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【悪役転生 レイズの過去 】―悪役の過去を知り未来は変わる。  作者: くりょ
レイズを知る。

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悪魔の仕業だぁぁ

食事を終えると、今度はリアナではなく、リアノが部屋まで案内してくれた。


「当主様、こちらでございます」


「うむ」


レイズは失いかけていた尊厳を取り戻すように顎を引き、わざと低い声を作った。


「……ご苦労」


当主と呼ばれているのだから、それらしく振る舞わなければならない。

――とはいえ。

(当主の振る舞いなんて、知るわけねぇんだけどな……)


前世では当然、貴族でもなければ領主でもない。

ならば、とりあえず偉そうにしておけばいい。

それが今のレイズにできる精一杯の“当主らしさ”だった。


リアノに見守られながら、レイズは威厳たっぷりに自室の扉へ手をかける。


そして――。

バァァン!


堂々と扉を開け放った。


「…………」


次の瞬間。

レイズは固まった。


壁に掛けられていたらしい絵は、何かに引き裂かれたようにビリビリになっている。


カーテンは半分外れ、無残に垂れ下がっていた。

床には何をこぼしたのか、血のようにも見える赤黒い染み。

家具は乱れ、物は散乱し、足の踏み場すらまともにない。


「…………」


本当にここが当主の部屋なのか。

そう疑いたくなるほどの惨状だった。

そして何より――。

怖い。


ただ散らかっているのとは違う。

この部屋には、何かがあった。

そう思わせる不気味さが漂っていた。


レイズは無言で一歩下がる。


もう一歩。

そして――。


「いや、ホラーかよ!!」


先ほどまで必死に作り上げていた威厳が、一瞬で吹き飛んだ。


反射的に廊下へ飛び出す。


「リアノ!! 来てくれ! 部屋を……部屋を見てくれ! 悪魔の仕業だぁぁぁ!!」


「当主様!?」


情けない悲鳴を聞きつけ、リアノが慌てて駆け戻ってくる。


「どうなさいましたか!?」


「ひ、一人じゃ無理だ! とにかく見てくれ! お前も一緒に来てくれ!」


「え……?」


リアノは目を丸くした。

そして、恐る恐る尋ねる。


「……よろしいのですか?」


「何が!?」


「このお部屋に入っても……。当主様は、今まで絶対に私たちを中へ入れてくださらなかったので……」


「…………」


レイズの動きが止まった。

(……そうなのか?)


知らない。

当然だった。

ゲームでレイズ・アルバードが登場するのは、ずっと先の時代だ。

自分が知っているのは、その頃のレイズだけだ。


今、この身体が生きている幼少期。

何を考え。

誰と過ごし。

誰を嫌い。

誰を大切にしていたのか。

そんなことまで知っているはずがない。


まして、自分の部屋に誰を入れていたかなど分かるはずもなかった。


「…………」


それでも、今さら知らないとは言えない。

レイズは咳払いを一つすると、何事もなかったかのように顎を引いた。


「……今日はよい。特別だ……」


「当主様……」

なぜかリアノが感動したような顔をする。


(なんでだよ……)


ともあれ、許可を得たリアノはゆっくりと部屋へ入っていった。

レイズも、その背後からついていく。

かなり近い。

一人では怖いからである。

やがて、リアノの足が止まった。


その視線の先。

無残に引き裂かれた一枚の絵。


「…………」


リアノはしばらく何も言わなかった。

やがて、そっと口元を押さえる。


「当主様……」


声が震えていた。


「ここまで……心を痛めておられたのですね……」

「…………」


リアノの瞳には涙が浮かんでいる。

その反応を見て、レイズは初めて破れた絵をじっと見つめた。


(……なんだ?)


ただの絵ではない。

少なくとも、リアノにとっては。

そしておそらく――。

元のレイズにとっても。


(この絵……何なんだよ)


どうして破られている?

自分で破ったのか?

だとしたら、なぜ?

怒ったからなのか。

悲しかったからなのか。


それとも――見ていることさえ耐えられなかったのか。


分からない。

何一つ。

その瞬間。


レイズは妙な感覚に襲われた。

自分の部屋なのに、知らない。

自分の持ち物なのに、知らない。

目の前で泣いているリアノが何を思い出しているのかさえ、自分には分からない。


ここは確かに“レイズ・アルバード”の部屋だ。

そして今、自分もレイズ・アルバードだ。


なのに――。

(……俺は)

何も知らない。

この身体が、ここで何を見てきたのか。

何に怒り。

何に傷つき。

何を壊したのか。

その過去だけが、自分の中からすっぽりと抜け落ちている。


けれど、そんな動揺をリアノに悟られるわけにはいかなかった。


レイズはどうにか深刻そうな表情を作り、低い声で呟く。


「……あぁ。色々あったさ」

「当主様……」

「だが、それはもう……思い出してはいけない」


意味ありげに目を伏せる。

完璧だった。

少なくとも、表面上は。


(何も知らないけどな!!)


内心では全力で叫んでいた。

だがリアノは、そんなことなど知る由もない。


むしろ、その言葉を聞いて何かを決意したらしい。

涙を拭うと、力強く頷いた。


「分かりました、当主様! では今夜は、私の部屋でお休みください!」


「…………え?」


今度は別の意味で思考が止まった。


「お前の部屋で?」

「はい!」

「いや待て」

「それでしたら、私は今夜こちらで休みますので!」

「もっと待て!」


思わず素の声が出た。


「女の子をこんなホラー部屋に一人で泊められるわけないだろ!」


「ですが、当主様をこちらでお休みさせるわけにはいきません!」


「じゃあ俺は別の部屋で寝る!」

「お一人にはできません!」

「なんでだよ!」


完全に噛み合っていなかった。

レイズはリアノをこの部屋で寝かせたくない。

リアノはレイズを一人にしたくない。


互いに相手のことを考えているはずなのに、話は見事なまでに平行線を辿っている。


しばらく考え込んでいたリアノが、突然顔を上げた。

何かを思いついたらしい。


「では、当主様!」

「……なんだ?」


ものすごく嫌な予感がする。


しかしリアノは、これ以上ないほど真剣な顔で言い切った。


「私の部屋で、一緒にお休みしましょう!」

「…………」


沈黙。


「…………」


レイズはゆっくり顔を覆った。


(そうじゃないって……)


なぜ、そうなる。


いくら今の自分が子供の身体とはいえ、前世の感覚まで消えたわけではない。


異性の部屋へ招かれ。

ましてや一緒に眠る。


そんなことを当然のように受け入れられるほど、今の生活には慣れていなかった。


(ここの奴ら、なんで分かんないんだよ……)


けれど。

ちらりとリアノを見る。


「当主様?」


心の底から不思議そうな顔をしている。

そこには打算もなければ、妙な意識もない。


ただ純粋に――レイズを心配している。

それだけだった。


だからこそ、余計に分からない。


(……なんでだ?)


先ほどとは別の疑問が浮かぶ。

この部屋には誰も入れなかった。


リアノ自身がそう言った。


屋敷の使用人たちだって、以前の自分を恐れていた。


避けていた者もいた。

それなのに。


(リアノ……)


どうしてお前は、そこまでしてくれるんだ?

当主だから?

仕える相手だから?

それだけなのか?

レイズには分からなかった。


ゲームで知っている未来のレイズ・アルバードと。


今、この屋敷に残されている少年レイズの痕跡。


その間には、あまりにも大きな空白がある。


レイズはもう一度、荒れ果てた部屋を見渡した。


破れた絵。

外れたカーテン。

赤黒い染み。

そして、自分を見つめるリアノ。

全部、自分に関係している。

なのに。

何一つ覚えていない。


(元のレイズ……)


胸の奥で、初めて強く問いかける。


(お前……一体どんな奴だったんだ?)


自分が知っているのは未来だけ。


中年となったレイズ・アルバードが、ゲームの中でどうなっていたのか。

それだけだ。

けれど――。


そこへ至るまでに。

この少年に一体何があったのか。

誰と出会い。

誰を失い。

誰を傷つけ。


そして――誰に傷つけられたのか。


レイズには何も分からない。

目の前にあるのは、その答えではなく。

かつて何かがあったことを示す、痕跡だけ。

レイズは破れた絵を見つめる。


そして、その隣にいるリアノを見る。


(……俺は)


ほんの少しだけ、知りたいと思った。

ゲームの未来ではない。

攻略情報でもない。

この身体の持ち主だった――。

一人の少年。

レイズ・アルバードの過去を。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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