レイズVS魔族
街道を進む二騎の馬。
空はまだ夕暮れには遠く、柔らかな光が差し込む中――その空気はどこか張りつめていた。
ヴィルは先頭に立ち、揺るぎない背中を見せる。
白髪交じりの髪が風にたなびき、ただ馬を走らせているだけなのに、まるで戦場を制する王のような威容を放っていた。
その後ろを並走するイザベルは、時折レイズを振り返る。
普段ならどこか抜けた笑みを浮かべる彼が、今は真剣な顔で馬にしがみついている。
ぎこちない手綱さばきに不安を覚えつつも、その瞳に宿る光だけは、彼女に安心を与えていた。
レイズは心の中で悪態をつきながらも必死に馬を操る。
――振り落とされるな。俺は、もう過去の俺じゃない。
強く、そう言い聞かせる。
そして三人を乗せた馬たちは、やがて森を抜け、荒野へと差し掛かる。
冷たい風が頬を打ち、遠くからはただならぬ気配が漂ってきていた。
まるで、これから起こる惨劇を予告するかのように。
三人が馬を走らせ、辿り着いたルーヴェ村――そこに広がっていた光景は、まさに地獄そのものだった。
焼け落ちた家屋からは黒煙が立ちのぼり、あたり一面に煤と血の匂いが充満している。
土の上には倒れ伏した人々が幾重にも重なり、まだ息のある者はかすかな声で助けを求めていた。
村を覆うのは恐怖と絶望。
泣き叫ぶ子供の声、逃げ惑う女の悲鳴、そして耳を劈くような獣の咆哮。
その中心に立っていたのは、魔族たちだった。
血に濡れた爪を舐め、楽しげに人間を追い立てる者。
倒れた人間を蹴り飛ばし、さらに傷口を広げて嗤う者。
彼らの瞳には憎悪と憤怒、そして底知れぬ飢えが宿っていた。
イザベルは息を呑み、震える声で「……ひどい……」と呟く。
その隣でヴィルの眼差しは鋭く細められ、老いた身とは思えぬ圧が辺りに広がる。
レイズは歯を食いしばった。
怒りが、心臓を焼くように駆け巡る。
――これが、魔族の戦いか。
村を踏み荒らす魔族たちは、三人の到来に気付き、ゆっくりと振り返る。
血に濡れた口元を歪め、牙をむき出しにしながら。
「……人間が、また来たか。」
その声は、炎と血の匂いに混じって、重く三人の耳に響いた。
刹那――ヴィルの姿がかき消えた。
次の瞬間、轟音とともに数体の魔族が斬り伏せられ、命を散らしていた。
あまりの速度に、レイズもイザベルも息を呑む。
「な、なん……」
言葉にならない声が漏れ、レイズの脳裏にクリスの言葉が蘇る。
――ヴィルは化物だ。
その言葉を、今まさに目の当たりにしていた。
だが、レイズもすぐに飛び出す。
イザベルも躊躇いながら続き、三人は血煙の中で魔族たちと相対した。
怒りに震える魔族が血の涙を浮かべて叫ぶ。
「人間は……絶対に殺す!!」
その怨嗟は刃のように鋭く、空気を震わせた。
イザベルは息を詰める。なぜ、彼らがここまで憎悪を募らせているのか――。
刹那、膨大な炎が放たれた。
高位魔法――《ニルヴァーナ》。
無詠唱で叩きつけられる紅蓮は、村ひとつを焼き尽くすほどの威力を秘めていた。
轟炎が大地を舐め、世界を赤黒く塗りつぶす。
しかし――。
「……効かねぇよ。」
炎は、レイズの身体に届く前に、ふっと掻き消えた。
煙すら残さず、跡形もなく。
魔族の瞳に恐怖が走る。
次の瞬間には、レイズの姿が目の前に迫っていた。
全力で展開された魔力壁。
それは魔族にとって絶対の防御だった。
だが。
「オラァッ!!!」
レイズの拳が、壁ごと魔族の腹を貫き――めり込んだ。
衝撃波が地を揺らし、背後の瓦礫が崩れ落ちる。
呻き声すら出せず、魔族は絶望に染まった目でレイズを見上げた。




