メルェの真実を語る
レオナルディオは静かに息を吐いた。
もう隠す意味はない。ここまで来れば、全てを語るしかなかった。
「そうですね……どこから話しましょうか」
小さく呟く。
誰も口を挟まない。
ヴィルも、セバスも、グレサスも、そしてレイズも。ただレオナルディオの次の言葉を待っていた。
やがてレオナルディオは口を開く。
「まず最初に知るべきことがあります」
静かな声だった。だが、その一言だけで場の空気が変わる。
「イェイラ――いや、メルェの両親を殺したのは、かつてのヴィルです」
沈黙が落ちた。
誰も動かない。だがヴィルの瞳が僅かに揺れる。それだけで十分だった。
ガルシアが息を呑み、グレサスも言葉を失う。レイズはヴィルを見た。しかしヴィルは否定しなかった。ただ静かに立っているだけだった。
レオナルディオは続ける。
「そして私は、メルェをアルバードへ結び付けるための舞台を作った」
レイズの眉が僅かに動く。
「攫ったのも私です。角を折ったのも私です。そしてアルバードへ憎しみを向けさせたのも私です」
その瞬間だった。
轟音のような殺気が噴き出した。
レイズだった。
怒り、憎しみ、後悔。様々な感情が渦を巻き、空気そのものが震える。
セバスですら眉を動かし、グレサスの笑みも消えた。だがレオナルディオだけは動かない。まるで最初から覚悟していたかのように。
「ですが――私は殺していない」
静かな声が響く。
レイズの目が細くなる。
「……何だと?」
低い声だった。怒りを押し殺した声。
レオナルディオは続ける。
「私は彼女を攫った。角を折った。ボロ布を与えた。そして村の倉庫へ置いた」
誰も口を挟まない。
「私は彼女に言いました。ここで待っていれば助かる。アルバードの人間が来る。必ず救われる――と」
レイズの拳が震える。
「メルェは信じた。待ち続けた。助けが来ると、信じ続けた」
重い沈黙。
そしてレオナルディオは静かに言った。
「だが来なかった」
空気が凍る。
「アルバードの人間は来なかった。先に見つけたのは別の人間だった」
ガルシアが顔をしかめる。グレサスも黙ったままだ。
レオナルディオは遠い記憶をなぞるように続けた。
「恐怖した。化物だと叫んだ。責め立てた。石を投げた。そして罪人のように扱った」
目を閉じる。
短く息を吐く。
「そして――惨たらしく殺された」
誰も言葉を発しない。
ヴィルの瞳には深い影が宿り、レイズの拳からは血が滲んでいた。握り締め過ぎていたのだ。
レオナルディオはその様子を見ながら、ゆっくり肩を竦める。
「私は殺していない。直接は」
その瞬間、殺気がさらに増した。
だがレオナルディオは止まらない。
「ですが、全てを仕組んだのは私です」
自嘲するように笑う。
「彼女が助からないことも理解していた。人間が魔族を恐れることも知っていた。魔族が人間を憎むことも知っていた」
そして静かに告げる。
「だから利用した」
沈黙。
「私は何も特別なことはしていません。人と魔族が抱える憎しみを、ほんの少し押しただけです」
静かな声だった。
だが、その内容は狂気そのものだった。
ヴィルの拳が握られる。セバスの視線が鋭くなる。
レイズは何も言えない。
胸の奥で蘇る。
――イェイラの魂を救ってくれ。
――真実を知ってほしい。
魔族たちの願い。メルェの想い。その全てが胸を締め付ける。
レオナルディオはゆっくりとレイズを見た。
「……これが真実です」
そしてその場にいる全員を見渡す。
ヴィル。セバス。グレサス。ガルシア。そしてレイズ。
「では――これがどういう意味か」
不気味な笑みが浮かぶ。
「あなた方には分かりますか?」
沈黙。
誰も答えない。
答えられない。
なぜなら、この悲劇はレオナルディオ一人だけが生み出したものではなかったからだ。
かつてヴィルが奪った命。人間たちの恐怖。魔族たちの憎しみ。そしてレオナルディオの悪意。
その全てが絡み合い、一人の少女――メルェを殺した。
重苦しい沈黙が室内を支配する。
誰も動かない。誰も言葉を発しない。
ただ一人。
レイズだけが、砕けたメルェの角を強く握り締めていた。




