夕食はお祝いですよ。
ヴィルは木刀を構える俺を一瞥すると、静かに言った。
「……では、私は仕事がありますのでここを離れます。夕刻には食事をたくさん用意しておきますから、しっかり食べるように」
「ま、待て……ヴィルぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅ!」
木刀を必死に抱え込んだまま、俺は全力で引き止める。
ヴィルは振り返り、首をわずかにかしげた。
「なんでしょう?」
「その夕飯って……今日はなにが出てくるんだぁぁぁぁぁ!?」
ほんの一瞬。
ヴィルの口元が、わずかに緩む。
「そうですね。今日はお祝いに……象を一頭、こしらえようかと」
「アホかあああああっっ!!!」
反射的に木刀をぶん投げ、全力でツッコミを入れた。
「ヴィル、頼む……ヘルシーなのにしてくれ! 俺は痩せたいんだよ!!」
頑なな俺の態度に、ヴィルは眉をひそめ、珍しく声を荒げた。
「そんなことをしたら餓死してしまうだろうが!!」
憤慨したまま踵を返し、足早に去っていく。
俺はその背中に叫んだ。
「……ほんとに、あんたらの感覚おかしすぎるんだよ! 俺だけ? 俺だけなのか……!?」
訓練場に、虚しく声が反響する。
やれやれ、とため息をつきながら、先ほど投げてしまった木刀を拾い上げる。
「んぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅ……!」
全身を震わせ、意味のない雄叫びを上げながら素振りを始める。
優雅さの欠片もない。
だが、どこか必死で。
どこか、眩しかった。
(さっきの炎といい……あのじいさん……)
木刀を振りながら、俺はぼやく。
(絶対、俺のこと嫌いだろ……)
額から汗が流れ落ちる。
だが。
レイズは知らない。
ヴィルほど――
この少年を愛してやまない存在がいないということを。




