未来の魔法
午後。
中庭には、黙々と魔力錬成を続けるレイズの姿があった。
呼吸を整え、ひたすら魔力を練り上げる。
イザベルは時折、
「いい感じ!」
「魔力の流れが安定してるよ!」
と声をかける。
それでもレイズの集中は途切れない。
ただひたすらに魔力を積み重ねていく。
やがて額に汗が滲み始めた頃――レイズは静かに手を止めた。
「……なぁ、イザベル」
穏やかな声だった。
「前に言ってただろ?『未来の当主様の魔法を見てみたい』って」
イザベルの瞳がぱっと輝く。
「うん! 覚えてる!」
レイズは小さく笑う。
「あの時は見せられなかった。けど――今ならできる」
そう言って両手を前へかざした。
イザベルは息を呑む。
(ちゃんと発動したら……どんな魔法なんだろう)
(きっと私の知らない……未来の魔法)
期待と緊張が胸を満たしていく。
レイズは静かに目を閉じた。
魔力を極限まで圧縮する。
――集中。
空気が震えた。
空間そのものがざわめき、青白い魔力が凄まじい速度でレイズへ収束していく。
そして。
「――《アイスフィア》」
短い詠唱。
次の瞬間。
世界が変わった。
陽光に照らされていた中庭は、一瞬で白銀の世界へと姿を変える。
草木は凍りつき、大地は氷に覆われる。
息を吸うだけで肺が痛むほどの極寒。
「……っ!」
イザベルは息を呑むことしかできなかった。
これほどの魔法。
見たことも。想像したことさえない。
だが。
魔法を放ち切ったレイズは、その場へ膝をつく。
肩で荒く息をしながら、それでも笑った。
「……な」
苦しそうに笑みを浮かべる。
「これが……未来の魔法なんだよ…」
その言葉を聞いた瞬間。
イザベルの膝から力が抜けた。
その場へ座り込み、震える声で呟く。
「……ほんとに」
涙が滲む。
「かっこいい……ね」
心から溢れた、本音だった。
――その光景は屋敷からも見えていた。
白銀に染まった中庭。
空気さえ凍らせる圧倒的な魔法。
その美しくも恐ろしい景色に、誰一人として言葉を失わずにはいられなかった。
ヴィルは静かに目を細める。
「……まさか、ここまでとは」
祖父としての誇り。
そして剣士としての驚愕。
二つの感情が胸を満たしていた。
隣に立つセバスも思わず呟く。
「……ヴィル。貴方は……ここまで見えていたのですか」
長年仕えた執事が、思わず主人を呼び捨てにしてしまうほどの衝撃だった。
リアナは窓辺へ駆け寄る。
「氷の……世界……?」
驚き、誇らしさ。
そして、無事でいてほしいという願い。
様々な想いが涙とともに溢れていた。
リアノは胸元へ手を添える。
「……すごい」
震える声。
「これが……本当のレイズ君」
瞳から一筋の涙が流れる。
「どこまで……置いていかれちゃうの……」
嬉しい。
なのに寂しい。
そんな矛盾した感情が胸を締め付けていた。
クリスは拳を固く握り締める。
「やはり……ですか。」
震える声。
「レイズ様…貴方は、私などが測れる器ではない」
そして静かに続けた。
「アルバードの力は……グレイオンでは決して届かない」
その瞳には、ヴィルへ向けるものと同じ畏敬が宿っていた。
リリアナは涙を浮かべながら微笑む。
「……本当に、大きくなっちゃって」
優しい笑み。
母のような温もり。
「でも、レイズ」
「あなたは、もう一人じゃないのよ」
使用人たちもまた、誰一人として目を逸らさなかった。
畏敬。
驚愕。
そして希望
涙を流す者もいた。
その瞬間――
アルバード家の全員が悟る。
レイズ・アルバードこそ。
未来の当主にふさわしい存在なのだと。
ヴィルは静かに踵を返した。
「皆、広間へ集まりなさい。」
その一言だけで、使用人たちの空気が張り詰める。
「レイズとイザベルが戻り次第、話をする」
誰も口を挟まない。
全員が悟っていた。
これからヴィルの口から語られるのは、ただの報告ではない。
アルバード家の未来。
そのすべてを変える、一つの決断なのだと。




