主人が不在のアルバード
そうして数日を経て――
ヴィル、イザベル、そしてレイズはようやくアルバードの屋敷へ戻った。
だが、門をくぐった瞬間から、胸の奥に小さな違和感が走る。
空気が重い。
普段ならば穏やかな笑顔で出迎える使用人たちの顔が、どこか強張っていた。
慌ただしく駆け寄ってきたのはリアナとリアノだった。
二人とも息を切らし、そして同時に深々と頭を下げる。
「レイズ様、ヴィル様、イザベル様……!」
「お帰りなさいませ……! ですが……お伝えしなければならないことが……」
その声色には、ただならぬ焦りがにじんでいた。
ヴィルが眉をひそめる。
「……何があった」
リアノが震える声で告げる。
「この数日の間に……ガルシア様と、王国に連なる騎士たちが屋敷を訪ねて参りました」
レイズの背筋に冷たいものが走る。
――やはり来たか。
リアナが必死に言葉を継ぐ。
「応対に出られたのはセバス様と……クリス様でした。ですが、ガルシア様たちは……とても穏やかな様子ではなく……」
彼女の声が震え、最後は言葉にならなかった。
場に沈黙が落ちる。
重苦しいその空気を、レイズは強く握り締めた拳で切り裂くように呟いた。
「……始まったんだな」
セバスとクリスが廊下の奥から現れた。
その歩みは落ち着いていたが、どこか張り詰めた気配を纏っている。
「……まずはお疲れさまでした」
深く頭を下げるセバスに、ヴィルは鋭い視線を向ける。
「……話を聞く」
その言葉にセバスは一礼し、「ハッ」と短く返した。
そして二人は静かに歩き出し、別室へと向かおうとする。
だが、その背中に声が飛ぶ。
「待て。……俺にも聞かせろ」
レイズの低い声が、空気を割った。
セバスが振り返ろうとしたとき、イザベルも前に出る。
「……お父様が来たんですか……?」
その表情は安堵に揺れていた。
——生きている。それだけで胸の奥が震える。
だが、同時に抑えきれない疑念が胸を締め付ける。
なぜ今ここに現れたのか。なぜセバスが険しい顔をしているのか。
「私も……知りたいのです」
イザベルははっきりとそう告げた。
ヴィルは目を閉じ、短く息を吐く。
「……わかった。ならば共に聞くといい」
重苦しい空気を抱えたまま、一同は静かに部屋へと向かう。
レイズは歩みを止め、ふとクリスへ視線を向けた。
普段は冷静で、わずかな揺らぎすら見せない男。
しかし今、その表情には確かに影が差していた。
——険しい。
——重い。
口元は固く結ばれ、視線は床へと落ちている。
それは「言いたくない」「だが隠せない」という心の葛藤を映し出していた。
レイズはすぐに悟る。
クリスですら顔を歪めるほどの出来事が、この屋敷で起きたのだ。
胸の奥にざらつく不安が広がる。
「……何があった?」
問いかける声は、自然と低く強張っていた。




