悔恨を断つ。
レイズは静かに魔族の領土の方へ歩みを進めた。
背後で呻くような声が響く。
「何をするつもりだ、レイズ!!」
ヴィルの声は怒りを含んで鋭く響く。
「レイズくん! やめよ……?」
イザベルも涙に濡れた声で訴える。
だがレイズは振り返らず、ただ前を向いたまま答えた。
「悔恨を終わらせる。……でも、滅ぼすためじゃない。事実を知るために行く」
その言葉にヴィルは目を見開き、一瞬の沈黙の後、低く呟いた。
「無謀だ……。魔族との対話は、今や死地へ飛び込むようなものだ」
「だからこそ、俺が行くんだ」
レイズの声は迷いがなく、ただ強い意志を帯びていた。
ヴィルは唇を噛み締め、深い皺をさらに刻む。
「……ならば私が行こう。お前では荷が重すぎる」
その言葉を遮るように、レイズは振り返り、真っ直ぐにヴィルを見据えた。
「違う。ヴィルはここに残ってくれ。この村の人たちが求めているのは、あんただ。いまここを安心させることができるのは...」
ヴィルはかつての少年――「自分で守る」と叫んで飛び出したあの日のレイズを思い出す。
だが、今のレイズの眼差しは、あの日とは違っていた。激情ではなく、覚悟と責任を帯びている。
「……成長しましたね....本当に....」
ヴィルの声は低く震えた。
イザベルは涙を堪えきれず、レイズの腕を掴む。
「お願い、行かないで..ね?」
レイズはその手を優しく外し、短く言った。
「必ず帰るさ。……約束しよう」
その瞬間、ヴィルは目を閉じ、長い息を吐き出した。
「わかりました……。だが覚えておいてください。その重さを決して忘れていけない。その命はもうおまえ一人のものではないのだと。」
村人たちは息を呑み、静まり返る。
誰もが理解していた。これは無謀な挑戦であると同時に、アルバードの未来を賭けた一歩なのだと。
レイズは振り返らずに歩き出す。
その背中に、イザベルの泣き声とヴィルの重い視線、村人たちの祈りが重なっていた。
――一人で行く。
村人たちは、涙で濡れた顔を上げ、ゆっくりと歩み去っていく背中を見送った。
その姿はもう、かつて村で暴れ、憎まれたあの少年ではない。
「……あれが、レイズだっていうのか……」
誰かが呟いた言葉が、静まり返った空気に重く響く。
その背中は若さを超えた決意と覚悟をまとい、まるで一国を背負う者のように強く、大きく見えていた。
村人たちの胸には、不安よりも、いつしか祈りにも似た感情が芽生えていた。
――どうか無事に帰ってきてくれ、と。




