静かな晩餐。
食堂へと案内された時には、俺の心も体もすでにズタボロだった。
鍛錬に風呂騒動に、服の大失態……もはやこれ以上はないだろうと思っていた。
だが、その期待は無残にも裏切られる。
「…………は?」
目の前に並んでいたのは、マンガでしか見たことのないほど豪華な骨付き肉の山。
机いっぱいに並ぶ、肉、肉、肉。
席に腰を下ろし、俺は震える声で尋ねる。
「ねぇ……まさかとは思うけど……これ、俺が全部食べるの……?」
リアナはにっこりと優しく微笑んだ。
その表情は慈愛に満ちていて、そして――どこか涙がにじんでいた。
「もちろんです。当主様のためにご用意したものです。
どうぞ、私たちのことはお気になさらず……ゆっくり召し上がってください」
そう言い残し、リアナはくるりと背を向けて去っていく。
残された俺は、巨大な肉の山と向き合う。
「……あのさぁ……頼むから最後まで話を聞いてくれよ……」
小さくぼやきながら、仕方なくナイフとフォークを手に取り、ゆっくりと食事を始めたのだった。
ナイフを手に取り、恐る恐る肉へと刃を入れる。
分厚い骨付き肉の表面から、じゅわっと肉汁が溢れ出した。
「……う、うまっ」
一口かじった瞬間、口いっぱいに広がる芳醇な旨み。
その美味しさに、言葉を失う。
だが――頬を伝うのは喜びの涙ではなかった。
「……なんでだよ……」
視界が滲む。
報われない努力。
伝わらない気持ち。
笑われ、勘違いされ、結局誰にもわかってもらえない。
そんな悲しさが込み上げ、気づけばぐすん、ぐすんと鼻をすする音が食堂に響いていた。
それでも――手は止めなかった。
涙で味もわからなくなりながら、それでも必死に食べ進める。
そして最後の一切れを口に放り込んだとき。
空になった皿がずらりと並ぶ。
泣き腫らした顔で、俺は静かにテーブルへ突っ伏した。
こうして、涙と汗と肉汁にまみれながら、俺は料理をすべて平らげたのだった。




