうか……おじいさま……」
その言葉を聞いたヴィルは、満足そうにわずかな笑みを残す。
「あぁ……レイズ……やはり……そこに……いたのか……」
次の瞬間、力が抜け、腕も、体も、重さを失っていく。
セバスが必死に抱き留めるが、もう温もりは薄れていった。
セバスは、抱きかかえるようにしてヴィルの亡骸を見下ろした。
その顔は、どこか誇らしげで、優しさに満ちている。
「……ありがとう、ヴィル。
私は、とても光栄でした。」
その声は震えもなく、穏やかに響いた。
だが次の瞬間、セバスの身体から力が抜けていく。
「セバス様……!」
クリスは駆け寄り、そのままセバスの大きな体を抱き止めた。
涙を隠そうともしない。
ただ、溢れるままに頬を伝わせながら言葉をかける。
「ここまで……よく、連れてきてくださいました。
セバス様も……どうか、ゆっくりと……お休みください」
セバスの胸は大きく上下することはなく、ただ微かに震えていた。
――彼もまた、とっくに限界を迎えていたのだ。
それでもなお、ヴィルを最後にアルバードへ連れ帰るという使命だけを支えに、ここまで歩んできた。
その想いを果たしたセバスは、静かに、かすれた声で最後の言葉を残す。
「クリス……頼みます……」
その言葉を最後に、瞳が閉じられ、重たい身体が完全に沈み込む。
レイズは崩れ落ちるように膝をつき、声をあげて泣いた。
クリスもまた、セバスの亡骸を抱きしめたまま、涙を止めることはできなかった。
――こうして、二人の巨星は幕を閉じた。
王国と魔族を揺るがす激戦の結末は、あまりにも重く、あまりにも悲しいものとなった。




