成長してしまう寂しさ。
食堂に三人が揃う。
重たい空気の中で始まる食事。
イザベルは何度もレイズへ視線を向けていた。
話しかけたい。
何か言いたい。
けれど、何を言えばいいのか分からない。
目の前にいるのは、確かにレイズだ。
だが、違う。
ほんの数日前まで、自分より幼く見えていた少年が、中身は変わってもその距離感は近かったはずだ。
だけど…今はずっと遠くにいるように感じられた。
その視線に気付いたヴィルが静かに口を開く。
「イザベル。あまり見つめてはいけませんよ」
「べ、別に見てないです……よ?」
慌てて視線を逸らす。
するとレイズが苦笑した。
「まぁ仕方ねぇよな」
そう言って肩を竦める。
「今の俺、かっこいいからな」
その言葉にイザベルは思わず吹き出した。
「……いつもかっこいいじゃない…」
小さな呟き。
レイズには聞こえていないと思った。
だがヴィルだけは聞こえていたらしい。
「ええ。実に立派なことです」
誇らしげに頷く。
そのやり取りに、少しだけ空気が和らいだ。
だがイザベルの胸には、別の感情が残っていた。
いつもなら違った。
レイズは真っ赤になって否定したはずだ。
慌てて。照れて。子供みたいに。
けれど今日は違う。
落ち着いている。
冷静だ。
その姿は嬉しいほど頼もしくて――同じくらい寂しかった。
(……置いていかれちゃったみたい)
ふと、そんな考えが浮かぶ。
その瞬間だった。
「イザベル」
不意に呼ばれ、肩が跳ねる。
レイズは何でもないことのように言った。
「おまえも、すごい可愛いよな」
「――っ!?」
イザベルの顔が一瞬で真っ赤になる。
「な、な、なっ!? なんで急にそんなこと言うのよっ!!」
椅子から立ち上がりそうな勢いで叫ぶ。
だがレイズは平然としていた。
からかっている様子もない。
ただ事実を口にしただけ。
そんな顔だった。
その姿を見て、イザベルは理解してしまう。
(そっか……)
胸がきゅっと締め付けられる。
(また、成長しちゃったんだね……レイズくん)
嬉しい。本当に嬉しい。
それなのに少しだけ寂しい。
そんな複雑な感情を抱えたまま、イザベルはそっと視線を逸らした。
ヴィルはそんな二人を見つめながら、静かに目を細める。
(本当に立派になったものだ……レイズ…)
誇らしさが胸に広がる。
やがてヴィルは咳払いを一つして話題を変えた。
「それで、午後はどうするつもりで?」
レイズは迷うことなく答える。
「鍛練だ」
短い返答。
だが迷いはない。
ヴィルは満足そうに頷いた。
「そうですか。実に素晴らしいことです。ですが、くれぐれも無理はしないように」
「分かってる…。」
レイズは短く答える。
イザベルはそんなやり取りを黙って見ていた。
レイズはもう前を向いている。
悲しみも怒りも抱えながら、それでも進もうとしている。
魔法の知識も。
戦う術も。
必要なものを次々と身につけている。
自分が教えられることも、少しずつ減っている。
そう思うと胸の奥が少しだけ苦しくなった。
その時だった。
「――そうだな、イザベル」
レイズがこちらを見る。
「この後、よろしく頼む」
真っ直ぐな声。
イザベルの胸が大きく跳ねた。
一瞬で曇りが吹き飛ぶ。
「も、もちろんだよ!?」
思わず声が上ずる。
けれど止められない。
嬉しかった。
まだ自分を必要としてくれている。
その事実が何より嬉しかった。
一方レイズは、そんなイザベルを見て小さく笑う。
そして視線を料理へ向けた。
(……いや、もうお腹いっぱいなんだけどな)
心の中でぼやきながら、静かにフォークを手に取った。




