ヴィルとセバスの決意
セバスが静かに部屋へ入ると、ヴィルは窓辺に佇み、遠くの空を眺めていた。
「……そろそろ、頃合いですね」
老当主の口からこぼれた声は、どこか覚悟を帯びている。
セバスも深く頷き、静かに応じた。
「――えぇ。」
それは、引き継ぎの話だった。
長きにわたりアルバードを影から財政面で支えてきた執事長セバス。
そして、常に大局を見据え、方針を定めてきた当主ヴィル。
二大巨頭と呼ぶにふさわしい二人が、密かに新たな計画を立てていたのだ。
レイズには――当主となる道を。
クリスには――その影から支える道を。
二人の老人は、もう自分たちの時間が長くはないことを悟っていた。
模擬戦を終えた直後――。
セバスが静かにクリスへ声をかける。
「……クリス、新しい任務を教えます。覚悟して、ついてきなさい」
その声音は冷静でありながら、どこか重々しい響きを帯びていた。
クリスは姿勢を正し、即座に答える。
「ハッ。承知しました。ぜひご教授ください」
二人は並んで歩き出す。
戦場を支配する猛者であるはずのクリスも、セバスの背中を追うその姿には緊張と畏敬が滲んでいた。
重厚な屋敷の扉が開かれる。
セバスは一切の迷いなく中へと進み、クリスもそれに続く。
その光景を少し離れた場所から眺めていたレイズは、息を呑んだ。
(……あの二人だけで、世界を終わらせることだってできるだろ……)
思わず身震いする。
ただ強いのではない。背負ってきた歴史も、積み重ねた年月も、圧倒的な重みを纏わせている。
レイズは、自分がまだその域に遠く及ばないことを痛感しながらも――目を逸らさずに二人の後ろ姿を見送った。




