未来の傑物の影
――そして、その氷の世界は消えることなく、なおもその場に残っていた。
白銀に閉ざされた草原。
美しさと恐ろしさを同時に放つその光景に、誰もが息を呑む。
イザベルが不安そうにレイズを見つめた。
「……ねぇ、レイズくん。これ……どうするの?」
レイズは静かに振り返る。
「ん?」
「このままじゃ、お屋敷のみんな困っちゃうよ……?」
その言葉にレイズは小さく頷いた。
「……ああ…たしかにそうだな。」
そして、ゆっくりと右手を掲げる。
再び魔力が収束していく。
だが今度、掌に集まった魔力は青白くはなかった。
深く、静かな白。
――死属性。
触れるものすべてを"無"へ還す力。
レイズが静かに手を振る。
その瞬間だった。
音もなく。
白銀の世界が崩れ始める。
氷は砕けることも、溶けることもない。
ただ、存在そのものが消えていく。
まるで最初から何もなかったかのように。
数秒後。
そこには、いつもの中庭だけが残っていた。
圧倒的な力を生み出し。
そして、何事もなかったように消し去る。
その所作はあまりにも自然だった。
「……よし」
レイズは軽く息を吐く。
「じゃあ、帰るか」
それだけ言って歩き始める。
その背中は、もはやただの少年ではない。
未来に名を刻む傑物。
そう呼ぶにふさわしい風格をまとっていた。
イザベルは、その場から動けなかった。
(……今の、何……?)
胸が高鳴る。
さっき見せてくれた極大魔法。
それだけでも十分、常識を超えていた。
なのに。
今度は、それを跡形もなく消し去ってしまった。
ありえない。
魔法は残るもの…。
たとえ解除したとしても、ここまで綺麗に消えることなどない。
自然に溶けるにも時間がかかる。
なのに。
さっきまで広がっていた白銀の世界は、夢だったかのように消えてしまった。
(まだ……あるの…?)
レイズ君は。
私に教えてくれていない力を。
今見せたのは、氷の魔法じゃない。
あれは、もう一つの力。
その力がどれほど恐ろしく。
どれほど規格外なのか。
イザベルには理解できなかった。
けれど、一つだけ確かなことがある。
今のレイズは、ずっと先を歩いている。
自分の知らない知識を持ち。
自分の知らない世界を見て。
誰よりも未来へ進んでいる。
その事実だけは、痛いほど伝わってきた。
だからこそ。
イザベルは小さく微笑む。
(追いつきたい…でないと…レイズ君は一人で戦っちゃう…)
その背中へ。
少しでも近づけるように。
そう、心の奥で静かに誓うのだった。




