ハードな世界。
レイズはぽつりと呟いた。
「……何が“イージーな世界”だよ………?」
自分は知っていた。
アルバードにはヴィルがいる。
クリスがいる。イザベルがいる。
圧倒的な実力者たちが揃っている。
だから安心していた。
どんな危機が訪こうと、彼らならどうにかしてくれる。
そう信じていた。
いや――信じ込んでいた。
だが現実は違う。
アルバードはすでに追い詰められていた。
王国の思惑。レイバードの陰謀。
魔族たちの憎悪。
数え切れない悪意が複雑に絡み合い、ゆっくりと首を締め上げている。
そして、その中心にいるのがレイズだ。
知れば知るほど理解してしまう。
本来のレイズには何もできなかった。
誰にも頼れなかった。
誰も信じられなかった。
だから最後には――あんな結末しか残らなかった。
胸の奥が重く沈む。
そして不意に、一つの疑問が浮かんだ。
(……なぜ、レイズは魔法を使わなかった?)
いや。違うな…
使わなかったのではない。
使えなかったのか…?
チュートリアルで倒されるその日まで生きていたレイズ。その人生を、俺は何も知らない。
ゲームで見ていたのは結果だけだ。
そこへ至るまでの過程など、何一つ知らなかった。
何を見て。何を失って。何に絶望したのか。
レイズという少年が何者だったのか。
俺は何も知らない。
まだ見えていない過去がある。
まだ語られていない真実がある。
だが、一つだけ理解できることもあった。
「……ここからだったんだな?」
レイズは小さく呟く。
全ての始まり。
全ての分岐。
そして全ての破滅。
あの未来へ繋がる道は、もうここから始まっていた。
ここでの選択を。ここでの判断を。
ここで出会った人間たちを。
レイズは間違えた。
いや――。
違う。
利用されたんだ。その瞬間だった。
身体が震えた。
怒り。抑えようのない怒り。
ワナワナと肩が震える。
拳が自然と握られる。
それが自分自身の怒りなのか。
それとも本来のレイズの怒りなのか。
もう分からなかった。
だが不思議と違和感はない。
まるで最初から自分の感情だったかのように自然だった。
ゲームの世界だから。
自分の人生じゃないから。
そんな言葉では片付けられない。
割り切れない。
どうしても割り切れない。
胸の奥から煮えたぎる感情が湧き上がる。
苦しいほどに。痛いほどに。
怒りが込み上げる。
レイズは視線を上げた。
ヴィルを見る。絶対的な強者。
誰よりも頼れる存在。
そう思っていた。
だが今なら分かる。
ヴィルもまた追い詰められている。
全てを背負いながら。誰にも弱音を吐けずに。
ただ一人で立ち続けている。
そしてイザベルを見る。
彼女は俯いていた。不安。恐怖。
そして傷ついた心。
レイズに拒絶されたこと。
レイバード家が関わっているかもしれないという疑惑。
メルェに起きた悲劇。
もし本当に自分の家が関係していたのなら。
その罪は自分にも無関係ではない。
そんな思いが彼女を苦しめている。
何かを言いたい。謝りたい。
否定したい。
けれど言葉にならない。
そんな苦しさが伝わってきた。
レイズは静かに目を閉じる。
そして理解する。
誰も楽をしていなかった。
誰も幸せではなかった。
俺だけが知らなかったんだ。
ゲームの向こう側で苦しんでいた人たちのことを。




