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【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
レイズはリヴェルを知る

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選択と信じる

アルバードの城壁。その最上部から、レイズは遠く離れた戦場を睨みつけていた。


距離があるため、そこで何が起きているのかを細部まで確認することはできない。それでも分かる。遠方で何度も膨れ上がる魔力、遅れて届く轟音、時折大地を震わせるほどの衝撃。それらすべてが、あの場所で尋常ではない者たちがぶつかり合っていることを物語っていた。


そして何より、レイズには分かっている。


あそこに誰がいるのかを。

「やっぱり…………ガイルなのか!?」


遠方で、再び巨大な魔力が膨れ上がった。

その瞬間。


「ガイル……! なにしてんだよ!!!」


レイズの怒声が城壁の上へ響き渡った。

胸の奥から込み上げてくるのは、怒りだけではない。焦り、恐怖、そして理解できないという苛立ち。ガイルには勝手なことをするなと伝えていたはずだった。それなのに、あの場所では明らかに戦闘が始まっている。


しかも。

相手が悪すぎる。

ヴィル。

セバス。

ガイル。

ディアブロ。

そして――グレサス。


その名前を頭の中へ並べただけで、レイズの背中に冷たいものが走った。


ゲームの知識を持つ自分だからこそ分かる。

あそこに集まっている者たちは、ただの強者ではない。

一人ひとりが戦況そのものを変えられる存在。

そんな者たちが同じ場所で衝突している。

とんでもないことが起きている。


「レイズ様!」

隣にいたクリスが声を上げた。

「私たちも行きましょう! 今すぐに!」

クリスは既に動くつもりだった。いつでも城壁から飛び出せるよう身体へ力を込め、遠方の戦場だけを見ている。


レイズも一瞬、同じことを考えた。

クリスと自分が向かえば。

少なくとも今より状況を変えられるかもしれない。

ヴィルとセバスを援護できる。

ガイルを止められるかもしれない。

だが。

「待ってください!」


鋭い声が二人を止めた。

振り返ると、ディアナがレイズとクリスの前へ立っていた。


「クリス様……レイズ様……。行ってはいけません」

「なんだと!!?」


クリスが反論しようとする。

しかし、ディアナは退かなかった。


「あれほどの衝突です。王国が黙っているはずがありません。グレサス様まであの場所にいるのなら、なおさらです。今あちらへ向かえば、アルバード側も本格的に戦闘へ参加したと受け取られる可能性があります」


「…………」


レイズは黙った。

ディアナは続ける。


「そして、もし王国側が既に兵を動かしているのなら――ここへ来ます。グレサス様ならそう判断するはずです。」


その言葉に。

レイズの表情が変わった。


クリスもようやく遠方の戦場から視線を外し、ディアナを見る。


「……ここへ?」

「はい」


ディアナは頷いた。


「だからこそ、二人はここにいてください。もし王国の騎士たちがアルバードへ来たのなら、まず私が話します。私が交渉します。戦うためではなく、止めるために」


ディアナの声には迷いがなかった。


「彼らを説得してみせます。それでも止まらないのなら――そのときは……レイズ様とクリスさんの力が必要になります」


レイズは答えなかった。

遠くを見る。

今すぐ駆け出したい。


ヴィルとセバスのところへ行きたい。

ガイルを捕まえて、何をやっているんだと問い詰めたい。


けれど。

自分はもう、自分一人の感情だけで動いていい人間ではない。


背後にはアルバードがある。

そこに暮らす人間がいる。

使用人たちがいる。

仲間がいる。


そして。

自分がここを離れれば。

彼らを守る者が一人減る。


「…………分かった」


レイズはようやく答えた。

そして振り返る。


「リアノ」

「……はい」


リアノはすぐにレイズのもとへ近づいた。

レイズは懐へ手を入れ、そこから一本の角を取り出す。

メルェの角。

それをリアノへ差し出した。


「魔族たちに伝えてくれ。アルバードが危険に晒されている。状況がどう転ぶか分からない。だから……巻き込まれないように退いてくれって」

「…………」


リアノは角を見た。

そして。

首を横へ振った。


「嫌ですよ……?」


「リアノ」


「私は……レイズくんの傍を離れたくないです」


声は震えていた。

怖くないはずがない。


遠方から届く衝撃だけでも、この先何が起こるのか分からないことくらい理解できる。

だからこそ。

離れたくない。

レイズの傍にいたい。


だが。

レイズは何も言わず、ただリアノを見た。


その眼差しを見た瞬間。

リアノは分かってしまった。


これはお願いではない。

自分だけ逃げろと言っているわけでもない。

レイズは。

自分が守れるものを守ろうとしている。


だから。

リアノにも同じことを求めている。

――守れるものを、全力で守れ。


「…………ずるいです」


小さく呟く。

それでも。

リアノは震える手を伸ばし、メルェの角を受け取った。


「……絶対、無茶しないでください」


「分かってる」

「本当に……ですか?」

「…………たぶん」

「レイズくん」

「分かってる!」


ほんの一瞬だけ。

リアノの表情が緩んだ。

だが、すぐに角を強く握りしめる。


「……行ってきます」

「あぁ。頼む」


リアノが城壁から離れていく。

その背中を見送った直後。


「レイズくん」

今度はイザベルが前へ出た。

「私も戦うよ?」

その声に迷いはない。

「私たちを信じて。全部レイズくんとクリスだけで何とかしようとしないで。私たちにも頼ってよね?」


レイズはイザベルを見る。

そして。

周囲を見渡した。

クリス。

ディアナ。

イザベル。


そして、この場所にいるアルバードの者たち。


以前なら。


自分一人で何とかしなければならないと思ったかもしれない。

ゲームの知識を持っているのは自分だ。


未来を知っているのも自分だ。

なら自分が全部動かなければならない。


そう考えていた。

だが。

今は違う。


「もちろん」


レイズは小さく笑った。


「皆にも頼る……」


そして。

遠方の戦場へ視線を戻す。


「だからこそ……今は信じる」

「…………」

「セバスとヴィルを」


口にした瞬間。

胸が痛んだ。

信じている。

あの二人が強いことは誰より知っている。


それでも。

怖いものは怖い。

何しろ相手が悪すぎる。

ガイル。

ディアブロ。

そしてグレサス。


自分が知っている未来でも、それぞれが怪物と呼んで差し支えない者たち。

そんな存在が。

同時にあの場所へ集まっているのだ。


「レイズ様」


クリスが再び口を開いた。

「ならば……私だけでも行きましょうか?」


レイズは少し考えた。

クリスなら。

間に合うかもしれない。


いや。

クリスだからこそ、行かせれば戦況を大きく変えられる可能性がある。

だが。

だからこそ。


「…………いや」


首を横に振った。

「クリスは残ってくれ」

「ですが」

「今ここを離れる方が危険なんだ……」


レイズは城壁の外へ視線を向ける。


「ディアナの言う通りだ。あれだけ派手にぶつかっているんだ。王国側が何もしていないと考える方が不自然だ。それに……もし誰かがアルバードを狙っているなら」


そこで言葉を切った。

今。

ヴィルはいない。

セバスもいない。


そして。

クリスまでいなくなれば。


「……今が一番狙いやすい」


その言葉に、クリスも黙った。


「だから残ってくれ」


「…………承知しました」


クリスは剣から手を離した。


だが。


その視線は遠くの戦場へ向けられたままだった。


レイズも同じだった。


「セバスと……ヴィルを信じるしかない」


それは決して簡単な決断ではなかった。

信じる。

言葉にすれば、それだけだ。

だが実際には。

助けに行きたいという感情を押し殺し。

自分たちがいなくても大丈夫だと信じ。

自分たちは自分たちの役目を果たす。

それが今のレイズにできることだった。


そして。

同じ頃。


遠く離れた戦場でも。

同じような決断をしている者がいた。

ヴィルだ。


王国騎士たちの気配が、次々と遠ざかっていく。


向かう先など。

考えるまでもない。

――アルバード。

「…………」

ヴィルはそれを感じ取っていた。

グレサスが何を狙ったのかも。

今なら理解できる。

自分とセバス。

アルバードの戦力を支えてきた二人が。

同時に本拠地を離れている。


そして。

自分の目の前には。

ガイル。

ディアブロ。

背後ではセバスとグレサスがぶつかっている。


グレサスは。

この状況を好機と判断したのだ。

ヴィルとセバスをここへ縫い付け。


その間に。

王国騎士をアルバードへ送り込む。

理屈としては。

間違っていないだろう。


ヴィルの視線が、一瞬だけアルバードの方角へ向いた。


追うか。

そう考えなかったわけではない。


ここを突破して。

王国騎士たちを追う。


今なら。

まだ間に合うかもしれない。


だが。

ヴィルは動かない。


「…………」


ゆっくりと。

剣を構える。

目の前のガイルが笑う。


「どうした?アルバードのじじい?」


返事はない。

ヴィルはアルバードの方角を見ない。


もう。

見る必要がなかった。


なぜなら。

あそこには。

レイズがいる。

そして。

クリスがいる。


「…………ふっ」


ヴィルの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

グレサスは勘違いしている。

確かに。

自分とセバスはアルバードを長く支えてきた。


戦力という意味でも。

二人が大きな存在であることは否定しない。


だが。

自分たちがいなければ。

アルバードは何もできない。


そう考えているのなら。

それは違う。


あそこには。

もう。

守られるだけの者たちしかいないわけではない。


レイズがいる。

クリスがいる。

イザベルがいる。

リアノとリアナもいる。


そして。

レイズを当主として認め。

そのもとで生きることを選んだ者たちがいる。


ならば。

自分がすべきことは。

戻ることではない。


「……任せました」


誰にも届かないほど小さな声だった。

だが。

その言葉に迷いはなかった。


――レイズ。

ヴィルは剣を握る。


目の前には。

決して侮ることのできない二人の強敵。


その二人を。

ここから先へ行かせない。


それが。

今の自分の役目だ。


そして。

アルバードは。


レイズたちに任せる。

奇妙なことに

遠く離れた二つの場所で。


互いに言葉を交わすこともなく。

同じ結論へ辿り着いていた。


レイズは。

ヴィルとセバスを信じ。


だから動かない。


ヴィルは。

レイズとクリスを信じ。


だから戻らない。

互いが互いを助けに行くのではなく。

互いが互いの強さを信じて。

自分の場所に立ち続ける。


それが。

今のアルバードだった。

ヴィルは改めてガイルとディアブロを見据える。


先ほどまでより。

その表情は穏やかだった。


「さて」


剣先を静かに向ける。


「これで心置きなく……」

「……あ?」


ガイルの顔に笑みが浮かぶ。

ディアブロもまた魔力を膨れ上がらせる。


ヴィルは一歩。

前へ出た。

アルバードへ向かった王国騎士たちを追うことはしない。


追う必要もない。

自分が信じた者たちが。


あそこにいるのだから。

そしてアルバードの城壁では。

レイズもまた遠くの戦場を見つめながら。


同じように呟いていた。


「……頼むぞ、ヴィル。セバス」


その声が届くことはない。

だが。

届かなくてもいい。

互いに。


既に分かっていた。


自分が守るべき場所を。


そして。


自分が信じるべき者を。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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