夕食はお祝いですよ。
ヴィルは木刀を構える俺を一瞥すると、静かに言った。
「……では、私は仕事がありますのでここを離れます。夕刻には食事をたくさん用意しておきますから、しっかり食べるように」
「ま、待て……ヴィルぬぬぬぬぬぬぅぅぅ!」
木刀を必死に抱え込んだまま、俺は引き止める。
ヴィルは振り返り、首をかしげた。
「なんでしょう?」
「その夕飯って……今日はなにが出てくるんだぁぁぁぁぁ!?」
ヴィルはほんの少し口元を緩め、嬉しそうに答えた。
「そうですね。今日はお祝いに……像を一頭、こしらえようかと」
「アホかあああああっっ!!!」
反射的に木刀をぶん投げ、全力でツッコミを入れる。
「ヴィル、頼む……ヘルシーなのにしてくれ! 俺は痩せたいんだよ!!」
頑ななまでに譲らない俺の態度に、ヴィルは眉をひそめて声を荒げた。
「そんなことをしたら餓死してしまうだろうが!!」
憤慨したまま踵を返し、足早に去っていくヴィル。
俺はその背中に叫んだ。
「……ほんとに、あんたらの感覚おかしすぎるんだよ! 俺だけ? 俺だけなのか……!?」
そうぼやきながら、先ほど投げてしまった木刀を拾い上げる。
「んぬぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅ……!」
全身を震わせ、大声で雄叫びを上げながら。
優雅さのかけらもないその姿は、しかしどこか必死で、眩しかった。