ヴィルの決定。
セバスは、ヴィルから命を受けるや否や、すぐに動いた。
屋敷に仕える使用人たちを一堂に集める。
その中には、訓練場でレイズを見守っていたメイド――リアナとリアノの姿もあった。
二人は姉妹であり、共にこのアルバード家に仕える者である。
整列した使用人たちは、一斉に深く頭を下げた。
場を支配する沈黙の中、セバスは低く告げる。
「……ヴィル様は、当主をお降りになった」
その瞬間、場がざわめいた。
誰もが耳を疑い、互いに視線を交わす。
「静かに…」
セバスの一喝。
厳しく、容赦のない声音に、ざわめきは一瞬で掻き消えた。
「そして――次期当主は、レイズ様とする」
再び、空気が揺れた。
使用人たちの間に、驚愕と不安が広がっていく。
それは重い波紋となり、場全体を満たしていった。
「静粛に!」
二度目の声は、先ほどよりもさらに冷たく鋭い。
「次に同じ無礼を見せる者がいれば、許しません」
場は再び静まり返った。
耳を澄ませば、誰かの息遣いすら聞こえてきそうなほどだった。
セバスは、淡々と続ける。
「執事長は、私に変わりヴィル様が務められる。そして私は、その補佐に回る。――異論は認めません…いいですね?」
空気が凍りつく。
それでも、一人の執事が恐る恐る手を上げた。
「……発言をお許しください」
「許します。」
「なぜ、そのような重大な決断を突然……イザベル様は……?」
セバスは即座に答えた。
「知りません」
場が息を呑む。
「ですが――ヴィル様が決めたことです」
その一言だけで、十分だった。
誰一人として、言葉を続ける者はいない。
ヴィルの決断がどれほど重いものか。
それがこの屋敷において、どれほど絶対に近いものか。
ここにいる全員が、骨身に染みて理解していたからだ。
深い沈黙が場を支配する。
当然だった。
レイズはこれまで、アルバード家の期待を背負うどころか、むしろ裏切り続けてきた存在。
誰もがそう認識している。
甘え。怠惰。傲慢。
そして、当主候補としてあまりにも未熟な振る舞い。
そのすべてを、使用人たちは見てきた。
だからこそ、理解できない。
なぜヴィルが。あのヴィルが。
レイズを認めたのか。
そして何より――
その事実を最も重く、最も厳しく受け止めているのは、他の誰でもないヴィル自身であるはずだった。
ならば、一体何があったのか。
何を見たのか。
何を知ったのか。
この時の彼らには、想像すらできなかった。




