優しく見守る影
レイズは、ぐすんぐすんと鼻をすすりながら肉をかき込んでいた。
涙をぽろぽろとこぼし、皿にぽたぽたと落としながら。
それでも、手を止めない。
――その姿を、扉の影からリアナがそっと見守っていた。
「レイズ様……」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(あれほどの鍛錬をなさって……それでも“軽い運動”だと虚勢を張られて……)
(当主である自覚を……確かに示されていました……)
ぽろり、と目尻から涙がこぼれた。
「……嬉しいです。私、とても嬉しいです」
震える声で、誰にも聞こえぬように呟く。
(ですから……どうか、心ゆくまでお食事をお楽しみくださいませ……)
――完全なる勘違いだった。
レイズが流している涙の理由を、リアナは一切理解していない。
肉がうますぎて止まらないのか。
それともダイエットの絶望か。
その真相など、彼女の思考の外にある。
だがその誤解は、リアナの胸に温かな確信を育てていった。
――当主様は、変わられたのだ、と。
かつてのレイズは、彼女にとって恐怖の象徴だった。
怒鳴り、命じ、食べ、笑い。
屋敷の誰もが目を逸らす存在。
そしてリアナは、理解している。
もう“あのレイズ”はいないのだと。
目の前にいるのは、
必死に汗を流し、
必死に学び、
必死に何かを掴もうとしている少年。
それが――
リアナにとって、何よりも嬉しかった。
だから彼女は、静かに涙を拭い、そっと扉から離れる。
レイズは知らない。
自分の涙が、
誰かの希望になっていることを。




