完全な敗北
レオナルディオの背筋に冷たいものが走った。
あぁ――詰みだ。
理解してしまった。
ここにいるのは化物ばかりだ。
ヴィル。
セバス。
そして――レイズ。
誰一人として、自分を逃がす気などない。
それが殺気だけで分かった。
「ど、どういうことだ!!
ガルシアが叫ぶ。
「何が起きているんだ!!」
混乱していた。
当然だ。
事情を知る者はほとんどいない。だが。
レオナルディオ自身も理解できなかった。
なぜだ?。
魔族と接触する時は姿を変えた…。
髪型も。
服装も。
声色も。
指輪すらレイバードの物へ偽物を用意した。
もし仮にレイバードであることがバレたとしても、ヴィルがレイバード…つまりイザベルに関わるものに手を出すなど無理なはず…
なぜだ…完璧だったはずだ。
痕跡など残していない。
「あり得ない……」
思わず言葉が漏れる。
「完璧だったはずだ……」
その瞬間。
レイズが口を開いた。
「隠しても無駄だ!」
冷たい声だった。
「メルェの角が全てを語っている!!」
レオナルディオは黙る。
言葉が出ない。
否定できない。
誤魔化せない。
初めてだった。
本当の意味で追い詰められたのは。
沈黙。
重い沈黙。
そしてレオナルディオはゆっくりと目を閉じた。
長く息を吐く。
観念したように。
肩の力が抜ける。
「……そうですか」
小さく呟く。
「ここまでですか」
敗北。
その言葉を誰も口にしない。
だが誰もが理解していた。
レオナルディオは負けた。
完全に逃げ場なく。
打つ手なく。
敗北した。
だからこそ。
次の言葉は誰も予想していなかった。
レオナルディオが笑ったのだ。
小さく。
静かに。
自嘲するように。
「フッ……」
グレサスが眉を動かす。レオナルディオは視線を向けた。
「そう睨まないでください」
力なく肩を竦める。
「あなたも分かっているでしょう」
そして苦笑する。
「これは私の完全敗北です」
グレサスは何も言わない。
ただ黙って見ていた。
レオナルディオは再び息を吐く。
そして。
ゆっくりとレイズを見る。
「ですが――」
その一言で空気が変わった。
ヴィルの目が細くなる。
セバスも警戒する。
レオナルディオは続けた。
「死ぬ前に…」
静かな声。
「真実を知りたくありませんか?」
沈黙。
誰も動かない。
誰も喋らない。
その中で。
レイズだけが反応した。
真実。
その言葉が胸を刺した。
脳裏に浮かぶ。血を流す魔族たち。
メルェ。
そして最後に聞いた願い。
――イェイラの魂を救ってくれ。
レイズは目を閉じる。
怒りは消えない。
むしろ増している。
本当なら今すぐ殺したい。
この男だけは許せない。
だが。
それでも。
知らなければならない。
約束したからだ。
真実を知ると。
真実を伝えると。
レイズはゆっくりと目を開いた。
そして言う。
「……いいだろう」
低く。
鋭く。
「聞かせろ」
レオナルディオを睨み据える。
「その真実をその後に…お前を殺してやる。」
空気が凍り付く。
誰も口を開かない。
その沈黙の中。
レオナルディオだけが笑っていた。
不気味に。
まるで全てを失った男とは思えないほどに。




