当主継承。
帰宅すると、そこには屋敷の者たち全員が並び立ち、深々と頭を下げていた。
――ようやく、誰もが正式にレイズを当主として認めた証。
その光景を前に、ヴィルは胸を張り、力強く宣言する。
「誰もが認めたはずだ――私は、レイズを当主とする!!」
重々しい声が屋敷中へ響き渡る。
レイズはその言葉を静かに受け止めた。
その意味も。
これから背負う責任も。
すべて理解していた。
それでも、不思議と迷いはない。
ほんの少し肩の重みを感じながら、苦笑を浮かべて屋敷へ歩み出す。
その背中を見つめながら、イザベルは小さく呟いた。
「……レイズ様」
従兄弟ではない。
アルバード家の当主として。
自然と、その呼び名が口をついていた。
レイズは振り返り、少し困ったように笑う。
「……なんか気持ち悪いからさ」
頭を掻きながら続けた。
「レイズくんでいいよ」
イザベルは一瞬きょとんとしたあと、思わず吹き出した。
「もうっ! せっかくの雰囲気なのに!」
屋敷中に小さな笑いが広がる。
張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。
レイズは首を傾げる。
「……え? 俺、変なこと言った?」
その一言に、使用人たちまで思わず笑みを浮かべた。
レイズは何も演じていない。
当主として認められるために、あの力を見せたわけではない。
ただ、大切な人たちを守れることを伝えたかった。
もう心配はいらないと。
もう誰も失わせないと。
その想いだけが、あの氷の世界には込められていたのだから。




