アルバードVS王国軍
王国の軍勢はすでに臨戦態勢をとり、矛先をアルバードへと向けていた。
そこへ駆け込むように現れたディアナ。
「ディアナ様だ!」
「よくぞお戻りに!」
兵たちの歓声が一瞬あがる。しかし彼女はそれを振り切り、まっすぐに第二位騎士――デュランのもとへ駆け寄った。
「デュラン!!すぐに軍を引き返させてください!ここは戦う場所ではありません!」
切迫した叫び。だが、その言葉は重く受け止められることはなかった。
周囲の騎士たちが怒気を孕んだ声を返す。
「グレサス様が決断されたことだ!」
「王国の民はすでに被害を受けているのだぞ!」
デュランもまた、苦渋の表情を浮かべながらも首を振る。
「ディアナ君……。君も加わってほしい。我らは本気だ。退くわけにはいかない」
「ですが――!」ディアナは食い下がる。「アルバードには“ウラトス”がいるのです!あの存在を前にして戦うことは、王国にとっても危険すぎる!」
その言葉に兵たちはざわめいた。だがすぐに、誰もが首を振る。
「ウラトスがいようと関係ない!」
「今は王国の誇りをかけた戦だ!」
怒りに駆られた声が次々と飛び交う。
「グレサス様は今、この瞬間も化物どもと命を懸けて戦っているのだ!」
「ここでアルバードを落とさねば、その決死の戦いが無駄になる!」
兵たちの眼は狂気すら帯びていた。
そして一人が吐き捨てるように叫ぶ。
「ディアナ!まさか王国を裏切るつもりではないだろうな!!」
その言葉は、刃のようにディアナの胸を貫いた。
クリスは理解していた。
――本当なら、自分もヴィル様の元へ駆けるべきなのだと。
だが同時に理解していた。
ここで自分が離れれば、王国軍は一気にアルバードを呑み込む。
そうなれば、レイズ様を失うことになるのだと。
手が震えている。
理性と忠誠の狭間で、胸の奥が引き裂かれるようだった。
レイズもその震えを見ていた。
そして、自分がなにもできない現実に、奥歯を噛みしめる。
苛立ちが胸を焦がす。
――あの化物たちの戦いに加われば、力になれる。
ヴィルやセバスと共に戦えば、きっとグレサスも、ガイルも、ディアブロさえも打ち倒せる。
だがそれを選べば、アルバードに残された者たちは無事では済まない。
民も、仲間も、すべてが戦火に呑まれる。
そしてそれは、魔族との全面抗争に直結する。
それだけは――それだけは止めなくてはいけない。
分かっているからこそ、動けない。
だから二人は立ち尽くす。
怒りと、悔しさと、己の無力さに満ちたまま。
ディアナは覚悟を決めたように声を張った。
「私は王国の騎士です。王国を裏切ることはできません! ですが――私は、アルバードのレイズ様を守ると決めました!」
その言葉は静かだが揺るぎない。周囲の視線がいっせいに彼女へ集まる。
ディアナは続ける。
「王国も、レイズ様も、どちらも守ります! ここで、私と戦ってください!」
デュランは苛立ちをにじませて肩をすくめる。
「やれやれ、話が通じぬな……。わかった。貴女を斬ってでも我らは進む!」
その言葉のまま、二人は互いに剣を取って向かい合った。
離れたところでその様子を見ていたクリスは、瞳に確かな理解を浮かべる。
(ディアナが――国と渡り合うことを選んだのだ)
レイズはクリスの肩を掴み、短く頼んだ。
「ディアナを助けてくれ」
クリスは瞬時にうなずき、全速力で駆け出す。
騎士たちが見守るなか、一騎討ちが始まる。
デュランは魔力をまとって突進する。ディアナは身構え、一言だけ告げる。
「いつでも来なさい!」
デュランの一撃をディアナは軽くいなし、反撃を試みる。だが力の差は明白だった。デュランの圧が上回り、ディアナは蹴り起こされて剣を落とす。デュランはその隙に魔力の刃を成して突き刺そうとする――しかし、刃は瞬時に消え去る。死属性の加護がディアナを守ったのだ。
デュランは目を丸くし、意味が飲み込めないまま顔を歪める。刃の消えた隙を突いて、ディアナは再び剣を掴み切りかかるが、それも容易く弾き返される。デュランは冷たく言い放った。
「本当に残念だな、ディアナ」
そして斬り伏せに入ろうとしたその瞬間――轟くような爆風が場を裂いた。
クリスが突入したのだ。
駆けつけた騎士たちが一斉にクリスへ襲いかかる。だがその攻撃は、圧倒的な実力の前に次々とはじき飛ばされる。クリスの剣と体捌きは一人で複数をねじ伏せた。
ディアナは震える声で問う。
「どうして……?」
クリスは真っ直ぐに答えた。
「貴女がレイズ様を守ると決めたのと同じく、レイズ様も貴女を守ると決めたのです」
言葉に、ディアナの瞳が一層揺れる。
「私……結局、何もできなかった。中途半端で、国も、レイズ君も――」
涙が頬を伝う。だがその弱さすら、今は守るべきもののための決意へと変わっていく。
クリスはディアナを抱え、そのまま高く跳躍する。逃がす――それが彼の目的だ。背後からの追撃魔法が炸裂するが、触れた瞬間に魔法は霧散する。クリスとディアナを包む何かが、攻撃を消し去ったのだ。
デュランはその異常な現象を見て凍りつき、低く唇を噛む。
「アルバードは、重要なことを隠している……」
そして咆哮するように命じた。
「全軍、突撃だ!」
王国軍は一斉に追撃を開始する。




